2008年の金融危機について、1929年の株式大暴落との比較で論じている文章だが、その背景、真犯人への追及は甘いが全体の様相をつかむにはいい記事である。
サブプライム危機で金融資本家は金融業自体がもはや機能しない(制御不可能である)ことを自覚し、今度はCBDC(中央銀行デジタル貨幣)で国家のカネを動かす権利をすべて自分の手に握ろうとしているのである。
(以下引用)
2008年11号 |
判断学 1929年大恐慌の再来か? |
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奥村宏 経済評論家 第78回1929年大恐慌の再来か? NOVEMBER 2008 70 投資銀行の没落 サブプライムから始まったアメリカの金融危機はウォ ール街の中枢を襲っただけでなく、世界中に波及して、 一九二九年の世界大恐慌以来の危機にまで発展した。 そこでアメリカ政府と議会は、七〇〇〇億ドル(日本円 にして七五兆円)もの公的資金を投入してアメリカの金融 機関を救済すると発表したが、これに対する国民の不満が 強く、下院で法案がいったんは否決され大混乱に陥った。 というのも、これまでウォール街の投資銀行は次から次 へと新しい金融商品を開発し、これを売りつけることで大 儲けし、役員はもちろん従業員も巨額の報酬を稼いでいた。 このことに対して国民の不満が爆発したのである。 倒産したリーマン・ブラザーズ、救済されたベアー・ス ターンズはもちろん、メリルリンチやゴールドマン・サック ス、モルガン・スタンレーなどはウォール街の主役であった。 これらは投資銀行といわれ、主として法人=会社を相手に、 増資や社債発行に際しての発行業務や合併、買収などの仲 介業務を行ってきた。 日本でいえば野村や日興、大和などの大証券会社に似て いるが、個人客だけを相手にするブローカーとは違っている ところから、投資銀行(インベストメント・バンク)といわ れてきた。 この投資銀行が大打撃を受け、今や総崩れとな ったことから、巨額の公的資金でこれを救済することにな った。 これでアメリカの投資銀行は姿を消すことになる。 すでにメリルリンチはバンク・オブ・アメリカに合併され ることになっており、生き残ったゴールドマン・サックスと モルガン・スタンレーも投資銀行から商業銀行に転換する ことになった。 商業銀行というのは日本の大銀行に相当し、 これは政府のきびしい規制の下にあるから、これまでのよ うな派手な活動はできない。 それはウォール街の崩壊を意味 するものといってもよい。 銀行と証券の分離 一九二九年の世界大恐慌はニューヨーク証券取引所の株価 が大暴落したことから起こった。 この株価大暴落とそれが 意味するものを興味深く書いたのがJ・K・ガルブレイスの『大 暴落一九二九』という本であり、最近、新しく日経BP社 から翻訳が出た。 ガルブレイスはアメリカの有名な経済学者で、たくさんの 本を書き日本語にも訳されているが、この本は今回のサブプ ライム危機の理解にも役立つ。 一九二九年の大暴落のあと、ルーズベルト大統領の下でニ ューディール政策が行われた。 そのひとつが銀行と証券の分 離であった。 それまでアメリカの商業銀行は証券会社を子会 社に持っていたが、株価大暴落で証券会社がつぶれた。 そ の影響で親会社の銀行もつぶれ、そのために銀行に預金し ている一般の個人客が被害を受けた。 そこで一九三三年に大統領になったルーズベルト大統領は 銀行と証券を分離して、銀行の安全をはかることになった。 そして日本でも戦後はアメリカにならって銀行と証券の分離 が行われ、両方を兼営してはならない、ということになった。 ところが新自由主義政策によって規制緩和が行われ、や がて銀行と証券の壁が取り払われた。 そこへ今回のサブプ ライム危機が発生し、その対策として証券会社(投資銀行) が商業銀行になる、という方向に進んでいるというわけだ。 それはルーズベルト大統領のニューディール政策と全く逆 の方向である。 これはいったい何を意味するのか。 銀行と証券を分離し たのは預金者を保護するためであったが、逆に銀行と証券 を一体化するのだから、これは預金者を危険にさらすこと になるのではないか。 一九二九年恐慌と今回のサブプライム危機を対比してみる と、興味ある点が次つぎと浮かび上がってくる。 100 年に一度ともいわれるほどの金融危機が発生した。 個人投資家が主役であ った前回の世界大恐慌と違い、今回は企業が主役である。 しかし新自由主義政策 の下で巨利を得てきた会社を税金で救済するということは、戦前の国家独占資本 主義へと再び戻るということなのだ。 71 NOVEMBER 2008 国家資本主義か? では、どうするのか? このような金融危機、あるいは証券危機はこれまでもア メリカで何回もあったし、アメリカだけでなく世界の資本主 義国がすべて経験してきたことであるが、根本的な危機対 策はひとつしかない。 それは国民の税金を使ってこれを救済するということで ある。 つぶれた銀行や証券会社を国有化するというのもそ うだし、いわゆる公的資金を投入するというのもそれである。 一九九〇年代に起こった日本のバブル崩壊では政府は 五〇兆円もの公的資金を投入したが、今回のサブプライム危 機では、アメリカ政府は七五兆円の公的資金を投入すると 発表していた。 もちろん、これらのカネがすべて泡となって消えてしま うわけではない。 投下した資金のうち、やがて相手が立ち 直って回収されるものもあるし、また政府が買った株式や 債券が値上がりして儲かるということもある。 しかし、投 入した巨額の公的資金がすべて返るということはない。 それは結局は国民の税金で負担するしかない。 そのこと がわかっているから、アメリカの議会でもこの公的資金の投 入を決めた法案への反対が強いのである。 新自由主義の下で、国家の介入をやめ、すべて企業の自 由競争に任せるという政策をアメリカやイギリス、そして日 本もとってきたが、いざ危機に見舞われると最後は国家に 依存する以外にはなかった。 アメリカではこれは社会主義 ではないか、という声があるが、社会主義どころか、これ は国家主義、あるいは国家独占資本主義以外のなにもので もない。 それはかつて一九三〇年代にドイツ、イタリア、そして日 本が歩んだ道であったし、アメリカもそうであった。 こうし て歴史は繰り返されることになるのだろうか‥‥。 二九年恐慌との違い 一九二九年の株価大暴落はそもそもなぜ起こったのか? ガルブレイスの先にあげた本をはじめ、多くの経済学者や 歴史家がこれについて書いている。 大暴落の前の一九二〇 年代のアメリカは好景気で、個人投資家が株式投資という よりも、株式投機に熱中していた。 この株式ブームが行き 過ぎて、その反動で株価が暴落したといわれる。 このこと はガルブレイスの先の本でもよくわかる。 では今回のサブプライム危機はどうか。 これはアメリカの 住宅ブームの反動で起こったのだが、同じことは一九二〇 年代にもあった。 マイアミの地価が急騰して、まだ海の中の 土地まで住宅地として売り出されていたという。 土地投機と株式投機が連動していることは日本のバブル の場合もそうであったし、今回のサブプライム危機について もそれはいえる。 しかし今回のサブプライム危機と一九二九年恐慌をくらべ て大きな違いは、今回はアメリカ経済の金融化が進み、金融・ 証券部門が肥大化しているということである。 一九七〇年代までアメリカ経済は好調であったが、それ以 後、企業は投資先がなくなったために金融や証券部門に集 中的に投資した。 そして金融工学が流行し、それによって さまざまな金融商品が開発された。 その金融商品は個人客にも売られた。 しかし多くの部分 は投資銀行や商業銀行、さらにヘッジファンドなどの間でた らい回しされていた。 お互いにリスクをヘッジするためにた らい回ししていたのである。 そこでいったんサブプライムロ ーンのような金融商品が値下がりすると、たちまち投資銀 行はもちろん商業銀行や投資ファンドにも影響が及んでくる。 この点に個人投資家が主役であった一九二〇年代の株式 ブームとの違いがある。 それだけに今回の危機の方が構造 的であり、それがウォール街の崩壊につながったというわけだ。 おくむら・ひろし 1930 年生まれ。 新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。 日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。 日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。 近著に『会社はどこへ行く』 (NTT 出版)。 |
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