厚生労働省HPより
新型コロナの感染爆発が止まらず、東京都では医療崩壊が叫ばれているなか、菅政権がまたも信じがたい方針を打ち出そうとしている。新型コロナの感染症法上の扱いを、結核やSARSなどと同じ「2類」相当から季節性インフルエンザと同等の「5類」にまで緩和しようと検討をはじめたと報じられているからだ。
きのう11日も東京都では重症者が197人と過去最多を更新した。そんな最中にインフルエンザと同等にまで扱いを引き下げることを検討するとは、一体何を考えているのか。
田村憲久厚労相は10日の閣議後会見で、今回の扱いの見直しについて「ワクチン接種が進んだ場合。いまこれから変わるわけではなく、状況変化に合わせて扱いを変える検討を進めるべきだということ」などと述べたが、ワクチン不足によって接種したくても接種できない40〜50代の重症化が問題になっているのに、悠長に「ワクチン接種が進んだ場合」の検討をしている場合ではないだろう。
というか、ここまで感染爆発が全国に広がっているなかで、5類に引き下げ検討というニュースを流すことの危険性がわかっているのか。ただでさえ、東京五輪の影響で人流抑制ができていないのに、「コロナはインフルエンザと変わらない」という間違った認識が広がり、さらに感染拡大を助長することは確実だろう。
実際、この「2類相当から5類相当へ見直し」というニュースが報じられるや否や、「コロナはただの風邪」と言い続けてきた連中が勢いづいて、賛同意見が続出している。
たとえば、菅義偉首相や安倍晋三・前首相とも面会をし、「コロナはインフルエンザ並」などという主張を繰り広げてきた大木隆生・東京慈恵医大学教授や、元厚労省医系技官である木村盛世氏は「Better late than neverとは言え遅すぎ」「より早い段階で引き下げが行われるべきだった」などとコメント。さらに、ホリエモンこと堀江貴文氏も〈ほんと、やっとか、ですな〉とツイートし、以前から繰り返し5類引き下げを唱えてきたブラックマヨネーズの小杉竜一も『バイキングMORE』(フジテレビ)で「メリットしか感じない」と発言した。また、かねてより5類引き下げを主張してきた三浦瑠麗氏は、7月29日にも5類引き下げを主張し〈恐怖心を煽って理解が得られるフェーズは終わっています〉とツイートしていた。
大木教授や木村氏は「コロナはインフルエンザと変わらない」などと発信してきた“トンデモ系”であり、ホリエモンや三浦氏はコロナを過小評価してきた有名人の代表格だが、そうした面々がここぞとばかりに「コロナを5類相当にすべき」「5類なら、保健所崩壊、コロナ受入れ病院の医療逼迫が一気に解消」などと主張しているのだ。
まったく何を言っているのか。もし、こうした面々の主張どおりに新型コロナが季節性インフルエンザと同等の5類相当の扱いになれば、「医療逼迫が一気に解消」どころか、いま以上のとんでもない感染爆発、医療崩壊を起こし、手がつけられない状況に陥るだろう。こういう危険な扇動に騙されないためにも、改めて「5類引き下げ」の何が問題なのか、どういう恐ろしいことが起きるのかを解説しておこう。
5類に引き下げられれば、感染者に外出の自粛要請も出せなくなり、就業制限もかけられなくなる
まず、大前提として「5類引き下げ」を主張する人の多くが「コロナはインフルエンザ並み」などと言うが、季節性インフルエンザの死亡者数は毎年3000人前後とされているのに対し、この約1年半のあいだにコロナで亡くなった人は国内で1万5000人を超えている。また、京都大学iPS細胞研究所所長でノーベル賞受賞者の山中伸弥教授は「私が知る限り、人類が経験した呼吸器疾患のウイルスで、最大の感染力」と警鐘を鳴らしている。そもそも「インフルエンザ並み」に扱える感染症ではない。
政府をはじめ「5類」への引き下げを訴える者たちが主張するのが、「2類は入院勧告の対象で軽症・無症状でも入院措置となり医療機関に負担がかかっている」というものだが、周知のとおり、2類相当の現在でも軽症・無症状者は必ず入院措置がとられているわけではないし、重症患者や重症一歩手前の患者の増加によって入院すべき状態の患者が入院できないという状況に陥っている。いま入院勧告の対象から新型コロナを外したところで入院すべき患者が減るわけではないのだ。
さらに、前出の木村氏は「感染者数が増えてくれば、全てを把握しなければならない保健所が回らなくなってしまう。また、医療機関でも防護服に身を包んで陰圧室という特別な部屋で診ることが原則になっているし、患者を移動させる際にはいちいち消毒をし、濃厚接触者をチェックしなければならない」などと述べて5類相当への引き下げを主張しているが、すでに東京などでは保健所も感染経路の調査まで手が回らなくなっている。だいたい、木村氏が現在のデメリットとして挙げている「防護服着用で陰圧室での診察」や「いちいち消毒」、「濃厚接触者のチェック」は院内感染や市中感染を広げないために必要なものばかりだ。
しかも、このほかにも、5類に引き下げられれば、感染者に対して、外出の自粛要請も出せなくなり、就業制限もかけられなくなる。そうなれば感染がさらに広がって新規感染者数は増加し、医療逼迫に拍車をかけることになるのは間違いない。5類に引き下げることがいかに危険か、という話だろう。
さらに、5類への引き下げにはもっと大きな問題がある。それは、公費で賄われている入院・治療費に自己負担が生じることだ。たとえば、国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医である倉原優氏は「Yahoo!個人」の記事でこう指摘している。
〈5類感染症にした場合、検査費用(PCR検査、画像検査、血液検査など)、治療(例:レムデシビルは5日治療で約38万円の薬価)、酸素投与、人工呼吸管理などは最低3割負担の支払いになります。医療費が高額になるため、おそらく高額療養費制度を用いることになりますが、それでも「えっ、こんなに高いの!」とビックリする自己負担額になることは間違いありません。〉
政府は医療費の公費負担を減らすことしか頭にない 倉持仁院長も「お金の面だけでも恐ろしい」と警告
また、入院対象を重症者らに限定する方針を打ち出した菅首相と小池百合子都知事に「2人とも至急お辞めになったほうがいい」と発言して大きな話題となった「インターパーク 倉持呼吸器内科」の倉持仁院長も、このようにツイートしている。
〈今2類→5類になれば、コロナ→家にいてください、希望者お金1-4万払えれば抗体カクテル療法、レントゲンCT撮って5000円自己負担。隔離も自己責任、会社にも普通に出社。ワクチンも自己負担。結局かかったらすべて自己責任でとなる。入院などしたらもっとかかる。お金の面だけでも恐ろしい事。〉
そして、5類への引き下げによってコロナの入院・治療費が高額になれば、倉持院長が述べているように、症状があっても経済的な理由から検査を受けたり病院を受診することを避ける人が出てくる。そうなると、容体急変による命の危険も高まり、何より感染拡大は食い止めようにも手が施せない状況になるだろう。
つまり、医療や保健所の逼迫を解消するには、5類への引き下げではどうにもならないどころか、むしろ感染を拡大させてしまい、さらなる医療崩壊を招くことになるのだ。医療や保健所の逼迫を解消しようと言うのなら、必要なのは5類引き下げではなく、検査の拡充、保健所機能の強化、病床のさらなる確保しかないのだ。
ところが、政府はこのような感染拡大を招く5類引き下げを検討するだけではなく、この期に及んでも医療費カットのために全国の病院の病床数をさらに1万床削減し、削減した病院に消費税を使って“ご褒美”の補助金を支払うという信じられない政策を撤回することもなく推進している。ようするに、菅政権が5類引き下げの検討をはじめたのもこれと同じで、医療崩壊という惨事に陥っている最中にも、コロナ医療費の公費負担を抑え込むことを狙っているのである。
いや、それだけではなく、政府には「コロナはインフルエンザ並み」とすることで国民の警戒感を緩和し、経済活動を優先したいという思惑もある。実際、昨年の夏にも5類への引き下げが検討されたが、その際、内閣官房の幹部は「新型コロナに対する国民のイメージを変え、消費拡大につながる可能性がある」(読売新聞2020年8月26日付)と語っていたからだ。
救えたはずの命が救えないという事態が現実に巻き起こっているというのに、新型コロナの脅威を矮小化しようとする菅政権と、それを支持するトンデモな面々……。だが、こんな暴挙をいま許せば、この国は医療崩壊だけではなく社会が崩壊することになるだろう。くれぐれも騙されてはいけない。
(編集部)
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