いよいよ臨戦態勢…プーチンはなぜウクライナ侵攻を目論むのか? その「経済的な理由」2022年2月9日 加谷珪一
 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92247

  ウクライナ情勢が緊迫の度合いを増している。米国が3000人規模の部隊を東欧とドイツに派遣するなど現地は臨戦態勢に入った。
 ロシアのプーチン大統領は、本当にウクライナに侵攻するのか、そしてウクライナ侵攻には、どの程度の勝算があるのか、経済面から分析する。
 本稿はあくまで経済的な分析なので、軍事オペレーションに関する論考ではないことついて留意の上、読み進めて欲しい。

 プーチン大統領の野望

 日本は地政学への関心が低く、国家がなぜ戦争をするのかをよく理解できていない人が多い。
 中国や北朝鮮による各種の挑発行為についても、「中国は日本を侵略しようとしている」「金正恩は狂っている」といった単純かつ感情的な反発がほとんどであり、両国の行動原理に関する分析や議論は驚くほど少ない。

 「戦争は他の手段を持ってする政治の継続である」というのは、クラウゼヴィッツの『戦争論』における有名な一説だが、現代における戦争の本質を見事に表わしている。
 一部の読者の方は不快に感じるかもしれないが、戦争というのは基本的に政治や外交の延長線上に存在するものである。

 そして、内政・外交と経済は常にセットになっており、最終的に戦争は経済との兼ね合いで決断される(この原理原則を守らなかったのが太平洋戦争であり、結果として日本は国家滅亡寸前まで追い込まれた)。

 ロシアや北朝鮮、あるいは中国といった独裁国家は、ごく一握りの指導者が物事を決断するので、(決して道徳的ではないが)行動原理は極めてロジカルである。
 「雰囲気に流されて」「やむにやまれず」といった日本でよくありがちな意思決定はほとんど行われない。したがって、ロシアがウクライナ侵攻を企てていることには明確な理由があると考えた方がよい。

 政治的に見れば、ロシアがウクライナ侵攻を試みるのは、同国の欧米化を防ぐためであることは明白だ。

 ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)加盟を目指しており、最終的にはEU(欧州連合)への参画も視野に入れている。
 以前は、ウクライナ国民の中でNATO加盟を支持する声はそれほど多くなかったと言われるが、2014年のロシアによるクリミア侵攻以後、NATO加盟を支持する声が高まっている。
 ロシアにとっては、ウクライナを失うと、東欧における影響力を大きく削がれ、欧州との力学バランスが崩れてしまう。

 かつてのロシアは、東アジアでも相応のプレゼンスを保っていたが、中国の台頭という現実を前に、事実上、東アジアでの覇権は放棄せざるを得ない状況に追い込まれている。
 ロシア経済の規模は中国の10分の1しかなく、ここまで来ると、もはや大人と子どもの違いといってよい。

 プーチン大統領は、強権的な政治スタンスで反対派を弾圧しており、東アジアに続いて東欧でのプレゼンスも失えば、国内権力基盤が揺らぐリスクがある。
 プーチン氏にとってウクライナの欧米化だけは何としても避けたいところだろう。

 ロシア経済は原油価格に依存している

 経済面に目を転じると、今回の事案には原油価格の動向が密接に関わっている。
 ロシアは米国、サウジアラビアに次ぐ世界3番目の石油産出国であり、天然ガスについては2番目の産出量を誇る。
 エネルギー利権を握っていることはロシアにとって最大の強みだが、逆にこれがロシア経済の脆弱性の原因にもなっている。

 米国を除く産油国にありがちだが、豊富なエネルギー資源を持つ国は、どうしても経済運営や国家財政が石油依存型になってしまう。
 ロシアも例外ではなく、基本的にロシア経済は原油価格に大きく左右される。ロシアのGDP(国内総生産)の約12%がエネルギー関連で占められており、輸出品目やロシア連邦政府の歳入についても半分がエネルギー関連だ。

 ロシアの実質成長率と原油価格の動きはほぼ連動しており、原油価格が上がればロシア経済が好調になり、価格が下がると低迷するという関係が見て取れる。国家財政も同様で、原油価格が上昇すると財政黒字になり、原油価格が下がれば財政赤字が増える。

 2015年には米国でシェールガスの開発が進んだことから原油価格が暴落し、ロシア経済は一気にマイナス成長に転落した。
 原油価格の下落はロシアにとって致命的な打撃を与えると考えてよい。

 ロシアの国内経済は脆弱であり、通貨ルーブルの金融市場での地位は低く、通貨安とインフレのリスクを常に抱えている。
 ロシアの2021年における名目GDPは173兆円と、米国の14分の1、中国の10分の1、日本の3分の1しかなく、その点からするとロシアはもはや小国でしかない。
 規模の小さい国が他国を相手に戦争あるいは準戦争行為に及ぶというのは、危険極まりないことだが、ロシアのような独裁国家の場合、必ずしもそうとは言い切れない部分がある。

 国家が軍事費として捻出できる金額は基本的にGDPに依存するので、経済規模の小さい国は軍事大国にはなれない。だが、国民生活を犠牲にしてもよいのであれば、税負担を重くすることで、ある程度までなら軍事費を拡大できる。
 ロシアの軍事費(2020年)は6.5兆円であり、米国(81.7兆円)、中国(26.5兆円)と比較すると圧倒的に少ない。だがロシアにおける軍事費の対GDP比は4.2%と、米国(3.7%)、中国(1.7%)よりも高く、経済力の多くを軍事費に割いている。

 ロシア政府は徹底した緊縮財政主義

 軍事費を確実に捻出するためには財政の安定化も必須となる。ロシアの財政は特殊であり、原油価格が一定水準を上回った場合、余剰の歳入は国民福祉基金(ロシアの政府系ファンド)に充当され、原油価格が下がった時には同基金から補填される。
 ロシア経済が石油依存型であることから、財政(特に軍事費)が安定するよう、政府系ファンドを通じた調整が行われているのだ。

 加えてロシア政府は国民に高い税負担を求めている。日本の消費税に相当する付加価値税の税率は20%もあり、所得税にも累進課税が導入されているほか、年金保険料は原則として給与の22%が徴収される。
 同一基準の統計がないので厳密な比較はできないが、ロシアはかなりの重税国家といってよいだろう。

 プーチン政権は徹底した緊縮財政路線を貫いており、財政赤字を回避するスタンスが明白である。その理由は、限られた経済力の中から、一定水準の軍事費を常に確保し、これを効果的に外交に応用したいとの意図があるからである。

 つまりロシアという国は、一定の軍事費を捻出するため、国内の消費経済はあえて犠牲にし、政府は徹底した財政の健全化を推し進めていると見なすことができる。
 そして、歳入の多くを原油に依存している以上、政府としては原油価格を高く維持しておきたいとのインセンティブが働く。

 以上について総合的に考えると、ロシアはウクライナ侵攻を企てることで、政治的には欧州を牽制し、ウクライナの欧米化阻止を狙う可能性が高い。
 経済的に見れば、地政学的リスクを高めておくことで原油価格の高値維持が可能となり、国家財政基盤の強化につながる。

 もっとも、現実にウクライナに侵攻してしまった場合には、軍事行動に多額の支出が必要となるほか、米国から制裁を受ければ、脆弱なロシア経済は大打撃を受けてしまうだろう。

 プーチン氏にとっては、各国がロシアはウクライナに侵攻するのではないかと戦々恐々とし、原油価格にも上昇圧力が加わる状態がベストということになる。
 したがって合理的に考えた場合、ロシアはある程度のところで妥協点を探った方が得策である。

 しかしながら、戦争というのは予想もしなかったアクシデントが引き金となることもあり、先を予想するのは難しい。次回は、ロシアが現実にウクライナに侵攻した場合、経済的にどの程度、耐えられるのか、ロシア経済全体にどのような影響が及ぶのか考察する。
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 引用以上(残りは明日に持ち越し)

 ウクライナ情勢に関する評論を、いろいろ見たが、本質的な分析としては、加谷珪一が優れている。
 プーチンのウクライナ侵攻をもたらす動機の分析としては、第一に国家経済上の理由とプーチン政権の力学が語られなければならない。

 会員登録までして見た以下の分析は、政治家個人の底の浅い思惑に帰結させていて、ピント外れだと思う。
 https://diamond.jp/articles/-/295537

 ロシア経済の血液は「原油」である。だが、2015年にアメリカのシェールオイル産業勃興によって、ロシアの経済基盤は吹けば飛ぶように軽くなった。
 そこで、サウジアラビアと結託して、シェール産業を潰すため、2020年頃から意図的な原油先物相場下落を演出してみたが、昨秋から結局、再び原油高になり、ロシアにとって不倶戴天の敵であるシェール産業が息を吹き返している。
 
gennyusouba001


 ちなみに、2月上旬は、原油先物90ドル前後が続いている。もしも、ロシアによるウクライナ侵攻が実現すれば、100ドルラインを突破すると予測する向きが多い。
 https://news.yahoo.co.jp/articles/7ea80a9986ce3de00996f2f639b3bb9815fb97a8

 そうなれば、日本でのガソリン価格は、政府介入にもかかわらずリットル200円に近づくことになる。灯油は高くなりすぎて、ほとんどの家庭がエアコン暖房に切り替える可能性もある。
 ウクライナ侵攻のもたらす世界経済への影響は、原油だけでなく、食料穀物価格にまで及んでいる。

 ロシア-ウクライナの戦雲に穀物価格まで上昇 2/7
 https://news.yahoo.co.jp/articles/f816957a64415b9dce7d81efc6adef3a7917bfb9

 天然ガスも騰落を繰り返している。ロシア大統領が戦争の可能性を示唆した直後の2日(現地時間)、天然ガス先物価格は一日で16%急騰し、100万BTU(英国熱量単位)あたり5.5ドルとなった。最近は価格がやや下落したが、戦争が実際に始まれば急騰するとみられる。ロシアは欧州で消費される天然ガスの約35%を供給する。

 ロシア-ウクライナの対立は食料価格も刺激する可能性が高い。ロシアとウクライナはカザフスタン・ルーマニアと共に世界4大穀物輸出国。特にウクライナは麦・トウモロコシが世界4位、小麦は世界6位の生産国で「欧州のパン工場」とも呼ばれる。

 戦争で黒海を通過する穀物の輸出がふさがる場合、食料価格が急騰する可能性が高い。食料価格はロシア-ウクライナの対立が反映されていなかった先月、すでに異常気象と物流問題で最高水準となった。国連食糧農業機関(FAO)によると、先月の世界食料価格指数は2011年の「アラブの春」事態以降の最高の135.7ポイントとなった。
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 一部引用以上

 佐藤優は、
 「ウクライナにはロシアの14歳以上パスポートを持った人が60万人以上いる。ロシア語を話し、自分たちをロシア人と認識し、ウクライナのロシア併合を望んでいる。」
 と語っていて、これはクリミア併合とまったく同じ事情であることを示している。

 ウクライナの面積は、日本の1.6倍、海のない国土はまとまっていて、むしろ日本より小さく見える。人口は4130万人で日本の3分の1程度だ。大半の人々がウクライナ語を話す。
 ロシア語とウクライナ語は相当な乖離があり、共通部分が多くない。ウクライナは、中世キエフ国として独立したが、「タタールのくびき」によって崩壊させられた。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A

 つまり、60万人のロシア人以外に、4000万人の混血を重ねたウクライナ人が住んでいるわけで、クリミアの様に「ロシア人が住んでいるから」と主張する意味はない。
 プーチンは、「ロシア人の権益を守る」という理由で、ウクライナを併合することはできない。それは明確な侵略行為にあたる。
 これはクリミアのように世界が容認するとは思えない。

 ウクライナ侵攻の本当の理由は、軍事侵攻をちらつかせて、世界の原油先物市場に緊張を強いることで、価格を上昇傾向にとどめたいというものではないだろうか?
 もしも、本当に軍事侵攻した場合、韓国経済と同等の規模しかないロシア経済に強力な経済制裁が加えられるなら、そのダメージは半端なものではなく、プーチン政権の経済基盤を崩壊させるものになりかねない。

 したがって、軍事侵攻をちらつかせ、一部は実行するかもしれないが、途上で欧米と対話に応じて、落としどころを設定するという予定になっているように思える。
 もし、これ以上ロシアのエネルギー価格が下がるなら、プーチン政権は確実に崩壊の一途なので、強硬手段は続けないと考えるべきだろう。

 プーチンは、数日前から「核使用」をちらつかせ始めた。
 https://www.zakzak.co.jp/article/20220209-CSNLPJYCB5IYZBTWI7U5UXEENE/

 こうなれば、軍事侵攻の深入りは間違いなく第三次世界大戦を招くことになる。プーチンが核をほのめかすことで、欧米諸国もまた核使用を俎上に上げざるをえないからだ。
 はたして、我々の目の黒いうちに第三次世界大戦が起きるのだろうか?

 私は、ロシア情勢よりも、むしろ中国の暴走を懸念している。
 習近平は知能と教養の低い人物で、彼の頭の中は、自分が始皇帝や毛沢東にならんで崇拝されるビジョンしか存在していない。
 そのために、領土強奪だけが存在価値だと思い込んでいる。実際に台湾や尖閣の強奪を実行するだろう。今日のニュースでは、ネパールの簒奪まで始めている。
 https://www.bbc.com/japanese/60299196

 オリンピックが終われば、習近平の軍事暴走が始まり、同時にロシアが動く。
 これで、本当に第三次世界大戦が勃発すると予想するのは私だけだろうか?