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徽宗皇帝のブログ

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ベルコ方式という究極の「労基法脱法システム」




葬祭大手ベルコの「異様」な組織 副業時代のブラック企業戦略とは?


 昨年(2018年)9月末、札幌地裁で争われた労働事件で、非常に重要な判決が出されたことをご存知だろうか? 


 冠婚葬祭業を営む最大手のベルコが、労働組合を結成した労働者を「事実上」解雇したことを受けて、労働者側が訴えを起こした裁判で、裁判所は解雇を認める判決を下したのだ。


 労働者が労働組合を結成したことを理由に、会社がその労働者を解雇することは、「不当労働行為」という違法行為である。もしこれが許されてしまうなら、残業代不払いやパワーハラスメントなどの告発は、簡単に封じ込められてしまうだろう。


 だが、今回の事件では、それが裁判で認められてしまった。そこには重大な問題を孕む「からくり」がしかけられていたのだ。


 この事件は少々問題が入り組んでいるが、日本企業で働く多くの会社員にとって非常に重大な意味を持っている。


 政府は今後、「雇用」を減らし、業務委託契約への切り替えを大々的に進めていくというが、同社の労務管理は、まさに、「副業時代の脱法戦略」ともいうべきものだからである。


 今回の記事では、葬儀大手企業であるベルコの労働問題と、本判決が日本社会に与える影響について、警鐘を鳴らしていきたい。

長時間労働と過酷なノルマ

 まず、ベルコで働いていた原告側の労働者たちが、どのような環境で働いていたのかを紹介しておこう。


 株式会社ベルコは、会員から毎月「互助会費」と呼ばれる掛け金を集め、結婚式や葬式のサービスを提供している。そこで働く労働者たちは、互助会費を払う会員を集めたり、実際の葬儀を取り仕切ったりするなどの仕事を担っていた。


 全ベルコ労働組合によると、長時間労働の問題は深刻で、休日や深夜を問わずに働いていたため、残業は毎月100時間を超えていたという。


 これは「過労死ライン」を優に超えた残業時間である。また、その分の残業代も支払われていなかった。こうした過酷な労働環境のなか、体調不良を訴え、辞めていく労働者が後を絶たなかったという。


 対価を支払わない過酷労働を強いるという点で、ベルコは典型的な「ブラック企業」だといってよいだろう。


 この過酷労働に拍車をかけていたのが、ノルマ制である。それは月に互助会への入会を6件、生命保険契約を2件、獲得するというもの。


 労働者たちは、葬儀場で葬儀を運営する仕事に加えて、こうした新規会員を増やすための「営業」の仕事もしなければならなかった。


 そして、このノルマは、給与とも密接に関係していた。労働者の給与は、「基本給+歩合給」で構成されており、基本給は葬儀施行によって、歩合給は互助会への入会獲得手数料によって得られることになっていた。


 つまり、ノルマが達成できないと、月給が減ってしまうのであり、労働者はこれによって過酷労働に駆り立てられていた。


 こうした過酷な労働は、ベルコ「本社」の業務指示に従う形で行われていたという。もし本社のやり方通りに仕事をしなかった場合には、基本給を構成する葬儀施行の仕事から外されてしまうことになっていた。


 ここからが、いよいよ本記事の本題だ。こうした違法・脱法的な働かせ方を継続させるために、ベルコは次に見るような、「異様」ともいえる体制を採っているのである。

ベルコと労働者の法律上の関係

 株式会社ベルコは、実質的に約7,000人の従業員を抱える全国規模の大企業でありながら、その正社員はわずか35人と圧倒的に少なく、全体の0.5%に過ぎない。ベルコは、労働者と直接的な雇用関係を結んでいないのである。


 図1のとおり、従業員のほとんどはベルコと業務委託契約を結んだ「支部(代理店)」と雇用契約を結んでいる。


図1 ベルコの「異様」な組織構造
図1 ベルコの「異様」な組織構造

 大企業の場合、いくつかの支店や営業所をもつことは多いが、ベルコの特徴は、その一支部ごとが労働者との雇用契約を結んでいるというところにある。


 このほか、ベルコと直接に業務委託契約を結んでいる従業員もいるようだが、何千人もの労働者は、ベルコとは直接的な法律上の関係がないように装われている。


 支社と契約しているというと、「子会社」への出向を思い浮かべる方もいるかもしれない。しかし、ベルコの場合、「支部」は委託契約の対象に過ぎないうえ、店舗ごとに細かく配置されているのである(全国224の店舗がある)。


 問題は、委託契約の対象である「支部(代理店)」を巧みに使って本社が脱法行為を行っているところだ。


 原告(労働者)側の訴えによると、実際にはこの支部(代理店)には裁量権はほとんどなく、採用や人事異動を決めたり、営業目標についての指示を出し、達成していない場合には指導するなどしていたのは、ベルコ本社であったという。


 先ほども触れたように、各支部の労働者には、互助会会員の募集や生命保険契約の獲得にあたって過大なノルマが設定されていたのだが、それが達成できない場合には、支部長の交代や、支部そのものの廃止がほのめかされていた。


 支部長には強いプレッシャーがかかり、自らの裁量で支部を運営するというよりは、本社の言いなりにならざるをえない。そして当然、そのしわ寄せは現場の労働者に及ぶのだが、そのことの責任を「支部」がとることはできない。


 ノルマの改善を訴えようにも、支部にはその権限がないからだ。それなのに、雇用関係(つまり、労働者の権利)は、支部に対してしか与えられていない。このような責任を回避するための分裂状態が、意図的に作り出されている。


 客観的にみれば、このような「支部」は実質的な派遣会社のような存在で、法律上の責任を回避するため、形式的に導入されていると考えられる。


 業務命令が直接「委託元」から発注されているという意味では、本来の雇用を脱法的に「委託」に見せかける「偽装請負」に類似した状態だともいえるだろう。


 偽装請負は、社員に対する責任を回避するために行われる違法行為である。今回のように長時間・サービス残業が行われている場合には、その法的責任を回避することが狙われると思われ、非常に悪質である。


 このような状況で、原告側は、ベルコに「使用者」としての責任があると主張し、自分たちとの雇用関係を認めさせ、そのうえで今回の解雇の無効を訴えたのであった。


 なお、労働者を雇用するこの支部(代理店)は、これもまたベルコと業務委託契約を結んだ「支社」に業務を管理されている。また、「支部」と「支社」の間にも法律上の関係は存在しない(図1参照)。


 こうして見ていくと、ベルコという大企業が、支社、支部、など、それぞれのパーツをすべて業務委託契約で束ね、実際には運営している。


 法人経営の形態としても異様であるが、これだけの大企業を、雇用契約なしにまともに運営することが、実際に可能なのかという疑問もわいてくる。

濫用された業務委託契約

 繰り返しになるが、ベルコがこのような複雑な体制を採っているのは、個々の労働者と直接の契約を結ばないことで、残業代の支払いや社会保険料の事業者負担等、さまざまな使用者責任を免れるためであると考えられる。


 過去には、牛丼チェーン店「すき家」を展開する外食大手のゼンショーが、店舗で働くアルバイトは「個人事業主」だとして、未払い残業代の支払いを拒否する事件も起きており、大きな話題を呼んだ(いうまでもなく荒唐無稽の主張であり、結局、判決がでる直前にすき家側が非を認めて和解している)。


 ベルコの場合、あいだに支部(代理店)を挟んでおり、より巧妙に業務委託契約を利用しており、その「組織的」、「計画的」な脱法行為は強く非難されるべきだろう。


 読者のなかには、労働者は支部と雇用契約を結んでいるのだから、賃金未払いなどの問題がある場合、この支部に請求すればよいのではないか、と思われる方もいるかもしれない。


 だが、月に100時間を超す残業をしなければ達成できないようなノルマを設定したり、支部の存続そのものを握っているのはベルコ本社である。


 そして、仮に支部に未払い賃金を請求したとしても、「揉め事」を起こしている支部とは、ベルコは業務委託契約を解約する可能性が高い。現に今回の事件では、ベルコは業務委託契約の解除を通して、現体制に異を唱えた労働者たちを、意のままに解雇している。


 つまり、ベルコ本体は「支部」とは法的に無関係を装うことで、あらゆる違法行為の追及を「無効化」できる仕組みを整えているのである。

労働組合員をねらった「解雇」

 そもそもなぜこの労働者たちは解雇されたのだろうか? 先ほど来、「事実上」や「解雇」と、含みを持たせた表現をしているのには理由がある。


 それは、ベルコと代理店で働く労働者との間には、先に確認したように、法律上は何の関係も結ばれていないからである。


 そのため、「別会社」であるはずのベルコ本社が、「支部」の労働者を解雇することは、本来できるはずのないことなのだ。


 これに対し、原告側の労働者たちが事実上の解雇だと主張しているのは、長時間労働や過酷なノルマが課せられているような状況を改善するために労働組合を結成しようとしたところ、その動きを察知したベルコ本社が、その労働者たちが働く支部(代理店)との業務委託契約を解除したからである。


 さらに、その際、原告ら以外の労働者は別の支部に引き取られ、継続して働くことができた一方で、労働組合を結成した労働者たちだけは、別の支部で働くことを認められなかった(図2参照。尚、同図では簡略化のため、支社を除いている)。


図2 ベルコによる「脱法」の構図
図2 ベルコによる「脱法」の構図

 これは、脱法を目的とした極めて「巧妙」な仕組みだといえるだろう。解雇の規制も、法律上認められた労働組合結成の権利も、実質的に踏みにじるものだからである。


 このような経過を見ると、ベルコが代理店で働く労働者たちの労働組合結成の動きを受けて、労働組合員を排除しようとしたことは明らかなようにみえる。

日本社会への影響

 今回の事件では、労働組合員であることが火種となっているが、このような体制が維持されたままでは、その他、いかなる理由でも、ベルコは労働者をいくらでも「解雇」できてしまう(例えば、あの支部の労働者は反抗的だ、顔が気に入らない、などといったことでも「業務委託契約」であればそれを解除することは容易である)。


 本来なら、社会的に合理的な理由がない限り、会社は従業員を簡単に解雇することはできないが、ベルコの場合、労働者と直接に雇用契約を結んでいないのだから、それができてしまう。結局、ベルコのビジネスモデル自体を問わなければ、問題は解決しないのである。


 そして、ベルコの方式が適法だと認められるのであれば、他のブラック企業もこぞってこのやり方を「模倣」しはじめることだろう。


 だからこそ、今回の裁判は日本社会全体に影響を及ぼすのである。


 では、このような脱法行為はどのように防ぐことができるのだろうか?


 ここまで書いてきた「脱法行為」に対して、法律論上は、ベルコが各支部(代理店)の労働者に、「実質的」に指揮命令を与えていたかどうかという点が論点となってくる。


 もし、支部を介していたとしてもそれは形式的なものにすぎず、労働者がベルコの指示によって働いていたとなれば、いかなる契約の形式をとっていようとも、労働法上はベルコと労働者の間に雇用関係が成立していたことになるからである。


 そのような事実が証明されれば、法律上、雇用契約が結ばれていないという点は問題ではなくなる。実質的に使用関係があると判断されるうるのだ。


 しかしながら、今回の判決では、ベルコ本社から支部(代理店)に対して細かな指示・指導があったことは認定されたものの、支部にも一定の裁量があったとして、労働者はあくまで支部と雇用関係にあるのであって、ベルコに使用者責任はないとされたのである。


 これに対して、原告側の弁護団は、「判決は、形式的な契約形式にとらわれ、動かしがたい膨大な証拠を採用せず、原告らの労働の実態を顧みることなく、被告ベルコが構築した業務委託契約の濫用に無批判に追従し、被告ベルコと原告らの雇用関係を認めようとしなかった。司法の役割の放棄と厳しく断罪せざるを得ない」と、強く批判している。


 筆者もこのような弁護団の指摘は極めて的確であると考える。


 本記事で見てきたような複雑な体制を作り上げることで、ベルコ本社は、一切使用者としての責任を取らずに、労働者に過酷な労働を強いることを手に入れた。


 この手法は、究極の「ブラック企業の技術」とさえ評価できる。今回の裁判では、こうした企業の働かせ方に歯止めをかけることが期待されたが、裁判所は原告の請求をすべて棄却した(原告側は控訴している)。


 さらにいえば、このような裁判所の判断には、現在政府が検討を進めている「雇用によらない働き方」の悪用を容認する意図があったのかもしれない。


 政府は問題の多い業務委託契約化の広がりを促進しようとしているが、ベルコと同様の方式が今後増えることが予測されている。これを、裁判所はあらかじめ、先行的に許容しているようにも見える。


 政府の(悪質な)政策との関係でも、今回の裁判例は見逃すことができない重要な意味を持っているのである。

おわりに

 今回の事件では、労働組合の連合北海道ならびに情報労連(情報産業労働組合連合会)が当初から当事者らを支援しており、連合本部も支援に乗り出すことで、大々的に裁判や労働委員会での解決が目指されている。


 こうした労働組合の支援によって、はじめて今回の事件の問題化し、社会的なイシューとなっているのだ。


 労働組合の役割が悪質なブラック企業の歯止めとして、非常に重要であることが再確認される事例であるといえよう。


 現在も類似の脱法的な扱いにある方には、ぜひ労働組合に加入して声を上げてほしいと思う(最近では保険営業の委託契約が法律違




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