あるいは、多くの親御さんたちが、
「発熱という現象を勘違いしている」
ということも、この解熱剤の濫用に拍車をかけていると思われます。
今回、過去のいくつか論文をご紹介しようと思いますが、そもそも、人類には、
「発熱恐怖症」
というものがあり、熱に対して過剰に恐怖する傾向は大昔からあったようで、これは、古代ローマの頃からあったことのようです。
(中略)
現在のアメリカの小児科での基本的姿勢は以下のようになっているようです。
シアトル小児病院ウェブサイトの「発熱 - 俗説と事実」というサイトから抜粋します。
発熱に関しての俗説とファクト
Fever - Myths Versus Facts
Seattle Children’s Hospital
多くの親たちは、発熱について誤った信念 (俗説) を持っています。彼らの多くは熱が子どもを傷つけると思っています。子どもが熱を出すと、心配して眠れなくなります。これを発熱恐怖症といいます。実際、発熱は無害であり、しばしば役に立つものでもあります。以下の事実が、子どもの発熱についての理解を深めるのに役立ちますように願っています。
俗説 すべての発熱は子どもにとって悪いものだ。
ファクト 発熱は体の免疫システムをオンにします。それらは体が感染と戦うのを助けています。 37.8° ~ 40°C の通常の発熱は、病気の子どもにとっては良いことなのです。
俗説 40℃ を超える発熱は危険だ。それらは脳の損傷を引き起こす可能性がある。
ファクト 感染症による発熱は、脳に損傷を与えません。42° C を超える温度のみが脳に損傷を与える可能性があります。しかし、体温がここまで上がるのは珍しいことで、これは、気温が非常に高い場合にのみ発生します。例としては、暑い時期に閉め切った車内に放置された子どもが挙げられます。
俗説 熱けいれん発作は誰にでも起こり得る。
ファクト 熱を伴うけいれんを起こす可能性があるのは、子どもの 4% (25人に 1人)だけです。
俗説 すべての発熱は解熱剤で治療する必要がある。
ファクト 発熱は、不快感を引き起こす場合 (子供の気分が悪くなった場合) にのみ治療する必要があります。ほとんどの発熱は、39℃ または 39.5℃ を超えるまで不快感を引き起こしません。
俗説 治療をしなければ、熱が上がり続けてしまうのでは。
ファクト それは間違いです。脳は体が熱すぎることを知っているからです。感染によるほとんどの発熱は、39.5°- 40°C を超えることはありません。 40.6° または 41.1°C になることはめったにありません。そして、これらは「高熱」ですが、無害なものです。
俗説 体温の正確な数値は非常に重要なことだ。
ファクト お子さんの見た目や行動が大切です。正確な体温は特に重要なことではありません。
俗説 「微熱」とは、37.1° ~ 37.8°C のことだ。
ファクト これらの温度は正常です。体温は一日を通して変化します。午後遅くから夕方にかけてピークを迎えます。実際には、微熱というのは 37.8° ~ 39° C のことです。
まとめ 発熱こそが、あなたのお子さんの感染を撃退していることを心に留めておいてください。発熱は善人の一人です。
ここまでです。
(中略)
インフルエンザというのは、たとえば子どもであるなら、驚くほど「似たような経過」で症状が進行して治りますが、なぜ、一様に同じように時間的経過が必要なのかといえば、普通に考えれば、
「完治するのにその日数が必要だから」
ということになります。
それを「 1日、2日縮める」ということは、不完全に治癒をもたらしているということにならないでしょうか。
ともかく、1週間かかって治る病気なら、1週間かからなければならないでしょうし、それによって初めて「完治」というものがもたらされるのだと思われます。
なお、呼吸器感染症(インフルエンザ)での解熱剤使用についての論文をレビューしたものがあり、結論としては、
「解熱剤の投与は、患者の死亡率の上昇に寄与する」
というところに落ち着くようです。
以下のレビュー論文です。
インフルエンザ感染症の治療における解熱剤の死亡率への影響:系統的レビューとメタ分析
The effect on mortality of antipyretics in the treatment of influenza infection: systematic review and meta-analyis
この結論は以下のようになっています。
結果と結論
結果
選択基準を満たしていた 3つの論文から 8つの研究をレビューした。ヒトでの研究は確認されていない。
死亡リスクは、インフルエンザ感染動物における解熱剤の使用によって増加し、固定効果プール オッズ比は 1.34だった。アスピリン、パラセタモール (※ アセトアミノフェン)、ジクロフェナク (※ボルタレン)では、リスクの増加が観察された。
結論
動物モデルでは、インフルエンザ感染に対する解熱剤による治療は死亡リスクを高める。
しかし、ヒトのインフルエンザ感染における解熱剤の使用に関する無作為化プラセボ対照試験はなく、死亡率に関するデータと、その有効性を評価するための臨床データは報告されていない。
ヒトインフルエンザ感染症における解熱剤の無作為化プラセボ対照試験が緊急に必要であり、これらは死亡率への潜在的な影響を調査するのに十分な力を持っていることを提案する。
結論としては、動物モデルでは、
> 解熱剤による治療は死亡リスクを高める。
となっています。
また、解熱剤が死亡率を高める理由についてのメカニズムの推測として、以下のようにあります。ここにも、熱は「上がらなければならない」というメカニズムが示されています。
パラセタモールは、アセトアミノフェン(日本名 カロナール)に換えています。
インフルエンザ感染症の治療における解熱剤の死亡率への影響より
解熱剤による治療がインフルエンザ感染の死亡リスクを高める可能性がある潜在的なメカニズムがいくつかある。
(中略)
動物モデルからも、解熱剤が細菌性肺炎の反応を損ない、インフルエンザの病気を悪化させる可能性があるという証拠がある。
インフルエンザウイルスと同様に、肺炎連鎖球菌の多くの菌株は温度に敏感で、熱死点は 40 ~41°C だ。
解熱剤による治療は、実験動物の肺炎連鎖球菌の死亡リスクを高める可能性があることも実証されている。マウスでは、肺炎連鎖球菌の接種前または接種直後にアスピリンを投与すると、死亡率が 2倍から 3倍に増加した。
さらに、生理的範囲内の高温(高い発熱)は、肺炎連鎖球菌に対する抗生物質の殺菌能力を高める。
ここまでとしますが、論文は、まだ続きます。
この中に、
> ヒトインフルエンザ A ウイルスのゲノム RNA 合成は 41°C の温度で阻害され
とあり、そして、通常、人間の体温は脳でコントロールされているために、 41℃は超えませんが、その「上限の熱」で初めて「ウイルスの RNA 合成が阻害される」というのは、何とも精妙な人間とウイルスの関係です。
以前、以下の記事で、中国科学院の上海生化学細胞生物学研究所の研究をご紹介したことがあります。
「 38.5℃以上の熱で、初めて免疫システムの作動がトリガーされる」
というものでした。
[記事] 熱を下げてはいけない : 感染症の治癒メカニズムが人体で発動するのは「体温が《38.5℃以上》に上がったときのみ」であることが中国科学院の研究で判明
In Deep 2019年1月19日
38.5℃に達した時に、熱ショックタンパク質 90(Hsp 90)というものの発現が増加し、そこではじめて「感染症ウイルスへの身体の戦いが始まる」ようなのです。
この研究を知った時も、「人間の体とウイルスの関係はよくできているものだなあ」と感心したものでしたが、38.5℃というより「理想は 41℃」くらいなのかもしれないですが、まあしかし、41℃はビビりますよね。特に子どもの場合は。
そのくらいまでいけば、熱を下げるしかないようにも思うのですが、しかし、
「今のコロナの中で、親御さんたちは、発熱恐怖症により、安易に子どもに解熱剤を与えて過ぎているのではないか」
という懸念があります。
38℃などの微熱で解熱剤を与えれば、それがいい結果に結びつくわけがない。
先ほどの論文でも、動物モデルですが、
> アスピリンを投与すると、死亡率が 2倍から 3倍に増加した。
というような部分もあり、解熱剤というのは、最後の最後、生きるか死ぬかというような時にだけ使うものだと認識します。
あと、「解熱剤を飲ませておけば、病気そのものが良くなるという幻想」を持つ方々が多いような気もします。
それはまったくありません。
そういう意味で、現在の子どもの死亡例には、解熱剤によるものが含まれている可能性があると考えざるを得ません。
ナイチンゲールさんは、1860年の著作『看護覚え書』で、
> 病気とは、衰弱の過程を修復しようとする自然の努力のあらわれであり
と明確に書かれていまして、症状は「治癒していることの証」だとしていました。
そして、「看護」とは、
> 自然によってすすめられる回復過程を邪魔している要素を取り除くことである。
としています。
発熱ならば、現代の「回復過程を邪魔している要素」は、解熱剤です。発熱が免疫を機能させて、発熱がウイルスの複製を阻害することがはっきりしているのに「それを邪魔している」ことになります。
現代は、あまりにも安易に解熱剤を処方し過ぎだし、服用しすぎだとも思います。
そのことが病気の完治を邪魔していることが周知されるべきだとも思います。