- 2025/05/28
(以下引用)赤字は徽宗による強調だが、記事筆者の「意見」よりはこうした「事実」のほうがインパクトがあると思う。しかも、これは世間の99%の人がおそらく知らない事実である。
ハーバード大を破壊するのは、蓄積された「恨み」

トランプ大統領がハーバード大学に対して、外国人留学生の受け入れを阻止する構えを見せている。トランプ大統領のこうした圧力は「暴挙」ではあるのだが、正直、予想できたことだった。ハーバード大学をはじめとする超有名大学への不満がアメリカに蓄積していたからだ。
「ハーバード大学の留学生受け入れ「剥奪」の衝撃…トランプ支持者は無関心?損なわれる米国のソフトパワー」
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/37733
ハーバード大やスタンフォード大などのアメリカの超有名大学は、海外の若者たちからしたら憧れの場。そこに入学できれば、将来は約束されたようなもの。シリコンバレーなどで大活躍し、大富豪になることも夢ではない。そんな夢をかなえようとする外国人にとって、チョー夢のある場所。
だから、世界中の超優秀な学生がこれら超有名大学に入学しようとする。その結果、ハーバード大学などは優秀な学生はよりどりみどりで選べた。彼らは大学で猛勉強をし、卒業後はシリコンバレーで起業したりした。そんな彼らは、起業のための資金を得るのも簡単。
何しろ、ハーバード大やスタンフォード大など超一流の大学に通っているのは、お金持ちが多い。ハーバード大学の学生の両親の平均収入は4500万円と、目をむくような数字。外国人留学生は、同級生のお金持ちと友人になれば、起業資金を得るためのルートを開拓するのも容易だったろう。
外国人留学生は超優秀だというのは間違いないだろうが、アメリカ人の学生が果たして優秀かどうかは分からない。トマ・ピケティ氏(「21世紀の資本」の著者)やマイケル・サンデル氏(白熱教室で有名)は、超有名大学に入学する、留学生以外の学生が果たして優秀なのか、疑いの目を向けている。
何しろ、入学に関しての判定基準は秘密のままだし、学生の親は入学後に多額の寄付金をおさめるし、で、ピケティ氏もサンデル氏も、「金で入学しているんじゃね?」と、かなり疑念を持っているようだ。そうした噂とか推測は、ずいぶん昔からあった。
つまり、
・金持ちの子弟は高額な授業料と寄付金で入学できる。
・そのお金で、超優秀な外国人留学生は特待生として授業料無料で入学も可能。
・学力に疑問符のある学生も、超優秀な外国人留学生が同級生でいることで、自分も学力があるかのようにカモフラージュが可能。
・留学生は卒業後の資金獲得。
このように、アメリカのシリコンバレーの金持ちの子どもは「超優秀な外国人留学生を同級生に持つことで高い学力があるかのようにカモフラージュ」、外国人留学生は「アメリカで資金を得、起業する道を開拓」という、相互依存の関係ができていた。これがシリコンバレーに活気を与えていた駆動力。
このシステムのおかげで、アメリカはグーグルやアップり、Facebook、アマゾン、マイクロソフトなど「GAFAM」と呼ばれる大企業をシリコンバレーから生み出すことができた。お金持ちのカネと、外国人留学生の優秀さと馬車馬のように働く勤勉さとがタッグを組み、これらの成功を呼び寄せた。
しかしこのシステムには、大きな問題があった。一部の人間だけが得をする、という構造。GAFAMのようなIT企業は、能力のある技術者以外は雇わない。単純労働しかできない労働者はお荷物扱いし、「働きたいなら努力して学んだら?」と、冷たくあしらってきた。
こうしたシリコンバレーの技術者や金持ちたちに腹を立てていたのが、「ラストベルト(錆びた地帯)」といわれる地域に住んでいた白人労働者層。彼らはかつて、アメリカ経済をけん引した自動車産業などで働いていた、誇り高き労働者だった。ところが。
アメリカの産業構造が変わり、IT技術の知識や能力を持たない人間は低賃金にあえぐようになった。仕事も見つけにくくなった。そして大儲けするIT企業は、彼らを雇おうとしなかった。それどころか、努力が足りない、勉強が足りないといってバカにし、見下すことさえあった。
自分たちだってアメリカを支えてきた労働者なのだ、と誇りを持っていた白人労働者層は、こうしたシリコンバレーやニューヨーカーたちに腹を立てていた。恨んでいた。私は、こうした恨みがやがてアメリカを突き動かす力になるのではないか、と拙著「そのとき、日本は何人養える?」で懸念していた。
第1期のトランプ大統領はそこまでの動きができなかったが、第2期の現在のトランプ大統領は、はっきりとこれらの「恨み」を晴らす行為に打って出た。自分たち白人貧困層を放置し続けたシリコンバレーの連中にとって、極めて重要なシステムである超有名大学を壊しにかかっている。
ハーバード大学は、トランプ大統領のこうした動きによって、相当の打撃を受け、研究もままならなくなってしまう恐れがある。それは、アメリカがIT技術において世界の最先端を走ることを難しくする恐れがある。アメリカは、自らIT技術という強みを失ってしまいかねない。
それはアメリカの国益を損なうことになるのだから、さすがにトランプ大統領もそこまでムチャはできないだろう、と思う人もいるかもしれない。しかし、トランプ大統領の駆動力は、実は白人貧困層による恨み。長年蓄積していたその恨みがエネルギーになっているのだから、そう簡単に止まらないと思う。
こうした事態を招いたのは、IT企業の認識の甘さにあると思う。確かに、IT技術というのは少数の超優秀な技術者が少数いればいいだけで、そうした技術や知識を持たない人間は、彼らにとってはお荷物でしかなかったのだろう。だから、知識や技術を持たない人間を雇用しようとしなかったのだろう。
しかし、技術や知識のない人間を見下す視線、自分たちが手にする膨大な富を貧困層に再分配する気もない狭量さが、白人労働者層の恨みを買い、現在の状況を生み出したのだと言えるだろう。「役に立たない」人間を斬り捨てる新自由主義が、トランプ大統領のこうした「暴挙」を招いたと言えるだろう。
アメリカは、もっと早くにIT企業が蓄えた富を、それ以外の人たちに何らかの形で分配する仕組みを整えるべきだった。しかし新自由主義がすっかり根づいてしまったアメリカでは、再分配の仕組みを作ることも難しくなってしまった。
バイデン大統領時代、GAFAMは雇用を増やすなどの努力を一時始めたことがある。アマゾンなどは、労働者に優しい企業を目指す、といった宣言まで出したりしていた。しかし民主党のやり方がまずかった。GAFAMをやり玉に挙げて攻撃し、GAFAMの経営者たちが硬直化した。
「自分たちを悪者に仕立て上げ、糾弾する民主党より、いっそトランプ大統領に近づいた方がよいのでは?」となってしまったらしい。トランプ氏が大統領に返り咲いた記念のパーティーで、GAFAMの経営者たちが顔をそろえたのも、そうした動きを表していたように思う。
しかし、トランプ大統領は彼らGAFAMに遠慮する気持ちは持たなかったらしい。超有名大学から外国人留学生を締め出すという政策をとることで、IT企業が超優秀な移民を採用するという仕組みに、決定的な打撃を与えようとしている。アメリカのIT技術は、急速に力を失う恐れがある。
それでもトランプ大統領は構わないと考えているのだろう。それよりも、自分を支持してくれた白人貧困層の「恨み」を晴らすことを重視しているように思う。また、トランプ大統領は、労働者を雇用しようとしないIT技術よりも、雇用が多いものづくりに力を入れようとしている。
こうした政策が成功するかどうかはわからないが、アメリカの白人貧困層が期待し続けてきた政策であることは間違いないように思う。残念ながら、トランプ大統領のこうした動きは、トランプ氏個人の考えではなく、彼の支持者たちの意向でもある、と言えるだろう。
こうしたアメリカの動きは、いろんなところに波及してくるだろう。こんな事態になるまでは、世界の大学は「国際化」を重視してきた。大学の世界ランキングの上位を狙おうと思ったら、外国人留学生がどれだけいるかもポイントになっていた。アメリカの超有名大学が有利な評価法。
日本も国際化を進めようと、大学に外国人留学生をどんどん増やしてきた。今、大学院をのぞくと、外国人だらけ。日本人で博士課程まで進む学生が減っているから、そのうち日本の大学の教員は外国人だらけになるのでは?と思うくらいに、外国人だらけ。
そうした動きにも変化が起きるかもしれない。日本はアメリカのマネをすぐしようとするから。他方、今こそ国際化を進めるべき、という意見もあろうかと思う。アメリカから大量の優秀な人材が流出するだろうことが予想されるからだ。
ヒットラー率いるナチスは、大学からユダヤ人研究者を追放した。その主な受け皿になったのがアメリカだった。アメリカが戦後、世界の科学技術の先頭を走るようになったきっかけとなった。優秀な人材を受け入れることは、一つの手。
アメリカも、「これでは気が気でない」といって、優秀な研究者がアメリカ国外へ逃げ出す可能性がある。すでにハーバード大学の有名な研究者がカナダへの移住を決めたというニュースもある。優秀な人材を獲得するのは今、かもしれない。
しかし他方、日本の大学の抱えている問題は、ハーバード大学に似ているように思う。外国人留学生に有利で、日本人学生にはシビアなのではないか、という意見が以前から出ている。学費が国公立でさえどんどん高くなっていくという話も出ている。
年の学費1200万円という、ハーバード大学の桁違いの学費とは比較にはならない金額とはいえ、日本人が貧しくなりつつある現在、学費がどんどん値上がりすれば、日本人は通えないけれど外国人はたくさんいるというのが日本の大学になりかねない。その時、日本はどうなってしまうだろうか。
日本人が大学に行きたくても学費が高すぎて行けなくなり、低賃金労働を余儀なくされ、大学を出た外国人の人たちが上司として日本人をこきつかう、という状況が生まれるのではないか?という懸念が現実化しかねない。その時、日本もトランプ大統領のような人物が誕生しないとも限らない。
私は、少子高齢化が進む日本では、外国人を受け入れ、この国土に共に住む仲間として生きていくことが大切だと考えている。しかし、もし非対称な関係ができてしまったとき、現在のアメリカのような、科学技術をドブに捨てるような政策を選んでしまうリスクはあるように思う。
思えば、ナチスに支配されたドイツも、似たような状況だったのかもしれない。ドイツは、金融で支配的な力を持っていたユダヤ人富裕層に経済の要所要所を押さえられていた。他方、ドイツ人労働者は世界恐慌で生きていくのも難しい困窮に苦しんでいた。ドイツ人労働者に金持ちへの恨みが蓄積していた。
その状況を政治的に利用したのが、ナチスだった。金持ちの中でも特にユダヤ人に限定して「あいつらが悪い」と敵認定し、ドイツ人の恨みをユダヤ人に集中させた。それがアウシュビッツ収容所での大量虐殺にもつながっていった。
もし、当時のお金持ちたちが、労働者への再分配を真剣に考えていたら、それを実行に移していたら、ナチズムは力を持てずに終わったかもしれない。それができなかったことが、ナチズムの台頭を許す結果となった。貧富の格差を放置したことが、ナチズムを生んだと言えるだろう。
トランプ大統領を生んだのは、IT企業が、富裕層が、労働者や貧困層を顧みず、富を分配しようともしなかった狭量さにあるのだろう。新自由主義がトランプ大統領を生んだのだともいえる。そして同じことが、日本にも起きないとは言えない。
貧富の格差を放置してはいけない。これを放置したら、制御の利かない政治状況を生み出しかねない。今、アメリカが陥っているのはその状況。ハーバード大学をはじめとする超エリートが、自らの富を分配しなかった狭量さが、トランプ大統領を生んだのだと言ってよいように思う。
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