インドで昨年11月8日夜にモディ首相が、流通している高額紙幣を4時間後の9日午前0時で廃止するとテレビで発表した。
廃止されたのは最高額の千ルピー札(約1600円)と500ルピー札(約800円)で、12月末までは銀行に預け入れることができるが、使用は禁止された。両紙幣はインドで流通する全紙幣の85%以上で、モディ首相は闇資金の摘発や汚職・脱税の根絶が目的だと述べたという。
インドでは現金決済が主流で、資産家が課税逃れのために現金を不正にため込むと言われるが、大半は貴金属や外国預金で蓄えられ、汚職・脱税の根絶など不可能だ。さらにインド人の50%は銀行口座も持たず、ささやかな商売をしている人たちは現金取引がすべてで、突然の廃止で打撃を受けたのはそうした貧困層の人々であった。
欧州中央銀行は500ユーロ(約5万8800円)札を2018年末までに廃止することを決定しており、米国も100ドル札の廃止が議論されている。インドも紙幣廃止と同時に国民にクレジットカードなどのデジタル決済を利用するよう呼びかけており、インドで起きたことはキャッシュレス社会への移行という壮大な実験だったといえる。インドの消費者の90%以上は現金決済で、モディ首相は紙幣廃止に併せて、オンライン支払いの場合の保険料を割引にしたり、国営ガソリンスタンドではクレジットカード払いだと割引したりするなどキャッシュレスを推進している。
11月8日は米国大統領選挙の日でもあったが、現金廃止に米国政府も関係していたようだ。オバマ大統領がインドと結んだ戦略的パートナーシップで米国際開発局(USAIDA)は、インド財務省とインドにおけるデジタル決済推進を宣言し、10月にUSAIDはインド財務省とキャッシュレスを推進する「Catalyst(包括的キャッシュレス払いパートナーシップ)」を設立するなど、キャッシュレス社会への根回しは以前から進められてきたのである。
誰が現金廃止を望んでいるのか。「Better Than Cash Alliance(現金よりいい)」という、途上国における電子決済・モバイル金融を推進する団体があり、マスターカードやVISA、Citi、フォード財団、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、USAIDや国連の国連開発計画(UNDP)などが参加している。世界通貨としてのドルの地位が危うくなってもデジタル決済で米国IT企業やカード会社が金融取引を支配していれば米国政府は安泰で、IT企業と共に米国諜報機関が国際間のデジタル決済を監視できるのだ。
数時間以内で紙幣の価値をなくすという暴挙は日本では起こり得ないことを願いたいが、昨年9月までインド中央銀行総裁だったラジャン氏がメンバーだった世界の中央銀行の幹部ら30人で構成されるG30という団体は現金廃止論を含む金融規制改革の中心である。黒田日銀総裁もメンバーであることを考えると、日本で絶対に起こらない保証はどこにもない。
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