安倍首相は集団的自衛権の行使容認を踏まえた安保関連法案の見直しについて、一括審議する意向を表明。これにより法案審議が始まるのは来年通常国会にズレ込み、4月の統一地方選後になるのではないか、とみられている。解釈改憲への国民の批判が冷めるまで安保審議を封印するハラだが、そうやすやすといくものか。安保審議を先送りすればするほど、自らのクビを絞めることになる。

「どうなっているんだ!」――。
 3日、安倍首相は高村副総裁を官邸に呼び、そう怒鳴りあげたという。いらだちの理由は滋賀県知事選。自民推薦の小鑓隆史候補が予想外の接戦に追い込まれて焦っているのだ。

「告示前は元民主党衆院議員の三日月大造候補を10ポイントほどリードしていましたが、先週末の情勢調査ではついに立場が逆転。あるメディアの調査だと、三日月陣営に10ポイント以上も引き離されてしまった。集団的自衛権への反発票が、雪崩を打って三日月陣営に流れているのです」(自民党関係者)

 安倍首相自身が歴史的暴挙をゴリ押しした結果、“勝てる選挙”を落としそうになっているのに、先輩格の高村副総裁に責任転嫁とは筋違いもはなはだしい。それだけ世論の反発に精神が追い込まれている証拠だろう。安保審議の先送りは錯乱首相の悪あがきとみるべきだ。

■悪材料が目白押し

 11月の沖縄県知事選で集団的自衛権が争点化するのを避け、年末に控える消費税率10%引き上げとのダブルパンチも回避。集団的自衛権は一時棚上げし、あわよくば拉致再調査で得点稼ぎを狙う。安倍首相の心境はそんなところだろうが、そうは問屋が卸さない。

「仮に拉致問題で成果をあげても、その“神通力”がはたして来年の統一地方選まで持つのか。むしろ年内には消費税アップに加え、原発再稼働など首相にとって“悪材料”が目白押し。支持率の下落傾向を考えれば、統一地方選は厳しい選挙になりそうです。恐らく来年のGW明けに本格化する安保審議だって、16~18本の法改正が必要になる。菅官房長官は<1年かけて、しっかり議論する>と言いましたが、本来なら審議に2~3年はかかる数ですよ。短期間で審議を終えようとすれば必ず法案同士の整合性にほころびが出るし、それでも強行採決で押し切れば、ますます世論は離れていくだけです」(元法大教授・五十嵐仁氏=政治学)

 自民党内が安倍首相に黙って従っているのは高支持率があればこそ。来年の今ごろまでに支持を失えば、2年後の参院選や衆院任期切れが迫り、9月の総裁選前には「自衛権に固執する首相では選挙に勝てない」という意見が噴出しかねない。

「安保審議の先送りで、三重県松阪市の山中市長が提訴する『集団的自衛権の違憲訴訟』への最高裁判断と重なる可能性も出てきました。1票の格差の違憲訴訟は提訴から約1年で最高裁判決が下されていますからね。現在、最高裁判事には亡くなった小松一郎・前法制局長官の前任者だった山本庸幸氏が名を連ねています。昨年8月の判事就任会見で<集団的自衛権行使は、従来の憲法解釈では容認は難しい>と断言した人物です。違憲判決が飛び出せば、審議そのものが吹き飛びかねません」(五十嵐仁氏)

 安倍首相がのたうちまわって“破れかぶれ解散”に打って出るなら、大歓迎だ。暴走政権に鉄槌を下し、民主主義を正常化させるチャンスである。