重度障害があり、今年夏の参院選で初当選したれいわ新選組の木村英子参院議員(54)が5日、国会で初質問に臨んだ。衆参両院事務局によると、介助が必要な重度障害のある議員が国会で質問するのは初めて。当事者の立場から、バリアフリー化の重要性を訴えた。
「障害者の立場から、質問させていただく」。車いすに座った木村氏はこの日、国会内で開かれた参院国土交通委員会に出席。秘書と介助者の手伝いを受けつつ、質問を切り出した。
高齢者や子供連れも利用できる公共施設の多機能トイレについて取り上げた。デパートで1階から7階まですべて入れなかったという体験を紹介。「車いす用トイレに多くの機能をまとめるのではなく、それぞれのニーズにあわせたトイレを複数つくるべきではないか」と政府に迫った。
木村氏は生後8カ月で歩行器ごと自宅玄関から落ちる事故で、頸椎(けいつい)を損傷。首から下はほとんど動かず、右手だけわずかに動かせる。19歳で自立するまで、施設で暮らした。話すこと以外、生活のすべてで介助が必要だ。
トイレ問題は「バリアーの多い人生で、ずっと抱えている問題」だという。質問は自身の経験を踏まえた内容にした。項目や言い回しも本人が考案。木村氏が口頭で説明するのを秘書らが書き取り、午前3時までかかることもあったという。質問作りに関わったスタッフの一人は「自分の血肉となった言葉を質問にすることを重視していた」と語る。
木村氏の質問に対し、赤羽一嘉・国土交通相は「良かれと思ってしたことが、結果として障害を持った方に良くないことはある」と述べ、「貴重な提言。ニーズに合わせた機能分散を推奨し始めたところだ」と答弁。木村氏はさらに多機能トイレのスペースの狭さも指摘し、赤羽氏から「見直すよう指示したい」との答弁も引き出した。
国会質問は議事録として残り、答弁は政府の考え方や方針を正式に示したものとして扱われる。
初質問を終えた木村氏は記者団にこう語った。「障害者の社会参加にはたくさんのバリアーがある。今日の前向きな答弁を聞き、見通しが明るい感じがした」(三輪さち子)
■新たな地平を開くもの
重い障害のある参院議員が、国会で初めての質問に立った。その意義や今後の課題などについて、障害者団体などでつくるNPO法人「日本障害者協議会」代表の藤井克徳さんに聞いた。
障害のある国会議員は、これまでもいた。しかし、常に介助を必要とするような、より困難度の高い人が障害のある人の代弁者として国会にのぞんだことは、新しい地平を開くものだ。今後の活動に期待したい。
ただ、議員として活動していく上での課題は少なくない。障害者権利条約は、「他の者との平等」をうたっており、他の議員と同じように活動できない差をなくしていくことが大事だ。
そのためには地方議会も含めて、自動ドアや車いす用トイレの整備、段差の解消といった物理的なバリアフリーを、より広げていくことが重要だ。また登院時のヘルパーや、議員本人による調べ物をサポートするための専門スタッフなど、隙間のない人的支援も必要だろう。
今回の節目を、議員活動だけでなく、一般の障害者の社会参加の促進にもつなげていくことが求められる。そのためには、福祉政策と労働政策を一体的に進めたり、(文字や話し言葉の伝達などがハードルとならない)「情報のバリアフリー」を進めたりするなど、課題は多い。
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