日米地位協定の改定を主張する沖縄県の玉城デニー県政は、米軍が駐留する欧州各国で、米軍の地位協定や基地の管理権などを調査した報告書をまとめた。2017年からドイツ、イタリア、イギリス、ベルギーの4カ国を調査した。日本は米国と安全保障条約、地位協定を結んでいるが、4カ国は北大西洋条約機構(NATO)とNATO軍地位協定を締結。各国とも補足協定などで米軍に国内法を適用して活動をコントロールしており、米軍の運用に国内法が適用されない日本との差が明確になった。(政経部・銘苅一哲)
<ドイツ>補足協定で国内法適用
1959年、国内に駐留する外国軍隊の地位や基地使用に関する「ボン補足協定」を締結した。ただ、独側にとって領域や国民の権利の保護などの点で不利な点が多かった。
80年代に環境や建築、航空などの国内法を外国軍に適用すべきだとする世論が高まった。88年には外国軍の航空機事故が相次いだ。
90年の東西統一を経て、国民世論を背景にNATO軍を派遣する各国に協定の改定を申し入れた。この結果、93年に米軍への国内法適用を強化する大幅な改定を実現した。
州や地方自治体が基地内に立ち入る権利を明記し、緊急時は事前通告なしの立ち入りも認めさせた。米軍の訓練も独側の許可、承認、同意が必要となっている。
<イタリア>米軍事故受け権限持つ
1954年に米国との基地使用に関する協定を締結。98年に米軍機がロープウエーを切断する事故が起き、20人の死者が出たことで反米感情が高まった。米伊は米軍の飛行訓練に関する委員会を立ち上げ、米軍機の飛行を大幅に軽減する報告書がまとめられた。現在、米軍の活動はすべて国内法を適用させている。
米軍は訓練などの活動を伊軍司令官へ事前通告し伊側と調整した上で承認を受ける。事故発生時の対応も、伊軍司令官が米軍基地内のすべての区域、施設に立ち入る権限を持っている。
県が現地調査で面談したランベルト・ディーニ元首相は「米国の言うことを聞いている『お友達』は日本だけ」と指摘。地位協定の問題は政治家が動く必要があるとした。
<イギリス>駐留軍法を根拠に活動
1952年に成立した駐留軍法を根拠に、米軍が活動している。英軍の活動を定めた国内法は、米軍にも同様に適用されることを規定。英議会でも、国防相は「在英の米軍は米国と英国の両方の法律に従う」と答弁している。
英空軍が、米軍など外国軍の飛行禁止や制限を判断。在英米軍は、夜間早朝などの訓練を禁止する在欧米空軍の指令書に従っている。指令書は平日の午後11時~翌午前6時を静音時間帯とし、飛行場の運用を禁止。爆撃機やステルス航空機の配備を予定する際には英国防省の承認を得るなど、詳細な規定を設ける。
米軍基地には英空軍の司令官が常駐。周辺自治体に演習や夜間の飛行訓練を説明するなど、米軍と地域の信頼関係の維持に努めている。
<ベルギー>憲法で外国軍に厳しく
憲法で外国軍隊に関する規定を「いかなる外国の軍隊も法律に基づかなければ、軍務に迎え入れられ、領土を占有または通過することはできない」と定めている。
1962年には、外国軍が駐留する根拠を国内法として定めた。さらに航空法で、軍用機を含めた外国籍機の飛行はベルギー側の許可が必要であると明記。必要な場合はベルギー国王が領空の飛行禁止措置を執ることができると規定した。
90年、自国軍に高度80メートルまでの飛行を認める一方で、外国軍は低空飛行を禁止。ベルギー以外の軍隊は土曜日や日曜日、祝日の飛行を禁止するなど厳しい措置を執っている。