米国追随で中国と敵対するな

2021年4月16日(日本時間17日)に行われた菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領による日米首脳会談を受け、両国が発表した共同声明に、台湾問題が盛り込まれた。これは1972年の日中国交正常化以来初めてのことだ。

ホワイトハウスでジョー・バイデン米大統領(左)との会談に臨む菅義偉首相。
ホワイトハウスでジョー・バイデン米大統領(左)との会談に臨む菅義偉首相。(時事通信フォト=写真)

フィリップ・デービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)が3月に米上院軍事委員会の公聴会で、中国が6年以内に台湾に武力侵攻する可能性があると発言するなど、ここにきてアメリカは中国に対する警戒を強めている。共同声明で台湾に言及したのは、中国をけん制したいアメリカの意向であり、日本はそれに従ったのだろう。


日本はこれまでも、事あるごとにアメリカの尻馬に乗ってきた。だから今回もアメリカと歩調を合わせ、対中国強硬姿勢をとることをよしとしているのかもしれない。しかし、同盟国だからといって無条件でアメリカに追随し中国と敵対してはならない。アメリカは歴史的に見て、態度を急変する癖があるのだ。日本はこのことをよくわかっておかなければならない。


たとえばアメリカの中東戦略。ジョージ・W・ブッシュはイラクに民主主義を導入するという名目で戦争を仕掛け、イスラム教スンニ派の独裁的指導者であるサダム・フセインを追放し、後に処刑した。ところが、スンニ派のフセインがいなくなった後に民主的選挙を行うと、当然に多数派であるシーア派による政権が発足した。すると、シーア派の盟主であってアメリカと敵対関係にあるイランの影響が強まり、イラクの政情は著しく不安定化したのである。そうしているうちにアメリカはイラクに興味を失って、混乱を残したままイラクから撤退してしまったのだ。


ブッシュの次に大統領に選ばれたバラク・オバマも、アフガニスタンで混乱を発生させた。アメリカの真の敵は9.11の首謀者であるウサマ・ビン・ラディンをかくまう、イスラム原理主義勢力のアルカイダとタリバンの逃避地になっているアフガニスタンだと、米軍のアフガニスタン増派を実行した。しかし、ビン・ラディンが潜伏していたのはアフガニスタンではなくパキスタンだった。アフガニスタンでは、アメリカはNATO同盟国も巻き込み200兆円も使ったにもかかわらず、20年間ほとんど何の成果も上げられず混乱を残したまま、21年9月11日までの完全撤兵が決まった。


エジプトもそうだ。2011年、オバマは中東で市民による非暴力の民主化運動、いわゆる「アラブの春」が始まるとこれを歓迎し、後押しを明言した。しかし、エジプトで30年にわたって独裁を続けていたムバラクが追放され、民主主義に基づいた選挙が行われたものの、その結果政権を握ったのが反米のムスリム同胞団だとわかると態度を一変。裏で糸を引いて自分たちの息がかかった軍人にクーデターを起こさせ、親米の軍事政権を樹立させてしまったのである。民主主義はどこにいった、という批判には耳を貸さなかった。


このように、アメリカという国は、自由、平等、民主という崇高な理念の伝道師のような顔をしてやってきても、それが本当に根づくまで責任をもたないどころか、場合によっては自分たちの都合で、その理念を曲げてしまうことさえ躊躇しないのだ。

50年前に犯したニクソンの歴史的愚行

バイデン政権の要職の顔ぶれを見ると、トランプ政権ほどではないものの明らかに反中色が濃い。バイデン自身はこれまで中国に対してそれほど厳しい姿勢はとってこなかったはずだが、アメリカ人の中国に対するイメージを徹底的におとしめたトランプの後遺症が残っていることを考えると、中国に甘い顔をできないことは理解できなくもない。


だからといって、中国が台頭をしてきてアメリカを脅かそうとしているから気に食わないというのは、そもそも筋が通らずおかしな話だろう。なにしろ、今の中国をつくったのはアメリカ自身だからだ。


1971年に中華人民共和国(共産党)が国連に加盟し安全保障理事会の常任理事国メンバーになると、それまで常任理事国だった中華民国(国民党)は国連から追放された。ベトナム戦争終結に中国の協力が必要になったため、当時のニクソン米大統領とキッシンジャー大統領補佐官が画策したのだ。これは翌年のニクソン訪中、さらに79年の米中国交樹立につながっていく。


このニクソン・キッシンジャー外交は今でも高く評価されているようだが、私に言わせればとんでもない愚行だった。2人ともアジアの歴史に疎かったのだ。


中国は第2次世界大戦の戦勝国だったが、当時の連合国側で中国代表とされていたのは国民党政権(中華民国)で、事実カイロ会談に中国代表として参加していたのは、毛沢東ではなく蒋介石だった。終戦後、中国では国民党と共産党との内戦が再開。49年に毛沢東が北京で中華人民共和国の建国を宣言すると、国民党は台湾に逃れて政権を維持、現在も中華民国こそが中国の正統政権と主張している。


アメリカがどうしても中華人民共和国を国連に引き入れたかったのであれば、その前に共産党政権と国民党政権の間に立って和平協定を締結させ、ひとつの中国にすべきだったのである。それで2度と国共で戦闘をしないよう、国共内戦の最後の戦場となった福建省の厦門アモイあるいは金門島か馬祖島に議会を置く。ニクソンとキッシンジャーがそのような提案をすれば、鄧小平ならきっと受け入れたはずだ。


結局、敗戦国で立場の弱い日本もアメリカに従わないわけにはいかず、田中角栄が周恩来と握手して日中国交正常化した。そのせいでそれまで仲の良かった台湾(中華民国)には、大使も送れなくなってしまったのである。


アメリカはその後も中華人民共和国をWTOに加盟させたり、大量の学生を自国に留学させ成長と発展のノウハウを教えて送り返したりと、中国の発展に手を差し伸べ続けた。同時にアップルなどのアメリカ企業の生産工場としても利用していった。その結果、中国は成長する経済力を背景に軍事力も高め、気がつけばアメリカの覇権を脅かすほどになっていた。まさに現在の中国の脅威の原因は、中華民国を国連から追い出し、中華人民共和国を国連安保理の常任理事国にしたニクソン・キッシンジャー外交であり、アメリカ自身なのだ。

台湾有事では日本も戦場に

さて、今後6年以内にも起こりうると言われる米中間で台湾有事が勃発したら、日本も無傷ではいられない。安倍前政権が集団的自衛権を認める安保法を策定したから、アメリカが有事の際、日本も参戦できるようになった。日本は戦争に関わりたくないから基地を使わないでくれとは言えないのである。まず、沖縄の嘉手納や普天間は間違いなく狙われる。アメリカ第7艦隊が配備されている横須賀、それから横田も中国の攻撃対象となるだろう。佐世保や岩国もやられるかもしれない。台湾問題でアメリカと共同歩調をとると言ったら、そこまで覚悟しなければならないのだ。


米中にも相当な被害が及ぶと思われる。米中は政治的には対立しているが、経済的には現在供給不足が深刻な半導体や先述のアップル製品が代表されるように、サプライチェーンがガッチリ構築されて結びついている。従って、台湾有事となれば、経済活動が世界規模で停滞するだろう。


台湾自体は物理的に破壊される可能性大。軍事大国化した中国相手では、いざ事が起これば、カナダやオーストラリアあたりに逃げ出す台湾人は続出するだろう。つまり、台湾有事は誰にとってもいいことはひとつもないのだ。

英連邦のような緩やかな連合体の「中華連邦」をつくるしかない

中国と台湾に関しての私の持論は、ニクソン・キッシンジャー以前に戻り、英連邦のような緩やかな連合体の「中華連邦(コモンウェルス・オブ・チャイナ)」をつくるしかないということだ。実際、私が台湾の経済顧問を務めていたときに、当時の李登輝総統にこれを提案したことがある。彼はたいへん乗り気だったが、北京側が連邦制を認めたがらなかったため残念ながらそのときは実現しなかった。だが、香港や新疆ウイグル自治区の統治で世界中から非難を受けている今なら、台湾を無傷で統治できるようになる連邦制を中国が受け入れる可能性はゼロではないだろう。


ただ、キッシンジャーを超えるような外交力はバイデン政権にはないだろう。日本がアメリカに「中華連邦」のような構想を提言する手もあるが、「ジョー」「ヨシ」と呼び合って首脳同士の親密さをアピールする程度の外交力では期待するだけ無駄であろう。


本稿で述べたとおり、中東だけでなくまさに中国に対しても態度を急変させてきたアメリカに従属して、今(日本にとっては2000年も付き合いがある)中国と敵対することは絶対にしてはならない。中国とは経済的結びつきを強化して、日本は衰退からの脱却を図る。米中のはざまに置かれた日本外交は、このことを確実に肝に銘じるべきである。