Kasandras Beware
中国経済は壁にぶち当たらないだろう
by b
ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストでエコノミストのポール・クルーグマンが中国が壁にぶちあたることについて書いている:
中国は大きな問題を抱えている。私たちは道の途中の小さな挫折ではなく、もっと根本的な問題を指している。この国の 30年にわたる驚異的な成長の原動力であった経済システムは、その限界に達しているのだ。つまり中国モデルは万里の長城にぶつかろうとしており、問題はその暴落がどの程度になるかということだ。
…
賃金は上昇し、ついに普通の中国人も成長の果実を分かち合えるようになった。しかし、それは同時に、中国経済が突然、抜本的な「リバランス」の必要性に迫られていることを意味している。リバランスとは今はやりの専門用語だ。投資は現在、急速に収益の減少に直面しており、政府が何をしようとも投資は大幅に減少する。その代わりとして個人消費は劇的に増加しなければならない。問題は、これが不景気を回避するために十分な速さで起こるかどうかだ。
これは2013年に書かれたもので、当時の中国の購買力平価(PPP)でのGDPは16.3兆ドルだった。その後、この数字は2023年には予測で33兆ドル以上に倍増した(同じ期間にアメリカのGDP(PPP)は17兆ドルから26兆ドルに成長した)。しかしこれはクルーグマンの結論に影響を与えなかった。2週間前に彼は別のコラムを書き、同じ暗い展望を描き、同じ誤った治療法を提案したのだ。
しかし、2000年代後半以降、中国はダイナミズムを失ったように見える。
…
中国はかつてのような高成長を維持できないのは明らかだ。
根本的なレベルで、中国は貯蓄のパラドックスに苦しんでいる。これは消費者があまりに多くの貯金をしようとすると、経済に悪影響を及ぼす可能性があるというものだ。もし消費者が貯蓄に回そうとするお金を企業が借り入れ、投資しようとしなければ、結果として景気は悪化する。そのような景気後退は、企業の投資意欲を減退させる可能性があり、そのため、貯蓄を増やそうとすれば、かえって投資を減らすことになる。
…
明らかな答えは、個人消費を増やすことだ。国有企業に、従業員と利益を共有させるように促すこと。セーフティネットを強化すること。そして短期的には、政府が単に国民にお金を提供することだ。アメリカがやったように小切手を送るのだ。
貯金を好む人々に対して小切手(ちなみに中国やヨーロッパの国民は誰もこのような骨董品のような小切手を使っていない)を提供することは、彼らの消費を増加させるための方法としてはどのように機能するのだろうか?それはむしろ貯金を増やす可能性があると私は思う。消費を増やすために貯金を好む人々に追加の収入を提供することは、まったくの愚策だ。
中国在住で北京語を話すエコノミストのデビッド・フィッシュマンは、タクシー運転手と興味深い話をした。彼の結論はこうだ:
1.不動産を購入した後でも、長期的な視点に立つと、タクシー運転手Yangがお金を貯めようとするのは、長期的なことを考えるからだ。おもに娘と両親のことである。
2.Yangと彼の妻は長期的な目標のために消費をあきらめ、本業以外にアルバイトもして長期的な目標のためにお金を貯めている。
3.彼はゆるやかな/自由な消費習慣を、若さと責任感の欠如と結びつけている。彼の今日の消費は戦略的で意図的である。
4.彼は不動産が値崩れしても平然としている、 住むために家を買ったのであり転売するつもりはないからだ。
さて、マクロ経済の評論は私の専門ではない。
しかし、もし私が、専門家が中国の消費者について語り、政府の政策に対するその振る舞いについて話しているのを聞くと、いつもその一般的な中国の消費者の行動に対する彼らの心のモデルがどのように見えるのか疑問に思うだろう。
この一般的な中国人消費者の行動に関する彼らのメンタル・モデルはどのようなものなのだろうか?といつも思う。
信頼に値するのは、今日の財政的必要性ではなく、親孝行の息子となる準備と、彼の3歳の娘がいつかダンスのレッスンを受けられるように、余分な仕事をして消費をひかえるというYangのような消費者行動が規範となるべきなのだ。
これがクルーグマンが中国経済を診断する際の問題点である。中国では人々はよく働く。そして、彼らは収入をすべて消費する代わりに貯蓄することを好む。かなりはやく定年退職するが、長生きする(定年の年齢はこれから上がるだろうが)。だから副収入を少し持っていた方が、晩年はより良い暮らしができるということだ。
男性の正式な定年は60歳。管理職の女性の定年は55歳で、ブルーカラーの女性労働者は50歳である。
中国人はただ単にアメリカ人ではないのだ。しかし、クルーグマンの経済モデルは中国人がアメリカ人であることを前提にしており、その先を見ようとしない。
それでも、コラムの冒頭でこう述べたとき、彼は何かを掴んでいた:
中国に関するナラティブは、止められない巨人から、哀れで無力な巨人へと、驚くべきスピードで変化してきた。
中国経済に関するナラティブが、中国経済の数字以上にはるかに速く変化したのは事実である。しかし、クルーグマンはその理由を問うことはない。
このようなナラティブの変化は、投資家の利益に資するという意見もある:
第一に、欧米の論客が最も注目しているのは、中国経済における外資の偏った配分である。
…
第二の特徴は、金融業界が投資オプションを売るために政治経済的なストーリーテリングに依存していることである。
しかし、これはおそらく、米国の対中戦争を支援するための政治的手段なのだろう。
ニューズウィークは最近、上海(人口2500万人)は『ゴーストタウン』になったのか?というばかげた記事を掲載した。
グローバル・タイムズの編集者は、このような「悪い中国」ナラティブの背後に政治的動機があると見ている。
もしニューズウィークだけがこのようなことをしているのならそれは単独のケースであり、このメディア企業の職業倫理に問題があることを示すもので、それが引き起こす悪影響はあまり大きくない。ところがニューズウィークに限らず、欧米のメディアは今年3月か4月頃からある時点のある特定のデータを選択的に用いてあたかも一般的であるかのように取り上げたり、中国経済を貶めるために情報を捏造することさえしている。これは一貫した手順を踏んだ、近年まれにみる協調的で大規模なキャンペーンである。これが偶然だと言えるだろうか。
「悪い中国」のシナリオは経済的な現象だが、政治的な理由で使われている:
経済学の分野では「ナラティブ経済学」と呼ばれるものがあり、これは「物語」を用いて判断に影響を与え、 虚偽の情報を作ってでも対象となるものの士気や信頼を低下させ、海外からの投資を抑止することで、経済に大きな影響を与えようとするものである。米国は公然と中国を最大の競争相手とみなし、多くの面で中国を仮想敵国として扱っている。中国と公正に競争することは期待できない。自ら始めたこの「競争」に勝つために、アメリカはしばしばあらゆる手段に訴える。この視点は、米国が集団的に中国経済の悪口を言っている現象を説明できるし、米国の今後の対中行動をおおよそ予測することもでき、基本的な事実と一致している。
中国の悲観論が抱える問題は、それがプロパガンダであるということだ。プロパガンダは現実を変えない。事実に直面すれば、プロパガンダは崩壊する。
戦争に負けると、戦争プロパガンダは崩壊する。新しい数字がでると、経済プロパガンダは崩壊する。2013年のクルーグマンの悲観的なプロパガンダは中国の成長によって打ち破られた。2023年のプロパガンダも同じ運命をたどるだろう。
Links: The original version of this article, at the URL below, contains several links to further information not included here:
https://www.moonofalabama.org/2023/09/kasandras-beware-china-will-not-hit-the-wall.html
コメント