「新聞の誤報は免罪、新聞記事に基づく意見表明は有罪」？

問題の事件や裁判自体を知らないのだが、書かれた内容を斜め読みしただけでも大筋は分かるし、それがかなり重大な意味を持っていることも推測できる。
要は、我々のこの国は「法律の恣意的運用が行われている中世国家である」と言えるのではないか。

（以下引用）

これに納得いかない人がいるみたいなので解説。

名誉毀損は「公然とある人に関する事柄を摘示し、その人の社会的評価（名誉）を低下させた」場合に成立する
他人の社会的評価を低下させる発言は（原則として）名誉毀損
ただし、いくつかの限られた条件をクリアした場合に限り、例外的に免責される
- 真実性の法理（公共性があり、公益目的であり、摘示した事実が真実の場合）
- 真実相当性の法理（公共性があり、公益目的であり、摘示した事実は真実ではなかったが調査義務を果たしている場合）
- 公正な論評の法理（今回は関係ないので略）

記事には「毎日新聞社に対しても損害賠償を求める訴訟を起こしたが（中略）真実と信じる相当の理由があったとして請求を棄却」とある。

これは真実相当性の法理によって免責されたということなので

ということ。妥当。

一方、森裕子に対しては「全国紙の報道であっても、真実と信じる相当の理由があるとは言えない」として真実相当性の法理による免責を認めなかった。

これは2010年の最高裁判決（最決平成22年 3月15日刑集64巻2号1頁）を踏襲していると思われる。最高裁判決については以下の資料が参考になる。

最高裁判決を要約すると「一般市民であってもマスコミと同等の調査義務が課される」、換言すると「裏付け取材を行わない限り、真実相当性は認められない」ということ。

今回の判決においても同様の基準が採用されたのであれば、森裕子は「毎日新聞の記事を鵜呑みにし、裏付け取材を怠った」ために真実相当性を認められなかったということになる。妥当。

以下、目に付いたブコメを引用しつつ、雑感を述べる。

BIFF 本件の「全国紙の報道であっても、真実と信じる相当の理由があるとは言えない」と毎日新聞の訴訟での「真実と信じる相当の理由があった」は整合性取れてるのかちょっと気になる。。

毎日新聞は裏付け取材を行ったために真実相当性が認定され、森裕子は全国紙の報道を鵜呑みにし、裏付け取材を怠ったために真実相当性が認定されなかった。整合している。

fops 「全国紙の報道であっても、真実と信じる相当の理由があるとは言えない」そうなの？？記事に問題があるならリンクより、記事を書いた人に問題あるんでないの？

それは「配信サービスの抗弁」と呼ばれるものだが、最高裁は配信サービスの抗弁を否定しており、記事を転載した側も当然その責任を負うべきだという判例が確立している。

名誉毀損は言論における道交法
- ほとんどの人は道交法を厳守していないが、たまたま検挙されていないだけ
- ほとんどの人は名誉毀損を意識していないが、たまたま訴えられていないだけ
一般人が裏付け取材なんかできるわけねーだろ
訴えられたら100%敗訴すると思って生きるしかない

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