互いの立場を理解でき、交渉力も上がる政治哲学
── 東日本大震災以降、社会の立て付けをすべて見直さなければならなくなったことを、大きなショックとして受け止めている人も多いと思います。仕事に対する考え方もしかり。私たちは、いまの時代どういった目標、目的を持って仕事をするか自分自身で考えなければならない。そのためのヒントを小林先生にいただきたいと考えています。
小林: マイケル・サンデル教授が「ハーバード白熱教室」で、政治哲学における基本的な4つの考え方を整理しました。「功利主義」「リバタリアニズム」「リベラリズム」「コミュニタリアニズム」。まずはそちらを簡単にご紹介しましょう。
哲学的な考え方を仕事や日常生活にどう活かせばいいかがわからない人も多いかと思います。まずは、自分がどの考え方に近いかを知ることから始めてみましょう。自己認識は、人生や仕事の質を高めますし、他者とのコミュニケーション力アップにもつながります。ひいては、交渉力にもつながっていきますよ。
最初に紹介する**「功利主義」** は、個々人の喜びを増やし苦しみを減らすことで、社会全員の幸福の総和を最大にしようという考え方です。イギリスの哲学者であるジェレミー・ベンサムが創始者と言われています。
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一人一人の喜びや苦しみを「量」として把握した上で、喜びから苦しみを引くとその人の幸福がわかる。その量を合計し、最大にするのが正しい行為であり政策だという考え方です。一般的な「経済」の発想に近いですね。長い間、日本の目標はGNPを最大にすることでしたが、それは「経済が発展すれば幸福の総量が増える」という考え方に基づいています。主流派経済学にも「効用」という言葉がありますが、功利主義と共通した考え方が基にあります。
「幸福」に対してもうひとつ大きな流れが、「義務と権利」を中心にする考え方です。そして同じ「権利」でも何を中心にするかで2つに分かれます。それが「リベラリズム」と「リバタリアニズム」です。
「リベラリズム」 は、通常の基本的人権として考えられる結社の自由、言論の自由といった政治的自由を尊重するとともに、いわば福祉の権利も重視します。そういう意味では福祉国家の思想ということになります。
他方で**「リバタリアニズム」** は、政治的自由とともに経済の領域における自由を重視します。自分が労働によって正当に得た物は自分のものと考えて、所有権を非常に重視しています。例えば、福祉のためとはいえども累進課税で国家が強制的に取り上げることには反対します。規制緩和、民営化の思想でもあります。
権利を重視する3つ目の考え方が、美徳を中心に正義を考えるやり方です。サンデル教授や私の考え方で、「コミュニタリアニズム」 と呼ばれています。リベラリズムやリバタリアニズムはあくまでも人権というように個人を中心に考えますが、コミュニタリアニズムは人々が共にあることに注目し、共に考え、共に行動する共通性を重要視しています。
また、コミュニタリアニズムの特徴として「善き生」──善き生き方を考えることが、正義を考える上でも大事、という点が挙げられますね。共通性と善のふたつに注目し、政治の目的を「共通善(何がコミュニティにとって善いことかという考え方)」に置いています。
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