米バイデン政権は4月、ウクライナにおいて人権抑圧を行っているなどの理由でロシアへの制裁を強化すると発表した。今年に入ってウクライナとの国境付近にロシア軍が兵力を集結させているとして、大規模な紛争になるのではという懸念が高まる中、プーチン大統領も4月に行った年次教書演説において、ウクライナ情勢で関係が悪化する欧米諸国に対して「ロシアの安全保障上の利益を脅かすような挑発をする国は後悔することになる」と対抗姿勢をみせている。
しかし同時に、ロシアの基本はあらゆる国と友好関係を重視するというものだとも強調した。これと対照的なのは米国で、敵対する国に制裁や取引規制を行い、中国、ロシア、イラン、北朝鮮、キューバなどを制裁対象に、大国の外交政策の目的を実現するための権力手段を行使している。
ロシアに隣接するウクライナのドンバス地方は2014年から紛争状態が続いている場所である。ウクライナが独立したのはソビエト連邦が崩壊した1991年で、2014年に紛争が起きてウクライナに過激で暴力的な右派勢力が台頭した。親ロ感情の強かったウクライナ領クリミアでは、住民投票で9割以上の住民がロシア連邦への編入に賛成票を投じ、現在はロシアの支配下にある。クリミア半島がほぼ無血でロシアに併合されたのとは異なり、ドンバス地方ではクーデターでウクライナに親米政権が誕生してから7年間、東スラブ人同士が殺し合い、多くの死者が出ている。
2014年のクーデターで親欧米政権が誕生してからウクライナ経済は破綻し、欧米の支配者によってウクライナ国民の資産は略奪され、国外へ持ち出された。当時米国副大統領だったバイデン氏の息子がウクライナの天然ガス会社「ブリスマ」の重役を務めていたのもその一端であることは言うまでもない。欧米の支配者がウクライナに求めているのは、ロシアに対して好戦的になり経済的および地政学的にロシアを封じ込めることだ。プーチン大統領が「ロシアを脅かすような挑発をする国は後悔することになる」と言ったのは、NATO軍、つまり欧米に対する言葉なのである。
欧米や日本のメディアはロシアを攻撃者として描いているが、ロシアは保護者的要素の方が強い。ウクライナ、特にドンバス地方では、多くの国民がロシア市民権を申請しロシアはこれを受け入れている。そしてソビエト連邦の崩壊により独立した国の多くも再びロシアとのより良い関係を望み、上海協力機構などを通して同盟が進んでいる。
NATO軍の挑発にロシアが反応し、豊富な石炭埋蔵量を誇るドンバス地方が第3次世界大戦の始まりになるという懸念は、軍事的な解決は許容しないというプーチン大統領の公式発表を額面通りに受け取り、現実にならないことを信じたい。世界最大の面積を持つロシアは領土拡大も必要とはしていないのだ。それよりも、忍耐強く、欧米が力尽きるまで対応を見送るという戦略も柔道家のプーチン大統領ならばあり得るだろう。
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