私自身は韓国との合従(連衡か?)は危険だと考えている。かと言って、中国の属国になるべきだとも思わない。対等の友邦になればいいのである。内田の議論は精密なようで、結局はこれまでの「国と国との戦力の角突き合い」でしか世界を見ていない気がする。だから「どこの属国になるか」という思考が先行するのではないか。
極端に言えば、9条に従って戦力を完全放棄して、どこかの国に攻め込まれたら、即座に降参すればいいのである。戦力に頼るなど、お互いの被害を最大化するだけだ。それに、降参して属国になるのは、今のアメリカとの関係と同じではないか。人が死なず、国家や国土が破壊されないだけ、即時降参のほうがはるかにマシだろう。
もしも占領国家が日本人を奴隷化するなら、そこで、テロで抵抗すればいいのである。包丁一本でも占領国家の指導者や手下どもを暗殺することはできる。それこそが本当の武士の魂だろう。天皇ですら、徳川幕府の下で飼い殺し状態だったのである。それでも、明治維新でよみがえったわけだ。国民に同じことができないわけがない。
そして、日本の「文化」が高い価値を持つと世界が認識するなら、その貴重な国を戦争で壊滅状態にすることには世界が抗議するだろう。その文化の中心にあるのは、国語と天皇だと私は思っている。(藤原正彦曰く「祖国とは国語」である。)なぜなら、我々は日本語によって思考するからである。天皇論は何度も書いたので、ここでは省略する。
(以下引用)
―― 「帝国の再編」において、日本はどういう立場になりますか。
内田 日本の選択肢はとりあえず「アメリカの属国であることを続ける」「中国の属国になる」「独立する」という三つです。日本の支配層は第一の選択肢しか頭にありません。「日米同盟基軸」以外の国家戦略を考えたことがないのだから、仕方がない。ですから当面は「トランプ皇帝」の恣意的な命令に従って防衛費を積み上げて米国製の兵器を爆買いし、在日米軍基地のための「おもいやり予算」を増額し、憲法9条を廃止して自衛隊を米軍の「二軍」として差し出す......というふうにひたすらアメリカのご機嫌を伺って、実質的に国を切り売りするという以外に自分たちの政権を維持する道筋を思いつかないと思います。
しかし、今の自民党なら第二の選択肢も案外あっさり受け入れるかも知れません。日本は華夷秩序の中で「高度の自治を許された東夷の属領」でした。「親魏倭王」の官命を下賜された卑弥呼から「日本国王」を名乗った足利将軍、「日本大君」を名乗った徳川将軍まで1600年間、明治維新まで日本の為政者は形式的には久しく辺境自治区の「王」でした。日本が華夷秩序から離脱してまだ150年しか経っていないのです。そもそも「日本」という国名そのものが「中国から見て東」という意味なんです。それを嬉々として国名にしている。幕末には「日本」という国名を廃するところからしか国の独立は始まらないと主張した矯激な志士もいました。論理的にはその通りなのです。でも、それに同意して「日本というような屈辱的な国名を廃せ」という志士は後に続かなかった。それほど深く華夷秩序のコスモロジーは日本人に内面化しているということです。ですから、習近平が「天皇制と民主政には手を付けない」と約束してくれたら、日本人は割とあっさりと中華人民共和国の辺境として、中国に「朝貢」して生きるという道を選ぶかも知れない。
最も望ましくそして最も難しいのは第三の選択肢です。
かつてサミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』で、日本は中華文明にも西欧文明にも属さない独自の文明圏であるとみなしました。ハンチントンが本を書いた1990年代には日本にはそれくらいの潜在的な国力があると思われていたのです。でも、現在の日本はアメリカの属国であることに慣れ切って、もう単立の帝国を打ち立てるだけの気概も実力もありません。
それでも日本がどの帝国にも帰属せず、独立を全うしようと願うなら、固有の地政学的ポジションを生かすしかありません。アメリカ帝国の「西の辺境」、中華帝国の「東の辺境」というあいまいな位置を活かして、「帝国の隙間」をニッチとして生き延びるチャンスもあります。
この点では韓国も同じです。日韓両国は地政学的には運命を共にしています。それゆえ独立をめざすなら「日韓同盟」が ベストの選択だと僕は思います。日韓を足すと人口1億8000万人、GDP6兆ドル(世界3位)という巨大な経済圏ができ上がります。軍事力でも今は韓国が世界5位、日本が8位ですから米中二大帝国の隙間に埋没することはありません。そして、米中と等距離外交を展開して中立地帯を形作る。帝国との同盟という「連衡」策ではなく、中規模国家同士の「合従」策を採るのです。
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