https://ameblo.jp/don1110/entry-12759789543.html
<転載開始>
(上)
民主主義も独裁も中枢『金権』の末梢神経
二ヶ月間に四名の元司法大臣収監さる—現首相と現外相はスエズ運河会社の取締役、国務大臣は治金鉱業組合の理事、海軍大臣は鉱山会社の取締役—仏国の表政府と裏政府—裏政府の閣僚はいずれもそうそうたる実業家—昨日のドイツ国会議員今日の仏国国家議員ド・ヴェンデルその兵器工場は独、仏国境にありながら欧洲大戦中一発の砲弾をも受けず。不思議、不思議!—仏国最大の殺人用器製造会社社長シュナイデルは聖人なり—ヒットラーとシャフトの対話—ヒットラー猶太銀行家と交誼を結ぶ—ドイツユダヤ人九〇パーセントは既に帰国—ドイツ手形一度も割引されず。ドイツ破産に瀕す—
一
西洋は物質の力があくまで優越すす世界である。デモクラシーにもせよ、王政にもせよ、独宰政治にもせよ、日本人の考えるようなものではないらしい。何れもその中心をなしているのは物質の力、富の力であるらしい。スタヴィスキー事件の如き醜聞は決して珍しくない。フランスを例にしても大臣若くは元大臣で入獄したものが随分ある。殊に極最近二ヶ月間に検挙された元司法大臣が四名もあるのだから、そしてそれがすべて金のためだから如何に物質の力が強く働く世界だか想像が出来よう。
現在の内閣でも、首相と外相はスエズ運河会社(昨年度純利益五億二千二百万フラン!)の取締役であり国務大臣は治金鉱業組合に属し、海相は鉱山会社の取締役だ、これだけでもちょっと面白いが、これは表向きの政府であって、真実の政府は更に面白い。国粋党新聞ヌーベル・アージュの素っ破抜きによれば
首相兼外相 巴里オランダ銀行頭取フィナリー及びフランス銀行理事ドヴェンデル
経済大臣 仏国産業組合長、フランス銀行理事ドユシュマン
商工大臣 商工経済組合長フジエール
農務大臣 仏国農業組合長、スエズ運河会社長、フランス銀行理事ド・ヴォーギュ
交通大臣 北部鉄道会社社長、フランス銀行理事ド・ロスチャイルド
軍事大臣 シュナイデル兵器製造会社社長、パリマルセーユ鉄道取締役、北欧銀行、リヨン銀行取締役、欧洲工政連盟会長シュナイデル
新聞大臣 アヴ通信株式会社常務取締役ギミエー
内務大臣 パリその他二十都市電気会社取締役メルシェー
即ち仏国という共和体制の政治の実権はすべてそうそうたる実業家の掌下にあるのである。政府は彼等の支配に属しているのだ。これは単なる想像ではない。彼等が如何に政府を支配しているかという例を二三挙げれば、文明の国では如何に物質の力、金力が物をいうかという事が少しは日本人にも理解されようか—
首相兼外相と目されるド・ヴェンデルは仏国最大の兵器製造会社としてシュナイデル社と肩を並べる大会社の社長であるが、その名の示す如くドイツ系仏人であり、事実六十年前まではフォン・ヴェンデルとドイツ流に名乗った立派なドイツ人だった。それが改称して仏人になり、仏国政府に兵器を供給する事になってからも勿論祖国ドイツには兵器を供給している。だから欧洲大戦中にでもド・ヴ、エンデル社工場地帯は戦い最も激烈なりし独仏国境にあるにも拘わらず、独軍からも、仏軍からも砲弾一発見舞われず完全な中立地帯、激戦地の真ん中の楽園であった。ということはちょっと日本人には想像出来ないかもしれないが事実である。実際ド・ヴェンデルは目下仏国国会の議員であるが、大戦前にはドイツ国会議員であったのだ!驚いてはいけない。軍事大臣と目さるるシュナイデルこそは仏国工業界の帝王ともういべき人物である。日本がシュナイデルから年々X百万円余の機関銃やその他の兵器を買入れていることは知る人ぞ知る。支那は千万弗以上毎年買入れている。シュナイデルの日本代理店は大倉商事である筈だ。シュナイデルは有名なスコーダ大工場を全部買収した。以来同社の活躍はいよいよ猛烈だ。十数年来仏国はその保護国マロックで独立軍と戦争を続けているが、その独立軍の武器はほとんど全部仏国製だ。つまり大部分シュナイデル製だ。
敵軍にでもシュナイデルは武器を供給するのだから、他国にはいうまでもない。『国家』なる概念が日本人のとは全く違う。(現在アラビヤの戦争も実は英国のウィカースと仏国のシュナイデルと、イタリアのフィアトの三大兵器製造会社の計略に起因しているのだ。)けれども政府はシュナイデルを責めるものではない。なぜかなれば政府は大資本家の忠僕に過ぎないから。この世界的兵器製造会社シュナイデルの株は現今の恐慌時代にも一五〇〇フランの釘付相場を持続している。つまり額面の三七五パーセント約四倍に近いのだというのはそれだけ資本家政府の景気がよいという訳だ。数日前この人用凶器製造会社の社長が仏国最高の道徳学院たる倫理学院の教授の仲間入りをした。地獄の沙汰も金次第、否むしろ極楽の仏も金次第とは実にこのことであろう。
(漫画はパリ、メル・プラン紙の皮肉った『一九三四年の正義』)
流石ヒットラーもユダヤ人には降参
二
世界第一流の殺人用器具製造大会社の社長が事もあろうに仏国最高の道徳学府の椅子を占めるということは異国人の目には甚だ異様に見えるかも知れないけれど、物質万能の国では当然過ぎることである、仏国一流の大新聞は大部分このシュナイデルに援助されている『ロルドル』『デバ』『マタン』『エンヂュストリエル』は直接シュナイデル・トラストに属しているし、『タン』『エコドパリ』『ジュールナル』『エントラン』『プチパリジャン』『パリミヂ』『パリソワル』『エクセルシヨール』等々何れも補助を受けている『輿論は新聞によって作られる』という法則が新社会学で教えられるが、その新聞が資本家トラストによって作られる上は、殺人会社の社長たる大資本家が、最高の道徳学者つまり聖人と祭り上げられるのは極めて当然である、現外相バルツーが以前法相であった時、ある条件で部下国務次官リラにその妻の母にして有名な大百貨店ホテルドヴィールの社長から莫大な財産を譲渡させようとして世にも恐るべき非常手段を取ったということはあまりに有名だ
三
ドイツは今や破産に瀕している、ヒットラーは一時は救世主のようにいわれたがそろそろ非難が起りつつある、敗戦国ドイツの没落時代の混乱に乗じて立ったヒットラーは国民の自暴自棄気分と暴力を外敵に向けさせ、国内の産業、経済、学術までを牛耳るユダヤ民族を追放することによって失業恐慌を切り抜けたものの、今や財政上の大困難に打据えられてしまった、だから彼はもうユダヤ人排斥を止めた、このことは去年十月余が東京の第五インターナショナル週並会でドイツ大使館フォン・クノールからも聞いたが、事実如何にヒットラーが世界経済に君臨するユダヤ王朝に交誼を求めているかは次の如くヒットラーとライヒス銀行頭取シャフトとの対話によってもうかがわれよう—ライヒス銀行頭取シャフトはヒットラーのユダヤ人排斥追放の結果、ドイツが商業上、経済上世界孤立に陥り二進も三進も行かないことをヒットラーに訴えた
実際ロンドンでもパリでもニュウヨークでもドイツの商業的活動は圧殺されている、それが皆放逐されたユダヤ人の仕業だというのに対して
ヒットラー『しかし放逐されたユダヤ人の九割ももう帰国しているではないか』
と答えている
シャフト『しかしロンドンやニュウヨークやパリのユダヤ人は一人ででもドイツを経済的に窒息せしめますよ』
ヒットラー『僕はそう思わない、各国のドイツ大使は総てユダヤ系銀行家と交誼を結ぶことに最善の努力を払うように厳命されているし、またその通り努力しつつあるという報告が刻々に入って来る、現にパリの大使スケテルはパリに移住した唯二人のドイツのユダヤ銀行家と最も親密な関係を結ぶことに成功しているじゃないか、僕がユダヤ人排撃を中止し、親近的態度を取って以来、如何に反ユダヤ党の諸君から攻撃されているかは君も知っているじゃないか』
シャフト『しかし事実、ドイツ手形はロンドン、ニュウヨーク、パリでは一銭も割引されないのですから…』
ヒットラー『まあしかし、暫く辛抱してくれ給え、君に辞職されると忽ち困る、お互に目下のドイツでは辞職を許されていないんだ…』
世界を驚かしたヒットラーのユダヤ人征伐も竜頭蛇尾に終らねばならない運命を持っていたことは、それが民心動乱時代の切抜け策に過ぎなかったことを意味している、西洋ではこれ程富の力が政治に上に働きかけているということを我々は学べばいい、政権は完全に金力に支配されているのである、ヒットラーさえユダヤ人にはかなわないのである、日本にこのユダヤの手が何処まで入っているか、諸君は御承知だろうか?ドオデエは議会制度を偽会制度と呼んでいる、西洋の政治の実権は資本家のろう断する処である、物質文明即ち『物明』国の産物たる代議共和政体の実相は、精神文明即ち真の『文明』国の独宰政治の理想とは甚だしい懸隔があるようだ、西洋社会政治外交の裏面の醜怪さと戦慄すべき秘密が何の程度まで日本人に理解され信じられ、少くとも興味を引くだろうか疑問であるし、あまり深いことを通信するのが大きな危険に値するのを余は遺憾に思う
ただ隔離の感あるこの通信が、せめて西洋人のいわゆるデモクラシー、資本主義、独宰政治等の真相は日本人の理解せる如き否想像せる如きものではないらしい、という感じを読者に与えることが出来れば仕合せだ
データ作成:2011.4 神戸大学附属図書館
<転載終了>
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