2020年東京五輪に向けた建設ラッシュに加え、相次ぐ首都圏の再開発、東日本大震災からの復旧・復興工事、老朽化するインフラの更新需要。異例の“繁忙状況”が続き、バブル期以来の好決算に沸く建設業界。2016年3月期決算では、ゼネコン各社が続々と過去最高益を叩き出している。
上場スーパーゼネコン4社の決算も5月13日までに出揃い、いずれも純利益で過去最高を更新した。本業の実力を表す営業利益では、大成建設が前期比7割増の1174億円まで伸ばして業界トップの座を死守。2015年3月期は最下位に落ち込んだ鹿島も、前期比8倍の1110億円へ膨らみ2位に急浮上。大林組は前期比2.2倍の1063億円、清水建設は前期比9割増の946億円と、いずれも高水準の数字が並んだ。
大きな要因となったのが、受注環境の好転と工事利益率の大幅改善だ。長く続いた建設不況の時代、ゼネコン各社は手持ちの仕事がなくなることを恐れて、とにかく工事の数を1つでも多く取ることに力を注いだ。
ところがここ2~3年は、建設需要が急激に増加し、受注段階でゼネコン側が採算の良い工事を選べる状況に変わった。その結果、4社の売上総利益率平均は、2015年3月期の5.8%から2016年3月期の11.2%へ、実に2倍近くまで急改善した。
背景には、工事発注単価の上昇もある。労働者不足を受け、公共工事の発注額を決める際に用いる労務単価を国土交通省が連続して引き上げた。この影響で、民間の発注者も単価を引き上げるケースが増加した。
しかし、今2017年3月期に目を向けると、スーパーゼネコン4社はそろって営業減益予想に傾いている。大成建設が15%減、鹿島が24%減、大林組が11%減、清水建設が1%減だ。懸念しているのが、深刻化する現場の技能労働者不足とそれに伴う労務費の高騰だ。
今期は秋以降から都内の再開発が徐々にピークを迎えるだけでなく、新国立競技場をはじめ東京五輪の関連工事も本格化する。鹿島は「年明けくらいから労務費や資材価格がかなり上がる」と見込み、売上総利益率は、2016年3月期の11.8%から、2017年3月期8.7%まで下がると予想する。清水建設幹部も労務費について「下半期は前年同期と比べて2~3%は上がるだろう」とみる。
確かに労務費の高騰は避けられないだろう。だが、スーパーゼネコン4社の手持ち工事は急増している。大成建設の2016年3月末の手持ち工事は前期比7.1%増。鹿島は同4.7%増、大林組も同13.3%増だ。
しかも、手持ち工事は、一般的に利益率が高いとされるトンネルなどの官公庁やNEXCO(高速道路会社)発注の土木工事に加えて、民間の建築工事も採算の良い大型案件が中心だ。「土木工事のさらなる利益率改善はないかもしれないが、民間の建築工事の利益率はさらに高まるだろう」と見通すゼネコンもある。
今期のスーパーゼネコン4社の営業利益は、会社想定ほどには悪化しないと予想される。
来2018年3月期以降も、ゼネコンが採算性の高い案件を選ぶことができる状況は続くもようだ。業界内では少なくとも2019年までは今の好環境が続くという見通しが大半となっている。
とはいえ、人件費を含めたコスト高が進む中で、現在の利益率をキープすることは難しい。高齢化が進む現場労働者の確保策など課題も多い。工事現場での作業を減らすプレキャスト化や人材配置の適正化など、施工効率アップのための取り組みを、高収益に驕ることなく進められるかどうかが、今後のゼネコンの優劣を決めることになる。
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