アルメニアとアゼルバイジャンは10日、係争地ナゴルノ・カラバフをめぐる戦闘を停止することで合意した。ロシア政府が仲介した。
アルメニアのニコル・パシニャン首相は、合意内容は「私にとってもアルメニア国民にとっても非常につらいものになった」と語った。
双方が領有権を主張するナゴルノ・カラバフは、国際的にはアゼルバイジャンの一部と承認されているが、アルメニアが1994年以来、実効支配している。
両国は6年にわたる戦争の末、1994年に停戦に合意したが、平和条約には至っていない。今年9月になって対立が激化した。
6週間に及ぶ戦闘の中でたびたび一時停戦合意が交わされたものの、いずれも破綻している。
今回の停戦合意はアルメニア国内で強い反発を招いている。抗議者らが議会に突入し議長に暴行を加えたほか、首相官邸でも略奪が起きていると報じられている。
合意の内容は?
和平合意は10日午前1時に施行された。
アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフのうち、今回の戦闘で制圧した地域を保持する。一方でアルメニアは、向こう数週間をかけて、進攻した複数の地域から撤退することに合意した。
ロシアのウラジミール・プーチン大統領はテレビ演説で、ロシアの平和維持軍が前線警備に当たると説明。ロシア国防相も、ロシア兵1960人を派遣すると認めている。すでにウリャノフスクの空軍基地から平和維持軍や戦闘員を乗せた軍用機がカラバフへ向かったという報道もある。
また、プーチン氏と会見に臨んだアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領によると、トルコも平和維持プロセスに参加する。
合意ではこのほか、捕虜の交換や、「全ての経済と運輸の接触が再開される」ことが決まった。
アルメニアでは合意内容に大きな反発
アゼルバイジャンのアリエフ大統領は、この合意は「歴史的に重要なもの」だと述べるとともに、アルメニアは「降伏」したに等しいと説明した。
アルメニアのパシニャン首相は、「戦況の深い分析と、最高峰の専門家との協議」の上で決断したと話した。
「これは勝利ではないが、敗北と思わなければ敗北ではない」
アルメニア側のナゴルノ・カラバフ地域の指導者、アライク・ハルチュニャン氏は同地域第2の都市シュシャ(アルメニア語ではシュシ)を制圧された後、停戦は避けられないと話していた。
また、すでにカラバフの主要都市ステパナケルト近郊でも戦闘が始まっており、紛争が続けばカラバフ全体を失うことになると述べていた。
現地メディアによると、アルメニアの首都ヤレヴァンでは合意に反発する市民が抗議運動を行っている。「我々は諦めない」と叫びながら、議会や政府施設に押し入る抗議者もいるという。
また、首相官邸も盗難被害に遭っており、パシニャン首相は「コンピューターや時計、香水、運転免許証など」が盗まれたと話している。
紛争の最終的な状況は
紛争を通じてアルメニア側は徐々に支配地域を失っていたが、先週末にはアゼルバイジャン軍がシュシャを制圧した。
一方のアゼルバイジャン軍は、アルメニア軍のヘリコプターと間違えてロシアの軍用ヘリを撃墜したことを認めている。これにより2人が死亡、1人が負傷した。
今回の紛争での死者数は明らかになっていない。両国共に、市民を標的にはしていないが相手側はしていたと主張している。
アルメニアのナゴルノ・カラバフ当局は、1200人近くの防衛兵が亡くなり、市民にも死傷者が出ていると述べている。
アゼルバイジャン側は軍の犠牲者数を発表していないが、市民80人以上が亡くなったとしている。
プーチン大統領は10月、全体で5000人近くが亡くなったと述べていた。
南コーカサス地方の地政学
ロシアはアルメニアに軍事基地を置いており、両国は旧ソ連国の軍事協約、集団安全保障条約(CSTO)に加盟している。
CSTOでは、アルメニアが攻撃を受けた場合はロシアが軍事支援を送ることになっているが、ナゴルノ・カラバフ地方を含む、アルメニアが実効支配しているアゼルバイジャン領には適用されない。
一方で、ロシア派CSTO非加盟のアゼルバイジャンとも良好な関係を築いており、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコもこれを後押ししている。
ロシアはアルメニアにもアゼルバイジャンにも武器を輸出している。
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