私は「組織悪」という論文をいずれ書こうと思っている。
その中で論じたいことのひとつが、「悪党しか存在しない組織が、なぜ自然解体しないのか」ということだが、組織というのはもともと善悪とは無関係な生存原理を持っている、というのがおそらく答えだろう。
個人対個人の関係は普通は信義関係が紐帯となる、と思われているかと思うが、悪党同士の関係に信義があるはずがない。では、何が彼らを結びつけるかと言えば、当然「利害関係」である。そして信義関係は基本的に個人対個人だから組織力学には妥当しない。利害関係は組織にも妥当する。これが、「悪党しか存在しない組織が自然解体しない理由」だろう。当たり前の話に聞こえるだろうが、私のように頭の鈍い人間には、これが不思議でならなかったのだ。
で、信義則というのは自分と同じようなモラル意識を持った人間にしか通用しないが、利害則というのは人間の生存原理、つまり自己保存本能に直結しているからはるかに強力で、個人対個人だけではなく集団に通用する原理なのである。
これが、残忍卑劣な人間がしばしば組織の頂点に立ちながらその組織内の人間に反逆もされずに組織を統括できる理由である。
要するに、その組織に属することで得られる利益は、善悪の観念の強制力よりはるかに強力に人間を動かすから、「悪党だけの集団」は善人だけの集団より他者への攻撃力や自己保存能力が高いので、生存力は強い、ということだ。
これは、軍隊という殺人組織がなぜ世界から消滅しないのか、という理由のひとつでもある。軍隊に属する人間が倫理観念を持ったら軍隊という組織自体が瓦解する、ということだ。だから、どんな善人でも軍隊に入ると、自己の倫理観念を棚上げし、ロボット的に行動するしかないわけである。
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