保険契約をめぐり、顧客に重複した契約を結ばせ保険料を二重に徴収したり、無保険状態に置いたりするなど、不利益を与える事案が多数見つかったかんぽ生命保険。これまで約9万3000件とされていた不適切な事案は、13万7000件と、これまで発表した件数より大幅に膨らんだことが明らかになった。調査対象期間を過去約2年半から5年間にまでに広げた結果、件数が大幅に膨らんだという。
7月31日、日本郵政の長門正貢社長、かんぽ生命の植平光彦社長、日本郵便の横山邦男社長は会見を開き、調査内容と今後の対応について説明した。「郵便局に対するお客様の信頼を大きく裏切った。断腸の思いだ」。長門社長は会見の冒頭でこう謝罪した。加えて「事態の深刻度をきちんと把握していなかった」と、問題発覚当初の対応の遅れがあったことを認めた。
今後の取り組みについては、これまで8月末までとしていた、かんぽ生命保険商品の販売自粛を当面の間続けることを表明。前回の会見時に語った、販売目標の引き下げを撤回し、今期は販売目標を設けないとした。来期以降も営業目標は保険販売額に重きを置くフローベースの営業目標から、保有資産に重きを置くストックベースの目標へと見直すことも明らかにした。当初は「年内をめど」としていた契約内容の調査・検証の進捗状況の報告も、9月には中間報告するとした。
「だまして売ったわけではない」
会見で質問が集中したのは、経営陣がいつこの問題について把握したかということだ。前回、7月10日の会見時、かんぽ生命の植平社長は日本郵政がかんぽ生命株を売り出した今年4月時点では不正について把握していなかったと答えていた。だがその後、政府の郵政民営化委員の岩田一政委員長が今年4月の時点で、かんぽ生命の幹部から不正事案の報告があったことを明らかにしたほか、日本取引所グループの清田瞭CEO(最高経営責任者)が同様の発言をするなど、発言に食い違いが出てきた。
これについて植平社長は「不正事案」が何を指すのかという認識のズレであることを強調。かんぽ幹部が把握していたと岩田氏らに伝えたのは、金融庁に報告していた法令違反につながる22件の契約事案であったことを明らかにした。つまり、現在問題となっている膨大な数の不適切事案ではないという。「だまして(かんぽ生命株を)売ったわけではない。(売り出しを発表した)4月時点ではまったくの白だ」。長門社長が語気を強めて発言する場面もあった。
また、横山、植平両社長が繰り返し強調したのは「保険募集の品質改善については2017年から取り組んでいた」ということ。17年1月には両社長をトップとする「かんぽ募集品質改善対策本部」を設置し、12月には営業のあり方含め総合的に取り組んでいたという。つまり、不適切な販売への対処を怠っていたわけではないというのだ。「取り組みを始めてからは苦情は減っていると認識していた。しかし、根絶できていなかった」(横山社長)。「品質の問題を向上させる取り組みをしているという状況に甘んじている部分があった」(植平社長)
取り組みを進めていたのならば、なぜ10万件を超える不適切な事案が今になって浮上していたのだろうか。取り組みが形骸化していたと、なぜ認めないのだろうか。会見のやり取りからは、こうした疑念に対する明確な回答は最後まで得られなかった。現時点で問題を受けての引責辞任はないという。「(第三者委員会による)調査結果が出てから責任問題について考える」と長門社長は今起こっている問題の事態収拾に全力を挙げると語った。
問題がどのような形で幕引きされるのかは依然不明瞭だ。事態収拾は長期化の様相を呈している。
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