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20年の東京オリンピック・パラリンピック開催時のサマータイム導入案に食品流通業界が困惑している。移行および終了時の受発注システムや物流への悪影響に加え、生鮮食品の供給不安や消費期限表示の混乱による健康被害を懸念する声もある。新日本スーパーマーケット協会と日本加工食品卸協会(日食協)はこのほど、農林水産省に提出した影響調査報告の中で実施を取りやめるよう求めた。
サマータイムの導入は東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策として政府が今月上旬から検討を進めているもの。今夏の記録的な猛暑からも抜本的な対策が必要なのは確かだが、食品流通業界からは「巷間言われるように競技開始時間を早めれば済むことではないか」(日本スーパーマーケット協会専務理事・江口法生氏)、「たとえ短期間でもオリンピック至上主義で食のインフラを壊すのはやめてほしい」(日食協専務理事・奥山則康氏)など、否定的な声が相次いでいる。
業界が最も不安視するのがシステムへの影響だ。サマータイムの期間中、受発注の締め時間を業界全体で足並みを揃えて切り替えられるかという問題に加え、電気代の割安な夜間電力を活用した冷蔵システム、GPSによる運行管理システム、出退勤・振込などの総務経理系システムでも慎重な対応が求められる。サポートに回るシステムベンダーも「来年実施の軽減税率制度への対応だけで手いっぱいなのに…」(消費財流通に強い有力システムベンダー幹部)と溜め息を漏らす。
サマータイム期間中のパート労働力の確保やシフトへの影響も懸念される。店舗や物流センターが始業時間を1~2時間程度繰り上げた場合、体調などに配慮するパート従業員らが一時的に流出するケースもありそうだ。特にスーパーは扶養控除の上限所得を超えない範囲で働くパート従業員に支えられており、シフト調整に苦慮する恐れがある。
また、日本スーパーマーケット協会と新日本スーパーマーケット協会は生鮮食品などの供給動向にも警戒の目を向ける。仮に国全体がサマータイムに移行したとしても、魚の活動時間帯や農作物の生育速度は一切変化しない。自然時間に最適化された水揚げや野菜収穫のタイミングを繰り上げるのは現実的ではなく、サマータイムに合わせて営業時間を設定するスーパーへのタイムリーな生鮮供給に支障が出そうだ。
サマータイム議論が本格化した今月上旬以降、農水省は各食品流通団体に実施時の流通への影響に関する調査を要請。現在、日本スーパーマーケット協会はシステム・労務・商品供給を焦点に調査を進めている段階だが、新日本スーパーマーケット協会と日食協は想定可能なマイナス影響をまとめた報告文書を先週までに提出。実施を回避するよう、強く要望した。
なお、新日本スーパーマーケット協会は当該文書の中で「サマータイム移行日に期限を『×月×日××時』と定めている食品の安全性を確保できない」とするなど、足の早い消費期限商品で起こり得る食品事故の可能性にも言及している。サマータイムへの認識を深めていくためにも、こうした情報を業界規模で速やかに共有する必要がありそうだ。
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