今年も低迷が続いた野党で、異彩を放ったのがれいわ新選組を率いる山本太郎代表だ。7月の参院選では消費税廃止などの大胆な政策で2議席を獲得。今も街頭演説は熱気に包まれる。次期衆院選に100人を擁立する構えで、今月10日時点で約320人が公募に応じた。支持層の一部がかぶる立憲民主党は主導権を奪われかねないと警戒する。
師走の喧噪(けんそう)に包まれた18日夕のJR新宿駅南口は、山本氏が街頭演説を始める前から黒山のひとだかりができた。
「野党が固まりになって選挙に勝てるなら、とっくの昔に勝っている。民主党の再結集にどれぐらいの人が期待するのか」
街頭演説は、9月18日に北海道・利尻島から始めた「全国ツアー」の年内最終日。山本氏はこの3カ月間で38都道府県を回った。
新宿では英国のヘビーメタルバンド、ジューダス・プリーストの「ペインキラー」を流して登場。「みなさんの痛みや不安定な生活を大胆な財政出動で消すぞ」と訴えると、会場は喚声に包まれた。
自由党を離党した山本氏が、れいわを立ち上げたのは4月のことだ。7月の参院選では地元の東京選挙区から再出馬せずに比例代表を選んだ。しかも、優先的に当選できる「特定枠」に重い障害がある舩後靖彦、木村英子両氏を指名し、自身の当選資格は2人の後という大胆な手法を取った。
最初は「向こう見ずなパフォーマンス」(国民民主党幹部)と冷めた見方があったが、街頭演説は日増しに過熱。7月19日、東京・新橋駅前には約3千人が集まり、あふれた聴衆が展示されているSLの上に乗るほどの熱気に包まれた。
「街頭演説の様子を聞き、うちの支持層を奪われると背筋が凍った」
立民幹部はこう振り返る。実際、れいわは比例で約228万票を獲得し、特定枠の2人が当選した。対する立民は約792万票を得たが、平成29年衆院選の約1108万票から約316万票も激減。一定の支持がれいわに流れ込んだ。
政策は、国債を大規模に発行しての財政出動など、独特な主張が目立つ。自民党幹部は「財源を無視した荒唐無稽な案」と切り捨てるが、山本氏は「消費税こそ個人消費を減退させた元凶」と意に介さない。
特に際立つのが、就職氷河期世代やシングルマザーらを対象にした政策だ。バブル崩壊後の就職難に遭遇し、不安定な働き方を強いられている人が多い。45歳の山本氏と世代も重なる。
ターゲットの30~40代は投票率も低く、主要野党もてこ入れしてこなかった。山本氏は「この世代が高齢化したとき、国は手を差し伸べるのか。この人たちが蓄財でき、安心して生活を送れるようにすることが政治の仕事だ」と訴える。
山本氏は参院選後も、野党共闘に加わる条件として「消費税率5%への引き下げ」を掲げ、尻込みする主要野党の足元を見透かす。
主要野党は、先の国会で安倍晋三首相主催の「桜を見る会」の追及を強める中、山本氏は一線を画し、全国行脚に重点を置いた。立民の枝野幸男代表は周囲に「れいわは政局になると無力だ」と語るが、山本氏は「選挙中より、選挙後の方が街頭の熱が増してきた」と独自路線を貫く。
立民には、消費税廃止などに共感する議員もおり、党執行部は「れいわ予備軍」と警戒する。立民が国民などと政党合流を急ぐ一因として、次期衆院選での躍進を封じるためとの指摘もある。実際、寄付を中心とした選挙資金も積み上がっているとみられ、選挙を戦う態勢はできつつある。
山本氏はかつて、園遊会で上皇さまに直接手紙を手渡すなど、物議をかもしたが、今や野党第一党を振り回すまでに存在感が高まった。共闘条件に沈黙を貫く立民には、こう語る。
「消費税率5%が飲めないなら、古い政治と新しい政治との衝突だ。新体制を目指す政治勢力の拡大に向け、勝手にやる」(千田恒弥)
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