参
藤吉郎に縁談が持ち込まれたのも、彼の名が売れ始めたことの証明だろう。相手は、大した家柄ではないが一応は武士であり、素性不明の藤吉郎から見れば破格の出世とも言うべき相手である。藤吉郎はその縁談を承知した。相手の娘の器量は十人並み以下といったところであり、美女好みの藤吉郎の好みに合うはずはなかったが、この結婚によって彼は正式な武士となり、一応の確固とした格式が得られるのである。
相手の娘から見ればこの結婚はとんだ災難とでもいうべきだろう。世の中に男は数あれど、よりによってこんな猿みたいな男と結婚しなくてはならないのだから。
しかし、親の言いつけに逆らうほどの気持ちも無く、結局は結婚することになった。その事を後では満足に思いもしたはずだ。すなわち、後の北の政所こと、ねねである。
相手の男、藤吉郎は、実際会ってみると、案外優しく、また、他の男にはない何かを持っていそうでもあった。
「わしみたいな男と一緒になって、残念だと思っているだろうな。いや、隠さんでも良い。わしが女なら、わしだってそう思う。しかし、わしが他の男に及ばんのは、この見かけだけだ。中味は誰にも負けん。頭は負けんし、度胸だってある。望みも高い。わしと一緒になったことを、けっして後悔はさせんからな」
そう言って、藤吉郎はねねを抱いた。ねねは男のその言葉に何とも言えない思いやりを感じて、初めてこの結婚を良しとした。
藤吉郎に縁談が持ち込まれたのも、彼の名が売れ始めたことの証明だろう。相手は、大した家柄ではないが一応は武士であり、素性不明の藤吉郎から見れば破格の出世とも言うべき相手である。藤吉郎はその縁談を承知した。相手の娘の器量は十人並み以下といったところであり、美女好みの藤吉郎の好みに合うはずはなかったが、この結婚によって彼は正式な武士となり、一応の確固とした格式が得られるのである。
相手の娘から見ればこの結婚はとんだ災難とでもいうべきだろう。世の中に男は数あれど、よりによってこんな猿みたいな男と結婚しなくてはならないのだから。
しかし、親の言いつけに逆らうほどの気持ちも無く、結局は結婚することになった。その事を後では満足に思いもしたはずだ。すなわち、後の北の政所こと、ねねである。
相手の男、藤吉郎は、実際会ってみると、案外優しく、また、他の男にはない何かを持っていそうでもあった。
「わしみたいな男と一緒になって、残念だと思っているだろうな。いや、隠さんでも良い。わしが女なら、わしだってそう思う。しかし、わしが他の男に及ばんのは、この見かけだけだ。中味は誰にも負けん。頭は負けんし、度胸だってある。望みも高い。わしと一緒になったことを、けっして後悔はさせんからな」
そう言って、藤吉郎はねねを抱いた。ねねは男のその言葉に何とも言えない思いやりを感じて、初めてこの結婚を良しとした。
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