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徽宗皇帝のブログ

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権力者たちは何の夢を見るのか
「私の闇の奥」より。長い記事だが、アメリカの「今」を考える上で重要な記事だと思うので、掲載する。「ドリーム法」とはよくも名づけたものである。官僚たちが、法案の内容と正反対の名前をつけて誤魔化すのは洋の東西を問わない手法だが、国民に人殺しをさせる法案が「ドリーム法」だとは、傑作の名称と言うべきだろう。精神障害者から金を奪い取る法案を「精神障害者自立支援法」と名づけ、社員の残業に企業が金を出さないでよいとする法案を「一家団欒法」(そうすれば残業しなくなり、社員は家に帰って一家団欒をするから!)と名づける類である。


(以下引用)



2010/09/29
貧しい人たちがお互いに殺し合っている(1)
 いまアメリカで問題になっている「ドリーム法(DREAM ACT, The Development, Relief and Education for Alien Minors Act )」という法案が連邦議会で審議中です。アメリカはそもそも外から北米大陸に移り住んだ人々が作った国ですから、征服された先住民を除けば、移民ばかりで出来た国だと言えますし、国を経営して行くためにも移民の受け入れを続けて行く必要がありました。移民問題はアメリカにとって、建国以来、歴史的に、連続的に、重要な問題であり続けて現在に及んでいます。その一つとして、白人移民と非白人移民の問題があります。1900年辺りまでは、ヨーロッパからの白人系移民が100%近くを占め、低賃金労働は元奴隷であった黒人たちとその後裔と中国などのアジア諸国からの奴隷的移民たちに振り当てられました。ところが2000年前後の統計では、中南米やアジア系の移民が約80%を占め、白人系/非白人系の比率が大きく逆転し、経済不況も手伝って、合法的に入国し生活をしている移民たちについても排斥の機運が高まっています。本来アメリカは白人の国であり、そうあり続けるべきだという主張です。しかも、一方では、奴隷的低賃金の労働力を求める国内企業が、不法に入国した人々、つまり、不法移民を雇用して企業収益をあげようとする傾向も顕著になりました。ここでアメリカのかかえる大きな政治問題としての移民法の全面的な議論をはじめる気持ちの余裕はありませんが、上に掲げた「ドリーム法」が成立すれば、貧しい非白人の若者たちが米軍の兵士として動員される可能性が大きくなることについて考えてみたいと思います。
 「ドリーム法(DREAM ACT, The Development, Relief and Education for Alien Minors Act )」のAlien Minors とは外国人未成年者を意味します。米国では普通21歳未満が未成年者とされているようですが、この法案ではもっと幅を持たせてあります。合法、非合法を問わず、小さい子供として親に連れられて米国に移住した若者たちの圧倒的大多数は、米国市民権を取得して米国で生活を続けることを希望しているわけですが、彼らのアメリカン・ドリームの実現を助けてやろうというのが、この「ドリーム法」の表看板です。アメリカでは、入国時の事情から外国人としての永住権も就業権も持たない外国人若者(undocumented alien youths)が一年に6万5千人も高校を卒業しています。彼らは、罪を犯したり、当局から睨まれたりすると、もとの国に送還される恐れがあります。ドリーム法はこうした若者たちに、永住権を取り、さらに米国市民権を取る機会を与えるために、二つの選択を提供します。一つは大学に進学して少なくとも2年間お利口に勉学に励んで、然るべき資格や学位を取ること、もう一つは米国軍に入隊して少なくとも2年間兵士としての訓練教育を受けることです。この2年間を過ちなく過ごした者には永住権が与えられ、市民権取得の可能性も得られます。自分たちのアメリカン・ドリームの達成を夢見る若者たちの大部分がこの「ドリーム法」の成立を熱く願っているのは至極当然と思われます。
 しかし、この法案に強い反対を表明する人たちも居ます。ドリーム法は、より多くの貧しく恵まれない若者たちを兵士に仕立てて戦場に送り込むことになる、というのが反対の理由です。子供を連れてアメリカに移り住んできた移民第一世代の家庭の多くは、おおざっぱに言えば、低所得階級に属しているでしょう。英語が国語でない国から移住して来た子供たちは、高校を卒業しても未だ大学進学に望ましい十分な英語力を身に備えていない場合も少なくないといいます。また、二つある選択肢の一つ、大学進学については、国や州などからの奨学金の保証などはドリーム法には含まれていません。優秀な高校卒業生には各種の奨学制度から援助を得られる可能性が十分あるとは思われますが、貧乏な家庭環境で育った出来ん坊主の若者たちにとっては、大学進学というオプションは選びにくいでしょう。良い大学には、成績的にも、学費的にも、進みにくいにちがいありません。これと対照的に、もう一つの軍隊入りのオプションの方は、大変魅力的です。住むところも衣料食事も与えられ、その上給料も貰えますし、英語力が不足ならば、中で補修の教育も受けられます。他の職業的技能を学ぶチャンスもあります。でも、兵隊になるのですから、戦場に送られて、殺し合いをするのが、一番本質的な義務であることは明らかです。しかも、ここに恐るべきキャッチ(落とし穴)があります。アメリカでの軍籍は一律8年間契約で、これを短くする道はないのだそうです。となると、最低2年の軍隊生活を終えて、普通の生活に戻れたにしても、あと6年間は、何時ふたたび動員されて戦場に向かわなければならなくなるか分かりません。現在、徴兵制度でないアメリカでは、ドリーム法に対する軍部の期待は大きいのです。実際、ドリーム法に関係なく、アメリカの高校のキャンパスには若者を軍隊に引き込むための派手なリクルート隊が乗り込んで、コンピューター・ゲーム的なブーツの中で、最新の小火器の射撃を若者たちに経験させることもよくあるようです。この場合も、貧しい家庭環境で育つ若者(女子生徒を含めて)たちのほうがより多くリクルートされる傾向にあると考えられます。この観点に立てば、志願制より徴兵制の方が貧富の差に対して公平でありうるわけです。現在のアメリカの場合は、さらに傭兵会社の問題があります。一番悪名が高いのは1997年にエリック・プリンス(Erik Dean Prince)が設立したBlackwater Worldwide で、2009年3月にはXe と名を変えましたが、世界最大の傭兵会社です。オバマ大統領はイラクから米軍は既に引き上げたと宣言しましたが、引き上げられた戦闘力はこうした傭兵部隊によって替わられただけのことで、一般兵士より、傭兵の方が給料が上なのが普通ですから、アメリカ国民にとっては、軍事費が更に増大したということです。ブラックウォーターは世界中から兵士を傭って訓練します。世界の貧しい若者たちにとってアメリカの傭兵会社の提供する給料は大変魅力的であるはずで、守るべき国のためでもなく、相手が憎いわけでもなく、自分に課せられた仕事として、自分たちと同じような境遇の人間たちに襲いかかり、殺すのです。
 ドリーム法が初めて議会に提案されたのは2001年ですが,それ以来、通りそうでなかなか通らず、今日に到っています。2007年の上院での討議の際には、当時の上院議員バラク・オバマは、すでに大統領選挙を射程に入れて、特にスペイン語を話すラテン系選挙民を標的として、彼一流の名発言をしています。:
■ Something that we can do immediately that I think is very important is to pass the DREAM Act, which allows children who—who, no fault of their own, are here but have essentially grown up as Americans, allow them the opportunity for higher education. I do not want two classes of citizens in this country. I want everybody to prosper. That’s going to be a top priority.(我々がいま直ぐに出来て、私が大変重要だと考えるのは、ドリーム法を成立させる事です。この法律は、彼らのせいでなく、たまたまここにいて、本質的にアメリカ人として成長して来た子供たちに高等教育を享ける機会を与えるものです。私はこの国に二つの階級の市民があることを望みません。誰もが繁栄してほしいのです。これが最優先事項ということになります。)■
いつもの事ながら、バラク・オバマの言や良し。しかし、ドリーム法が提供する二つの選択肢は、皆を分け隔てなく繁栄させるどころか、貧しい移民の子と貧しくない移民の子という二つのグループを否応無しに選別する事になるでしょう。この法律の少なくとも半分の目的が兵員の不足による米軍の弱体化を防ぐことにあることは、軍部と幾人かの政治家が公言して憚らないところです。もしオバマ大統領が移民の子供たちのすべてに等しい繁栄を与えることを本当に目指すならば、公の奨学金制度を整備して、貧しい移民の子供たちが高等教育を享ける事が出来るようにして、軍籍を選ぶオプションとの抱き合わせをやめるべきなのです。しかし、私は、彼がそうしなかった事を責めているのではありません。抱き合わせをしない「ドリーム法」など、発想の可能性すら無かったでしょうから。私が責めるのは、いつもの通り、オバマ氏の舌先の欺瞞です。上の発言当時の彼の最優先事項は移民票の獲得にありました。今年またドリーム法の審議が行なわれているのは、またしても、11月の中間選挙での民主党への票のかき集めを狙っての事です。
 「貧しい人たちがお互いに殺し合っている」という状況は、国連軍国際の的傭兵化によって、ますます深刻化しています。次回にはこの点を取り上げます。

藤永 茂 (2010年9月29日)

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