(以下引用)
ここまで紹介した諸々のニュースを総合的に見てみると、安倍政権は官僚の利権、とりわけ天下り利権に関しては非常に寛容だということに気づく。天下り調査のずさんさ、商工中金で天下りを禁止しなかったこと、政府系金融機関トップへの天下り復活などは、非常にはっきりとそれを示している。
天下り以外でも、内閣人事局長ポストを官邸政治家から官僚に大政奉還したことも官僚に甘い政策だ。
さらに、佐川長官人事は、極めつきの官僚擁護である。
こうした一連の官僚への懐柔策とも見える政策を連発するのにはもちろんわけがある。それは、今、官僚、なかでも財務省と経産省の官僚に反乱を起こされたら政権の息の根が止まるということを官邸が懸念しているからである。
例えば、森友学園問題について、財務省が本当のことをしゃべったら、安倍総理夫妻の関与が何らかの形で明らかになるのは避けられない。
また、加計学園問題でも柳瀬唯夫経済産業審議官(ただの審議官ではなく次官級のポスト)が安倍総理秘書官当時、今治市職員らと官邸で会談したのに、国会答弁では最後まで否定したが、もし、柳瀬氏がその会談を認めるようなことがあれば、これまた官邸の関与が明らかになってしまう。
さらに年末に明るみに出たPEZYコンピューティング社の助成金詐取事件でも閣僚や安倍総理周辺との関係が取りざたされていて、ここでも経産省の出方が事件解明の一つのカギとなっている。
つまり、財務省と経産省の官僚は、安倍政権の生殺与奪の権を握っていると言っても良いのだ。
官僚たちは、自分たちがそういう立場にいることは百も承知。
表向きは最大限安倍政権の意向を忖度して「ポチ」ぶりを発揮するが、裏では、「協力しますから、我々の利権はよろしく」という意図を阿吽の呼吸で伝えている。もちろん、そこには、「いざとなったら政権を倒すこともできるんですよ」という脅しの意味も込められているのだ。安倍政権もそれがわかっているということを形で示すためにこれまでできることはかなりやってきたということではないだろうか。
一方の安倍政権も、単に官僚にやられっぱなしというわけではない。そもそも天下りポストの維持は、安倍政権にとっては痛くもかゆくもない。マスコミさえ抑えて大騒ぎにしなければ自民党は誰も損しない、ノーコストなのである。そして、官僚たちに利権を守ってやるということをわかりやすく示すことには、「いうことを聞かなければ、本気でお前たちの利権潰しをするぞ」ということを見せつける効果もある。そして、文科省の事件のように、時として、それがブラフではないということを示す。
そのあたり、相当緻密な計算を官邸は行っているはずだ。
■佐川国税庁官人事「適材適所」発言の危険度
以上見てきた限りでは、政官の取引がうまく成立し、大きな問題も起きずに5年が経過したように見える。
しかし、ここへ来て、非常に大きな問題が起きた。財務省と籠池泰典氏側との交渉記録そのものではないが、交渉についての財務省内での関係部局同士のやり取りがわかる記録が開示されたのである。財務省は、これをよりによって国会開会前の19日に公表した。官邸からは、直ちに、「官僚が反乱を起こそうとしている」という情報が流れたようだ。「報道ステーション」の後藤謙次コメンテーターもさっそくその情報拡散に協力していた。
しかし、それは官邸が苦しくなると使う常とう手段だ。
実態としては、地検の捜査も入り、財務省も安倍政権のことだけを考えている余裕はない。森友事件に関与しなかった官僚から見れば証拠隠滅の罪に問われるのはもちろん、あとで、あった資料をないと言った責任を問われるのはまっぴらごめんだろう。文科省の「怪文書事件」の記憶もまだ生々しい。検察に押収された資料をないと言って嘘をつくことは無理だという判断をする官僚の声を無視できなくなったのかもしれない。
これは、ある意味、官邸と財務省の呼吸に乱れが生じていることを示している。
官邸としては、佐川長官の人事を簡単に撤回するわけにはいかない。そんなことをしたら財務省の逆鱗に触れる可能性がある。したがって、安倍総理も菅官房長官も、とりあえず、この人事を「適材適所」と強弁せざるを得なかった。
しかし、これは大変な判断ミスだった可能性がある。時はまさに確定申告時期と重なる。国税当局に対する中小企業や庶民の風当たりが一番強まる時だ。書類を隠し、廃棄したことが評価されて昇進した国税のトップが、納税者に細かい記録の提出を求めることがいかにわかりやすい批判材料となるのか、それを官邸は過小評価した可能性がある。
昨年6月に文科省の「総理のご意向」文書を「怪文書」と切って捨てたことを会見で何度も追及されて、菅官房長官が醜態をさらし、支持率低下の大きな原因になった局面に非常によく似ている。
官僚を守らざるを得ない安倍政権が、このまま「適材適所」で正面突破を図るのか、どこかで折れて佐川長官の更迭に動くのか。その時財務省とどう折り合うのか。
ここでカギを握るのが、「望月砲」の炸裂があるかどうかだ。昨年6月に「忖度記者クラブ」のタブーを破って菅長官を追い詰めた東京新聞の望月衣塑子記者やこれに呼応する骨のある記者たちが、今回も「適材適所」についてしつこく追及し、それをテレビが大きく報じれば、国民の怒りが一気に爆発する可能性は十分にある。
その時、安倍政権が財務省との関係を考えながらどう対応するのか、しばらくは目が離せない状況が続くのではないだろうか。
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