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徽宗皇帝のブログ

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山本太郎・伊勢崎賢治「ウクライナ問題対談」
「阿修羅」から転載。前置き的な前半を少し省略。
伊勢崎賢治はかなり正直にウクライナ問題を解説していると思う。そして、国会議員である山本太郎がこの対談をしたことは、日本人の無知な層にウクライナ問題への見方を教える意義がある、つまり啓蒙的意義があると思う。確か「長周新聞」の企画だと思うが、本当は大手新聞がやるべきことだろう。まあ、ユダ金マスコミには不可能なことだが。

(以下引用)

 山本太郎 さまざまな国で武装解除や停戦交渉など紛争解決にかかわってこられた伊勢崎さんの目からみて、今のウクライナでの停戦はハードルは高いと思われるか?


伊勢崎賢治氏

 伊勢崎賢治 大変難しい状況だ。私はウクライナには行ったことがないので本当は語りたくないが、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)との狭間にあるような「緩衝国家」に対しては昔から問題意識を持っているので、その観点から語りたい。

 三つの点を整理したい。今プーチン大統領がやっていることについて、日本のメディアは「侵略である」としている。これは国際法違反だ。「武力侵攻である」という意見もある。これは以前に米国もやっているし、旧ソ連時代にもアフガニスタン侵攻があった。私はいわゆる日本人のなかで起きている「侵略戦争か、そうではないのか」という呼び方の議論はしたくない。犠牲になる人がいることは同じだからだ。

 一番訴えなければいけないのは、侵略であろうが侵攻であろうが、今回の出来事は国際社会の限界を示している。国際法の世界では、人類は戦争が起きないようにとり決めをしながら日夜努力してきた。今は国連憲章が一番力をもっている。

 今回のケースには難しい問題があって、ウクライナという一つの国の中にロシア系の分離独立派の人たちがいて、プーチンは侵略する前にその地域の独立を認めた。その「独立」した地域(人たち)から頼まれて軍事侵攻したという形をとっている。これが国際法の一つの限界だ。国連憲章で認められている集団的自衛権にあたる、という言い分だ。


山本太郎氏

 山本 そういうケースであれば、あのようなことも可能になると…。

 伊勢崎 国際法的にはスレスレだ。それでも一つの主権国家の中に分離独立を訴える人たちがいたとして、それを軍事的に支援するというのはどうかという話はある。分離独立、民族自決といえば格好いい。植民地からの独立は、国連憲章でも保障されている権利だ。ほとんどの被植民地はそれで独立した。東ティモールもインドネシアから分離独立しようとした。当時は冷戦時代で、独立派は「アカ」と呼ばれていた。日本も米国も欧州も「あいつらはアカだからインドネシアが正しい」といっていた。

 山本 共産主義者ではなく、独立派を「アカ」と?

 伊勢崎 確かに共産主義的な理念で建国するんだということを(東ティモール独立運動の)リーダーがいっていたことはある。ソ連が支援したからかもしれない。だが、主権国家に楯突くものは「アカである」と当時はいわれた。結果的には(主要国は)応援し、(独立を)祝福もした。だから分離独立、民族自決というのは結構厄介な問題だ。あんまり無制限に認めてしまうと内戦になってしまう。

 例えば日本でも、私は沖縄の人たちにシンパシーを感じて沖縄独立運動を主張した人間の一人なのだが、そうなると日本の世論としては国家の概念が変わり、これを中国が支援したりすると内政干渉にもなりかねないという論議になる。格好いい割には大変問題のある概念でもある。

 山本 逆に分離独立という動きを偽装して…ということも可能になるということか?

 伊勢崎 その通りだ。それは逆に米国がラテンアメリカなどでやってきたことでもある。キューバなどの政権を倒すために、その国のいわゆる民主化グループを支援するという形でCIAもいろんなことをやった。リーダーの暗殺までやるわけだ。


2014年1月、親露派のヤヌコヴィッチ大統領弾劾を求める大規模な騒乱が起きたウクライナの首都キエフ。背後で米国NEDが資金援助をおこなっていた。

 ウクライナもそのなかの一つだ。米国は民主化支援という形でCIAとは別に(全米民主主義基金=NEDなどを使って)政権転覆をやった経緯がある。その一つが「オレンジ革命」(2004年)だ。これも国際法スレスレだ。

 これから国際法が発展するとしたら、私が国際社会に訴えられることは、どんな場合でも国連加盟国の施政領域で軍事侵攻はしてはいけないという国際協定を結ぶとか、どんなに悪いとみなされる国で分離独立派を応援するにしても軍事供与してはいけないというとり決めをするという方法があり得ると思う。

 山本 国際法スレスレのところで今回のような事態にまで発展してしまった。それをこの先どうやって歯止めを掛けていくかというところまで考えていかなければいけないということか。

NATOの東方拡大

 伊勢崎 私が勤める大学にもウクライナ人の教え子がいる。今泣いている。日本在住のウクライナ人は2000人ほどいる。だから、こういうことをいうのは勇気のいることだが、私が教えているのは平和構築であり、国家間の争いを止めたり、起こさないという学問だ。今プーチンが悪魔みたく扱われている。僕の教え子にとってもそうだろう。だが平和構築学の観点からいえば、なぜ悪魔が悪魔になってしまうのかという理由を考えなくてはいけない。敵にも理由がある。それは、あの地域での米国、NATOの振る舞い方にも一つの問題があるということだ。

 山本 NATOが拡大されていったことか。

 伊勢崎 そうだ。プーチンは、冷戦が終結した直後の1990年にNATOとロシアとの間には「NATOは1インチも東方(ロシア側)に拡大しない」という約束があったと主張しているが、それはあまり話題にされない。ウソじゃないかと思う人もいるのでは?

 山本 むしろ今メディアを含めて世界でロシア包囲網をつくっている感じで、向こう側(ロシア)の言い分があまり聞こえてこない。

 伊勢崎 米国の大学では公文書のアーカイブがある。米国では日本みたいに自衛隊日報を隠したり、勝手に処分したりしない。政府の文書は、それが機密文書であっても国民の財産なので政府が勝手に破棄できない。だから米国では外交文書といういわゆる密約にあたるものでも一定の年月を経ると公開される。それを大学の研究者が整理している。

 そこで「1インチも東方拡大しない」という約束があったことは証明されている。ゴルバチョフが中心になったペレストロイカ、東西冷戦の終焉というのは、別に欧米がソ連をやっつけたわけではなくソ連がみずから変革した。ソ連内には西側諸国に対する強硬派も多かったので、ゴルバチョフが潰されないように、当時のブッシュ米大統領やサッチャー首相(英国)、コール首相(西ドイツ)などが、彼を気遣って約束したことが機密文書に書かれている。当時、東西ドイツの統一をソ連が認めるかわりに、NATOはポーランドも含めてNATO加盟国にしないことなど、「1インチも拡大しない」という言葉として文章に残っている。

 そもそもNATOはソ連に対抗する軍事同盟だ。ソ連崩壊後は敵がいなくなるため必要なくなる。だから当時の首脳たちは、NATOを軍事同盟ではなく、ロシアを含めて「母なるヨーロッパ」という概念にもとづく政治フォーラムにするというビジョンがあった。だが、その約束をどんどん破って東方に拡大したのがNATOだった。



 山本 当時黙らせた強硬派の魂がそのまま今に蘇っている状態ということか?

 伊勢崎 そこでプーチンがあらわれたわけだ。ここで注目したいのは、NATOが東欧諸国を引き込むときに結んだ地位協定だ。NATO地位協定は、日米地位協定のように2国間協定ではないので主語がなく、派兵国と受け入れ国という言葉しかない。立場が逆になることもある。お互いの軍の自由を認めていない。派兵国の軍隊はすべて駐留受け入れ国の法律に従い、環境基準も訓練のやり方もすべて受け入れ国の基準に従う。このような対等なNATO地位協定を、仇敵である旧ソ連圏の国々にも与えて引き込んでいった。日本よりも好条件を与えている。これを日本人としてどう考えるか?

 山本 日本の場合は(米軍の)やりたい放題だ。でも、西側(欧米側)がロシアとの密約を反古にしてきたことから考えると、今起きていることは一方的にロシア側が悪いというだけでは片付けられない。もちろん戦争を始めてしまったのは最悪のケースだと思うが。

日本人としてどう見るか

 伊勢崎 国際法の限界としての武力行使という点。さらに悪魔化されているプーチン側にもそれなりの理由が国際関係の議論上にはあるという点。では、昨日起きたこと(ロシアの軍事侵攻)をわれわれ日本人としてはどう捉えるべきか。その視点を持つべきだと思う。

 今与党の政治家には「明日は我が身だ」「だから日米関係をもっと強くしなければいけない」とか「日本もNATOに入らなければならない」と発言するものもいる。

 だが、日本はウクライナと同じく緩衝国家という立場にある。こちらはアジアだが、同盟国の米国は1万㌔も海の彼方にあるわけだ。

 ウクライナはNATO加盟国ではない。一方、日本は米国の軍事同盟に入っている。だから緩衝国家でありながらNATOの一員としてやってきた国々のことをわれわれは勉強するべきだ。ノルウェーやアイスランドがそうだ。ノルウェーは冷戦時代にNATO加盟国として唯一ソ連と国境を接した。その隣国のフィンランドは、ロシア寄りの中立国だ。中立を掲げることによってロシアとも西側ともうまく付き合ってきた。スウェーデンもNATO非加盟国だ。

 これらの国は、日本人にはあまり知られていない工夫をしている。中立を掲げることもあるが、中立ではなくNATO加盟国のノルウェーは、ノーベル平和賞の国であり、オスロ合意など世界のいろいろな紛争の信頼醸成の場になってきた。それはロシアに接しているという地政学上の条件があるからだ。

 ノルウェーはロシアを刺激しないように、つい最近まで国内にNATO軍も米軍も入れない方針をとってきた。ノルウェーの北側にあるバレンツ海はロシアの原子力潜水艦も行き来するので、NATOや米軍にとっても重要な国だ。それでも米国の資金援助でレーダー施設をつくったとしても、それはノルウェーのものであるとし、ロシアとの国境地帯ではノルウェー軍も軍事訓練をおこなわない。そのようにしてロシアと付き合ってきた。

 これが2014年のロシアによるクリミア併合で変わってくる。ノルウェーでは史上初めて米原子力潜水艦が国内に寄港した。それまで世論は二分して争ってきたが、クリミア併合によってロシアへの恐怖心から軍事同盟強化という声が大きくなっているという。フィンランドも中立国をやめてNATOの加盟国になろうという意見も出始めている。


NATOに加盟したポーランドに配備されたミサイル防空システム(米レイセオン社製)

 山本 そうなるとロシアは孤立していく。

 伊勢崎 こういうなかで日本はどう考えるか。私は日本は緩衝国家ではなく、「緩衝材国家」と呼んでいる。自分の意志がないからだ。バルト三国も含めNATO加盟国でありながら緩衝国家の国々は、NATO地位協定だからお互いに対等だ。駐留する外国軍にも勝手なことをさせない。主権国家だからこそ緩衝国家になれる。だが、われわれ日本は自由がない。米国のいいなりになっていることがまずいということがわかっていない。自国内で外国軍が勝手なことをして、一番先に報復されるのは緩衝国家だ。だから基本は、駐留させたとしても自由なき駐留だ。これを同盟という。日本はそうではない。

 さらに、今日の報道ではチェルノブイリ原発をロシア軍が制圧した。意図はわからないが、これから長期化してロシア軍が入ってきて地上戦になれば、ウクライナ市民も応戦して市街戦になる。そのときに原発は究極の地雷となる。そこを早く制圧するというのは当然といえば当然だ。

 山本 重要拠点は真っ先に抑えられる。そうなると、この緩衝材国家(日本)には山ほど占拠されるような施設が林立している。

 伊勢崎 今は亡き私の友人が経団連幹部で原子力産業の中枢にいたが、彼は生前「原発というものはみずからに向けた核弾頭だ」といっていた。それが仮想敵国と向かい合う海岸線にずらっと並んでいるわけだ。こういう国を通常戦力で防衛するというのは無理だ。ウクライナ危機を通じて日本は学ばなければいけない。

 山本 ここまで進んでしまった事態を中断させることは難しい。こういう状態になるまでは「G7で力を合わせて!」と結構勇ましいことをいっていたが、実際に戦いが始まると一歩も踏み出せない。それをやると世界中で戦争になる。

 伊勢崎 2014年から8年もたっているのに、なぜ国際社会は米国を中心に対話によってウクライナ東部に高度な自治を認めるなどの決着を図らなかったのか、だ。

 山本 ウクライナのNATO加盟についても、「東方拡大をしない」という約束がありながら、あり得るかもしれないという広がり方はまずい。

 伊勢崎 そういうことをプーチンは利用する。プーチンは追い詰められるキャラではないとは思うが、NATOの冷戦直後から続く約束も含めて、ロシアに攻撃の口実を与えるようなことをずっと積み上げてきたのが西側でもある。冷戦終結時には西側首脳にはNATOを軍事同盟ではなく、政治フォーラムに変身させるというビジョンが明らかにあった。そこへもう一度もっていくために、何がそれを仲介できるか。国連は常任理事国の一つがかかわっているから安保理が動かない。

 山本 日本が事態をエスカレートさせないためのカードとして主体的に動ける部分はあっただろうか?

 伊勢崎 ちょっと遅い。その前に日本にその意志があるのかという話だ。この国にはプレゼンス(存在感)がない。アフガン問題に関しても、今から20年前の日本にはまだ中東和平に向けたプレゼンスがあったが今はない。

 現状に介入することは難しいが、冒頭でいったように国際法をもう一歩バージョンアップさせるべきだ。国際法のあいまいなところでこの事態が起きている。つまり集団的自衛権の発動を依頼されたという形で軍が入っている。これは明確にやってはいけないというとり決めを、国連憲章に加えるのか、国際協定みたいなものを成立させて批准国を増やしていくなどのやり方で広げる。そういうことを日本が主体になってやってほしい。

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