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4行まとめ

・「放射性物質汚染対処特措法施行状況の取りまとめ」に放射性廃棄物の再生利用について盛り込まれていた。


・2012年から施行された放射性物質汚染対処特措法には、再生利用の文言は入っていない。


・放射性廃棄物の最終処分量を減らすため、再生利用量を増やすことが目的となっている。


・「再生利用条件を満たす被ばく線量の検討」と国民の理解を得るための「啓発活動」が始まる。


 

「特措法施行状況の取りまとめ」に、放射性廃棄物の「再生利用」?

9月30日、「放射性物質汚染対処特措法の施行状況に関する取りまとめ」が環境省から出された。


http://www.env.go.jp/press/101515.html


放射性物質汚染対処特措法施行状況検討会が全5回開催され、それを取りまとめたものである。

20150331_放射性物質汚染対処特措法施行状況検討会_第1回_小里副大臣

2015年3月31日、第1回放射性物質汚染対処特措法施行状況検討会において冒頭挨拶をする小里泰弘副大臣(撮影:おしどりケン)


 


その取りまとめを読み、筆者は驚いた。


放射性廃棄物の「再生利用」について、かなり盛り込まれていたからである。

「除去土壌の減容化・再生利用にできるだけ早い段階から取り組むことが重要」


「安全・安心を確保しつつ、全国民的な理解の醸成を図っていく」


「特に除去土壌等の再生利用を推進していくためには、公共事業等での活用が重要」


 


筆者は、平成23年、この放射性物質汚染対処特措法が施行前に、


当時、文科省の放射線審議会で議論されていたときから取材をしている。


過去記事例:「第116回放射線審議会、ほっといても2年後に40%下がるのに除染するの? の件」


その際は、もちろん放射性廃棄物の「再生利用」など文言に上がっていない。


この放射性物質汚染対処特措法の「施行状況」検討会に、突然、放射性廃棄物の「再生利用」が出てきたのだ。


 


気になるのは、どのようなレベルのものを、何に再生利用するかである。


下記のチャートを見ると、10万Bq/kg超えという高濃度のものを中間貯蔵施設に送り、その後「再生利用」と「最終処分」と送られていく。

 

再生利用量を増やして最終処分量を減らす

この取りまとめによると、平成27年7月21日に、「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の第1回が開催されている。


https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/proceedings_150721.html



議事録 を見ると、特措法施行状況検討会と同様、小里副大臣の挨拶から始まる。


○小里環境副大臣 …昨年 11 月には JESCO 法が改正されまして、国の責務として中間貯蔵開始後 30 年以 内に福島県外での最終処分を完了するために必要な措置を講ずる旨の規定がなされたとこ ろでございます。県外最終処分を検討する中で、減容技術の開発と活用によりまして、で きるだけ再生利用量を増やして、最終処分量を減らすことが重要であります。


https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_150721.pdf



(JESCO 法、とは中間貯蔵・環境安全事業株式会社法のことである。


中間貯蔵・環境安全事業株式会社


JAPAN ENVIRONMENTAL STORAGE & SAFETY CORPORATION(JESCO)


 中間貯蔵・環境安全事業株式会社法の施行等について


 


これは、放射性廃棄物を30年以内に、福島県外で最終処分することを明記した改正法である。


県外最終処分を検討する中、「できるだけ再生利用量を増やして最終処分量を減らす」


このような考え方で、放射性廃棄物の「再生利用」は出てきたのだろうか。


 


小野チーム長は、「減容」と「再生利用」の定義を次のように説明する。


○小野チーム長 …減容といいますと、文字そのものからは容積を減らすということになるわけであります けれども、除去土壌等の場合には、容積そのものが、土の容量そのものが減るということ でもございませんで、さまざまな減容技術を用いて放射能濃度の低いものと高いものに分 ける。そのうち低いものを再生資源とすることで最終処分すべき量を減らす。これをこの 検討会あるいはこの資料における減容という言葉の使い方とさせていただければと思いま す。
また、再生利用といいますのは、上記によりまして再生資源としたものを各種用途に 利用するという意味合いで使わせていただきたいと思っております。


https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_150721.pdf


 除去土壌を放射能濃度の低いものと高いものに分け、そのうち低いものを再生資源とすることで最終処分すべき量を減らす。


やはり、放射性廃棄物の最終処分量を減らすことを目的に、再生利用が検討されるようである。


 

再生利用とは、どのような汚染度のものを、どこに使っていくのか???

まず、どこに使っていくのか。資料には「利用先の用途」として次のように例示がなされている。

ここで、気になるのは、用途として「宅地造成、公園・緑地造成」なども入っていることだ。


ではどのような汚染度のものを再生利用するのか。


○佐藤参事官補佐 …あと、この方針をまとめるに当たっては、災害廃棄物を道路の路盤材として再生利用す ることをモデルにして、道路工事の作業者と周辺の居住者の被ばく評価をシミュレーショ ンで行っています。その結果としては、道路建設作業者に対する被ばく評価としては、 4,300Bq/kg までの再生資材を作業者が 1 年間にわたって用いても、作業者の追加被ばく は年間で 1mSv 以下に抑えることが可能となっています。 次に、完成道路の周辺居住者の被ばく評価としては、30cm の遮へいがあれば、 3,000Bq/kg 以下の再生資材を用いても、居住者の追加被ばくは年間 10µSv 以下に抑える ことが可能となっています。この遮へい幅を 40cm とすれば、1 万 Bq/kg 以下の再生資材 を用いることも可能となっております。この 10µSv/year というのは、平成 23 年 6 月に 原子力安全委員会が示した再生利用に当たってのクリアランスレベルの要求事項となって おります。


https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_150721.pdf


3,000Bq/kg、4,300Bq/kg 、10,000Bq/kg 、様々な濃度が例として出されているが、検討はこれからである。


重要なのは「作業者と周辺居住者の外部被ばくと、地下水溶出経路による内部被ばくについて安全評価を実施」という一文ではないだろうか。


 


今後、被ばくの評価に関して、どのような検討がなされるか、議事録には気になる文言が多々ある。


○細見座長  改めて、再生利用に当たっては、単に濃度レベルだけではなくて、今のよう に植物への移行性だとか、そういうことも加味して議論していきたいと思います。


https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_150721.pdf


 



○宮武委員 …壊れてしま った場合のモデル化というものがどうしても必要になってくるかと思います。例えば道路 にせよ河川にせよ、国交省の技術基準では、いずれもある条件下で壊れることを許容して います。堤防については、レベル 2 の地震動が来た場合に、ある程度の高さが残れば、 出水するまでの間に直せばいいという考え方になっていますし、道路の構造物についても、 ゲリラ豪雨であるとかレベル 2 の地震動に対しては、全く無被害ということを目標とし ていませんので、そうしますと、通常の性能の構造物でも、使っている間に、ある条件下 では壊れるということが出てくるので、恐らく遮へいとかその辺のところを考える際には、 そういったモデルも考えないと少し実際の運用と違ってくるのかなと思いますので、そこ をご留意いただければと思います。


https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_150721.pdf


宮武委員は、その他、コンクリなどではなく「土」の扱いにくさなども指摘している。


放射性廃棄物を「再生利用」した場合、植物へはどの程度、放射性物質は移行するのか、


地下水にどの程度溶出するのか、「再生利用」で造られた造成地や堤防が壊れた場合、どの程度の環境汚染があるのか。


今後の議論には注目しなくてはいけない。


 

再生利用条件を満たす被ばく線量の検討会

第2回の「除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」は、まだ開催されていない。


スケジュールをみると、平成27年度中に、3~4回程度開催予定、とあるが、第1回以降、実施はない。


並行してワーキンググループも立ち上がるようである。

 筆者は、放射性廃棄物特措法の施行前の議論から取材しているが、その際は「除染」に関する議論のみで


放射性廃棄物の「再生利用」という文言は出てこなかった。


しかし、今年度は「最終処分量を減らすため、再生利用量を増やす」という言葉がたびたび出てくる。


 


放射性廃棄物の発生量が、想定より大量だったのだろうか?


放射性廃棄物の再生利用を「全国民に理解させ、公共事業で活用する」と、取りまとめにあった。


どの汚染度のものを、どこに、どのように使っていくのか。議論はこれからである。


下記の資料の一文に、筆者は今後の議論の中身が象徴されているように思う。


「再生利用条件を満たす被ばく線量の検討を行う」


この議論の行方を、我々は注視せねばならない。