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徽宗皇帝のブログ

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「龍は飛翔するか」中国の今後(1)
作家村上龍の発行している無料メールマガジン「JMM」から転載。(正確には、「阿修羅」からの再転載)
これからの世界を考えるには中国をどう考えるかが重要だが、ここに掲載された意見は複数の識者の意見を並列しているので、それぞれの意見の長所短所を取捨することができる。意見を述べる側も、それを意識して正直に発言している部分が多いので、非常に参考になると思う。普通なら、「専門家」は、自分の所属する組織や自分自身の利益を優先するために、彼らの意見ほど嘘だらけのものはないのである。そのことはマスコミに登場する「識者発言」を見れば一目瞭然だろう。
村上龍自身については、私はその知識や判断をそれほど高くは評価していないのだが、彼のこの企図自体はタイムリーで素晴らしいと思う。
長い記事なので、2回に分けて掲載する。タイトルの「龍」は村上龍ではなく、もちろん中国のことである。


(以下引用)

■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
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 ■Q:1110
 上海万博がはじまりました。中国の存在感は増すばかりという印象を受けます。中国の国力の充実と経済発展によって、我が国のどのような層が利益を享受し、どのような層が不利益を被るのでしょうか。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫:信州大学経済学部教授
 最近の中国経済の台頭は、確かに目覚しいものがあると思います。金融危機後の世界経済の落ち込みも、中国の顕著な経済成長がなかりせば、さらに長期化していたと考えます。今まで世界経済を牽引してきた米国が、今回の金融危機によって、覇権国としての地位を中国に譲ったとは思いませんが、相対的なバランスはかなり変化しています。2050年に、世界最大の経済大国は、米国から中国に移行しているという予測の実現可能性が高まったことは確かでしょう。わが国の中でも、中国経済の台頭を上手くビジネスチャンスとして利用している分野では、かなり恩恵を受けていると思います。一般的に、わが国企業の中では、つい最近まで、中国を生産拠点と位置づける考え方が有力だったと思います。彼等のビジネスモデルは、新製品の研究・開発を国内で行い、生産技術が安定した段階で、その生産拠点を中国に展開するという方式が多かったと思います。その結果、主要部品を中国に輸出して、それを中国の安価な労働力を使って組み立て・加工し、完成品のかなりの部分を、最終需要地である欧米に輸出するというものでした。
 ところが、リーマンショック以降、米国の個人消費が落ち込み、最終需要地である欧米諸国への輸出が減少しました。そうなると、中国=生産拠点というビジネスモデルが通用しなくなります。
 一方、中国政府の大規模な景気刺激策によって、内陸部の個人消費が喚起されるようになり、それが、沿岸部の主力輸出企業の経済活動の低下を埋め合わせる格好になりました。勿論、中国のGDPに占める消費部分は、主要先進国と比較して、まだかなり低水準ではありますが、中国政府の政策意図が働いていることもあり、中国の経済構造は徐々に変わっていると考えられます。
 こうした変化によって、中国を消費地と見るビジネスモデルも有効になっているようです。最近、わが国企業が扱う女性用化粧品の中国向け売上げが、顕著に増加しているという話を聞きました。従来の生産財や資本財に加えて、それなりに優位性のある消費財を扱っている分野でも、中国でのシェアが上昇しているケースはあるようです。それらとの関連性によって、相応のメリットを享受している人たちがいると思います。
 逆に、米国経済の相対的な地位の低下によって、米国依存度の高い分野、あるいは企業は、痛手を受けているケースが多いと思います。米国と中国では、一人当たりの所得が違っています。そのため、購買の対象となるプロダクトのセグメンテーションはかなり異なると思います。企業が優位性を持つプロダクトの分野、あるいは価格帯を、中国の需要に上手く適合できないと、需要の取込が難しくなることが考えられます。
 もう少し視点をステップバックして、中国経済に限らず世界経済という観点で考えると、中国経済の台頭は、世界経済の変化と捉えることができると思います。そうした変化に迅速に対応できる人々は、それなりのメリットを享受できると考えられます。それは企業レベルのことだけではなく、個々人のレベルでも同じことが言えると思います。
 これから、中国を中心とした新興国経済の発展が続くと、おそらく、資源の獲得競争から、人材の獲得競争に移行すると考えます。中国の家電メーカーの日本人技術者のリクルートや、中国企業のM&Aの活動をみると、既にその兆候は明確に出ているように思います。様々な経営資源の争奪戦では、多くのケースで勝者と敗者が出ることになります。
 長期的にみて、誰が勝者で、誰が敗者なのかを判断するには時間が必要だと思いますが、短期的に見ると、変化に迅速に対応できる人、あるいは組織がメリットを享受できることが多いと思います。逆に、過去の成功体験やビジネスモデルに固執するセグメンテーションは、変化の中で生き残ることは難しくなるのでしょう。
                 信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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 ■ 北野一:JPモルガン証券日本株ストラテジスト
「失われた10年」を経験した米国、「失われた20年」に突入した日本、統合の歪みが顕在化しつつある欧州を尻目に、10%近い経済成長が続いた中国は、まさに00年代の覇者でした。その象徴として、2008年に北京オリンピックが開催され、今月から上海で万国博覧会が始まりました。
 00年代の中国の高成長は、投資と外需によってもたらされた結果、民間消費の対GDP比は30%台半ばまで低下しました。2010年代の中国は、消費主導、人間本位の経済成長を目指しています。そのために、中国では政府に集中しがちな富の再分配を促進し、農村の購買力を高めるため、土地の私的所有に道を開き、そのうえで社会保障制度の改革に努めていくようです。
 2006年に開催された中国共産党の中央委員会全体会議では、「和階社会(調和のとれた社会)」の構築を目指すべく、2020年までの目標として、都市と農村の発展格差の解消、十数億人が豊かさを享受できる小康社会の実現などを並べました。上海万博のテーマも「よりよい都市、よりよい生活」です。40年前の大阪万博のテーマ「人類の進歩と調和」でも、進歩とともに調和が強調されことを思い出します。
 ただ、大阪と上海には、似て非なるものがあります。大阪万博が、東京の一極集中を避け、大阪の地盤沈下を防ぐという目的、すなわち国土の均衡ある発展が目指されたのに対し、上海万博では、都市化、すなわち農村部の余剰労働力の有効利用が目指されているように思います。中国では、一人っ子政策の副作用で、生産年齢人口の伸びが、2015年頃から鈍化すると言われます。この労働力不足を補うのが「都市化」です。日本では、国土の均衡ある発展の結果、生産性の高い都市への人口流入が止まり、高度成長の終焉につながったという説もありますが、中国は、さらなる「都市化」によって、成長の持続をはかる戦略のようです。だから、「よりよい都市」なのです。同じ「調和」でも、大阪万博と上海万博の狙いは全く逆です。
 ちなみに、当社の株式調査部には、自動車、電気機器、小売業などを担当するアナリストが十数名おりますが、昨年から食品や医薬品などのいわゆる消費財を担当するアナリストの中国出張が目立ってきております。株式市場の参加者も、「都市化」をキーワードに、消費財を中国に供給する企業にチャンスがあるとみているようです。なお、00年代における中国の貿易大国化の影響は、中国と競合する労働集約型製品を供給するASEAN諸国などにはマイナス、中国と補完関係にある日本などの先進国にはプラスに働きました。
 さて、中国では「一つの中国」のなかに「四つの世界」があると言われているように、発展段階の異なる地域が混在しております。それらを平均すると、1970年頃の日本に似ているということになるのでしょうが、最も進んでいる上海や北京などは1980年代の日本と同じ発展段階にあると言えるでしょう。
 1980年代の日本ではジャパン・マネーの力で海外の土地や企業買収に積極的でした。現在の中国でも、対外直接投資(走出去)が盛んになってきました。結果的に失敗に終わりましたが、2005年には中国海洋石油による米大手石油会社ユノカルの買収が話題になりました。2009年には、これまた失敗に終わりましたが中国のアルミ大手チャイナルコが英豪資源大手リオ・ティントを買収しようとしました。
 むろん、こうした「資源」に興味を示すチャイナ・マネーに日本も無縁ではありません。『奪われる日本の森』(平野秀樹、安田喜憲、新潮社)によると、中国が日本の山の買い占めに動いている気配があるとのことでした。中国人の足跡が認められるのは豊かな「水資源」に恵まれている奥深い山林です。日本の場合、土地の私有権が非常に強いので、外国人でも山を買ってしまうと、その地下水まで処分権が及ぶということでした。こうした山の下流に住む日本人は、安閑としていられないかもしれません。
 ところで、万博のジンクスですが、経験的に万博というのは経済的混乱の前兆にみえて仕方がありません。まず、大阪万博は結果的に高度成長の終焉を刻印するものでした。直接的な因果関係はなにもありませんが、1973年の石油危機時のトイレットペーパー騒ぎは万博会場の隣の千里ニュータウンから始まりました。
 1992年のセビリア万博は、同じ年のバルセロナ五輪と並んで、私の中では欧州通貨危機の記憶につながっております。あの頃、日本はバブル経済の余熱ともいうべき高金利に悩む借り手が大勢いました。そこで、邦銀は、勢いのあるスペイン・ペセタの買い、欧州連合に参加しないスイス・フランの売りを仕組んだ金融商品(デリバティブ商品)を組成しました。スペイン・ペセタが上昇する限り、低金利を享受できるということで人気商品になったのですが、悲惨な結果に終わりました。スペイン・ペセタなどの欧州通貨が暴落したことから、金利を節約できるどころか、逆に罰則的な高金利を支払わねばならなくなる企業が続出しました。
 2005年の愛・地球博もそうです。同年に開港の運びになった中部国際空港とならんで、「名古屋のピーク近し」を予感させました。1992年に新幹線の「のぞみ号」が営業運転を始めた時には「名古屋飛ばし(当初、名古屋は通過駅でした)」が話題になったのに、隔世の感がありました。為替相場というのも馬鹿にならないもので、1995年の超円高が、一転して2007年には超円安になりました。この十数年間に、最も利益を受けたのは輸出産業を後背地にもつ名古屋でした。愛・地球博覧から2年必要でしたが、超円安は2007年に終わりました。
 むろん、二つや三つの前例をもって一般化するのは危険ですが、万博のような象徴的なイベントがあると、それに便乗する輩もいっぱいいることでしょう。「成長する中国」、「躍進する中国」、「中国の一人勝ち」なんてことを勝手にメディアが宣伝し、イメージを膨らませてくれるのですから、楽なものです。その意味では、こういうムードを利用しようとする人もいるよ、ということだけは頭の片隅に置いておきたいと思います。
           JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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『奪われる日本の森』平野秀樹/安田喜憲・著、新潮社・刊
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103237414/jmm05-22 )
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 ■ 菊地正俊:メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
 中国は日本の輸出相手先として最大で、日本の全輸出の約2割を占めます。2009年度通年で、日本の中国向け輸出は前年比4%減りましたが、中国経済が過熱するほど回復した今年3月に限ってみると、前年同月比47%も増えました。製品別輸出では、輸送機が130%増、機械が70%増と急増しました。中国の1~3月の実質GDP成長率は、前年同期比11.9%と高成長になりました。中国の高成長は、日本の輸出企業に恩恵をもたらします。特に、中国企業が作れず、日本が国際競争力を維持している機械や自動車などの産業の恩恵が大きいといえます。
 ゴールデンウィーク期間中の日本のテレビは、5月1日に始まった上海万博、日本の高速道路の渋滞、米軍沖縄基地の移設問題に集中していました。中国市場でアピールするために、日本産業館には42社が出展したといいます。最近、発表された日本企業の中期経営計画をみると、約8割の企業がアジア、特に中国での成長を目標に掲げていました。5月3日の日経で、日立製作所の川村隆会長が、電機産業の回復は中国の成長持続が鍵とコメントされました。日立製作所は電機メーカーの中では内需比率が高く、また電機産業は中国より米国経済次第という印象がありましたが、電機産業も中国次第という時代が到来したということのようです。
 現在の中国は、1970年代初めの日本に似ているといわれます。1970年代に開催された大阪万博は入場者数が6500万人と、過去最高の入場者数を記録しました。上海万博は7000万人の入場者数と、大阪万博を抜いて、過去最高の入場者数を目指しています。上海の1人当たりGDPは1万ドルを超えていますが、中国全体では3500ドルと、日本の1970年代初頭とほぼ同水準です。閉塞感が漂う日本では、高成長を謳歌していた昭和中頃の時代を懐かしむ声が増えていますが、中国は足元及び将来だけの高成長だけを見つめているようです。
 日本では1971年にニクソンショックが起きて、円が切り上がり、日本の成長率が切り下がりましたが、現在も人民元の切り上げが世界的な関心事になっています。経済が発展すると、通貨が切り上がるのは自然な流れです。人民元が切り上がれば、中国や第三国における日本企業の中国企業に対する価格競争力が高まって、日本の輸出が増えるでしょう。中国企業と競合関係にある鉄鋼や医療機器などが恩恵を受けるでしょう。
 人民元の切り上げは、中国消費者の購買力のさらなる増加を意味します。中国で価格が高めの日本製品に対する需要が増えると同時に、日本への中国人旅行客も増えるでしょう。食品、化粧品、自動車などの産業が恩恵を受けるでしょう。中国沿岸部は人手不足が問題になっており、人民元高は中国での製造コストを引き上げるため、生産性向上のために、日本のロボットに対する需要が増えるでしょう。
 逆に、打撃を受けるのは、中国を競合するような低付加価値の製品を作っている企業や、その従業員です。政府の度重なる対策にもかかわらず、日本の中小企業が良くならないのは、大企業の海外工場移転や、低付加価値品における中国企業との競争激化の影響と考えられます。大企業でも、従業員の給料が上がらなくなったのは、要素価格均等化の法則に基づいて、企業が海外生産コストと国内生産コストの比較を行うためでしょう。中国の人件費や生産コストが上がったとはいえ、日本より大幅に低い状況に変わりはないので、昇給を望む日本の労働者は、中国の労働者が作れないような付加価値の高い分野へシフトする必要があります。
         メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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 ■ 中空麻奈:BNPパリバ証券クレジット調査部長
 マクロ的な見地に立って回答すれば、中国の国力の充実と経済発展によって、我々日本は全体的に大変な利益を享受したし、これからも享受しうると言えます。サブプライム後の金融危機で世界中の景況感が冴えなくなりましたが、中国をはじめとする新興国が元気でいてくれたお蔭で景況感が持ち直し、今後も低成長ながらも回復していくと期待できるのは中国の年8%平均の成長があってこそ。一方、中国の外貨準備高が増え、存在感ある米国債の買い手となったことで(政治面のパフォーマンスの良さも!)、ジャパンバッシング現象がますます増えたことは日本全体の不利益と言えるでしょう。
 ミクロ的な見地に立って回答すれば、中国の国力の充実と経済発展によって、様々なセグメントで事業利益確保が可能になるという“メリット”を受けた一方、中国が依然未成熟な部分を残すがゆえ、たとえば投資回収がままならないという中国ビジネスの難しさを受けた“デメリット”や、中国の労働力の安さから労働集約的なセクターがキャッチアップされつつある“デメリット”を受けだしたこと、産業の空洞化が進む“デメリット”があげられます。以下、いくつかのセクターを取り上げ、中国の存在による利益・不利益を見てみることとします。
 まず鉄鋼セクターです。鉄鋼セクターは、このところの内需の不振を中国の急成長により高品質の鉄鋼需要が増大化したことで、補填してきたセクターの筆頭だと言えると思います。需要が冷え込めば鉄鋼セクターの売上高は伸びませんが、需要増大が続く中国のお蔭でそれが補えました。日本の鉄鋼メーカーがメルトダウンせず、復活するきっかけを掴めたのはまさに中国があったからこそ、と言っても言いすぎではありません。
 でも、中国は安い労働力を使って、粗鋼生産を独力で始めたがゆえ、よりシンプルな低品質製品は中国に取って代わられ、日本は好むと好まざるに関わらず、高品質な製品(自動車鋼板などがその例)をメインにしていくしかできなくなりました。もちろん、そちらのマージンの方が高いわけですから、目先の利益にはプラスなのですが、中国の存在感の増し方が尋常でないため(グローバル粗鋼生産ランキングを見ると、トップ10における中国のシェアは2006年17.8%から2009年には48.7%に急増しています)、価格競争力の喪失と引き換えでもあり、痛し痒しです。資源メジャーが鉄鋼価格の交渉を四半期に見直すと日本鉄鋼メーカーに通告したのは、実に象徴的な出来事と言えるでしょう。
 次に自動車セクターです。自動車の販売台数は日米欧では低下傾向が継続ですが、中国をはじめとする新興国は拡大傾向を続けています。マージンは圧縮されますが、日本の自動車メーカーの中で利益をあげようとすれば、すでに新興国市場へのシフトをしておかねばならなかったことになります。トヨタには中国進出に対し、投資回収がままならない危険を伴うとの判断から躊躇した経緯があります。そのせいで中国からのリターンが限定的なままになっています。しかし、たとえば日産は中国での生産・販売をうまくビジネスモデルに仕組んだため、リターンが出ています。中国成長の利益への取り込みという意味では、トヨタ対日産は日産に分があることになりました。いかに中国ビジネスを収益機会にするかの巧拙が、利益に影響を与える例と言えるでしょう。
 こうして考えると中国が高成長を続ける過程で、日本の素材メーカーから徐々に中国進出が始まり、過剰な需要のお蔭で利益をあげる構造が出来上がったセクター、会社が散見されるようになったということになります。これが中国成長のお蔭で享受できた“利益”ということになります。一方、素材メーカーの中には、中国での投資回収のタイミングが合わなかったところも出てきたと聞きます。造船などはその一つでしょう。結果、造船会社と一緒に中国ビジネスに出て行った金融機関の中には、投資回収が出来ない“不利益”を被っているところもあるようです。
 その他には、中国の安い労働力をあてにして産業の空洞化をもろともせず、中国進出をしている日本の製造メーカーを考えておくべきでしょう。日本の冷凍食品に毒素が入っていたというようなことは極端な例でしょうが、安い労働力が低い品質を余儀なくしてしまう可能性は否定できません。信用力を失うことは、低コストでマージンを確保する以上に、修復が難しいため、“不利益”が生じ易い点としてみておくことが必要かもしれません。
 結論としては、中国の成長のお蔭で、我々日本は全体としてプラスの効果を受けたと言えるのではないでしょうか。需要増大による利益の確保が実現するセクターが散見されているからです。ただ、今後もそれが続くかというと、世界中の製造業が中国需要に期待しすぎているため、どこまで利益確保できるかは徐々に当てにできなくなりつつあることは付け加えたいと思います。
 一方、“不利益”の受け方は、以下三通りに整理できるのではないでしょうか。第一に、素材、とりわけ簡単にキャッチアップできるような製品は日本製から中国製に取って代わられること。第二に、日本の製品の品質が低下する危険性を孕むこと(安かろう悪かろうの具現化)。第三に、中国の成長がまだら模様で、ビジネスも未成熟な面が残ることにより、投資回収が不可能になるリスクがあること、によって、です。
 東京ディズニーランドに行けば、中国語が飛び交っていることはもはや常識です。八重洲のランチタイムで、注文を取りに来るのも相当の確率で中国訛りの日本語だったりします。今回私は日本が中国進出をしていくことで受けるメリットデメリットのみに注目して議論しましたが、日本に進出してくる中国という観点でも議論が必要になってくるでしょう。投機筋や金持ち層の中国マネーが日本の不動産を買い捲って、日本人が不動産を買えなくなるという時代は、既に始まっているのかもしれません。中国の人口から見て、潜在成長率が高いまま推移するであろうことは期待できます。であれば、現在メリットを受けていない企業・セクターも含めて、我々日本人は中国ビジネスをいかに利益にしていけるかを考えてビジネスモデルを組み立てていく必要があります。中国脅威論におびえてばかりでは、何らの道も開けません。隣人との共存共栄を図ることは、阿倍仲麻呂の時代からの我々の望みのはずです。
            BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
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