マスコミに載らない海外記事さんのサイトより
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2025/04/post-c6d632.html
<転載開始>
ジェフリー・D・サックス
2025年4月3日
The Unz Review


 2025年4月2日水曜日、ホワイトハウスのローズガーデンで行われた「アメリカを再び豊かにする」催しで、ドナルド・トランプ大統領は政権の関税計画に関する大統領令に署名した。(ダニエル・トロック撮影、ホワイトハウス公式写真)

 基本的な経済的間違いで、ドナルド・トランプ大統領は世界貿易体制を批判している。アメリカの貿易赤字は、世界がアメリカを騙したことが原因だと彼は誤って主張し「何十年にもわたり、歴史上どの国も騙されたことのないほど彼らは我々を騙してきた…」などと繰り返し述べている。

 関税を課すことで貿易赤字を解消し、輸入を抑制して貿易収支を回復すること(あるいは他国がアメリカをだますのをやめるように促すこと)をトランプは目指している。だが、トランプ関税は貿易赤字を解消するのではなく、むしろアメリカ人を貧困に陥れ、世界の他の国々に損害を与えるだろう。

 ある国の貿易赤字(より正確には経常収支赤字)は黒字国の不公平な貿易慣行を示すものではない。全く別のことを示している。経常収支赤字は、赤字国が生産より支出が多いことを意味する。つまり、投資よりも貯蓄が少ないということだ。

 アメリカの貿易赤字は、アメリカ企業支配階級の浪費尺度で、より具体的には、富裕層の減税と無駄な戦争に浪費された数兆ドルが組み合わさった結果生じた慢性的な巨額財政赤字の結果だ。赤字は、アメリカが、カナダやメキシコに売るより多くのものをアメリカに売っているカナダやメキシコや他の国々の不誠実さによるものではない。
 貿易赤字を解消するには、アメリカは財政赤字を解消する必要がある。関税を課せば(自動車などの)価格は上がるが、貿易赤字や財政赤字は解消されない。特にトランプ大統領は関税収入を、富裕層の寄付者に対する大幅減税で相殺する計画だからだ。更に、トランプ大統領が関税を引き上げると、アメリカは対抗関税に直面し、それがアメリカ輸出を直接阻害する。その結果、アメリカと世界の他の国々はどちらも損をすることになる。

 数字を見てみよう。2024年に、アメリカは4.8兆ドルの商品とサービスを輸出し、5.9兆ドルの商品とサービスを輸入し、1.1兆ドルの経常収支赤字をもたらした。この1.1兆ドルの赤字は、2024年のアメリカの総支出(30.1兆ドル)とアメリカの国民所得(29.0兆ドル)の差だ。アメリカは収入より多くを支出しており、その差額を世界から借りている。

 トランプはアメリカの財政赤字の原因を世界のせいにしているが、それは馬鹿げている。アメリカは収入より支出が多いのだ。考えてみよう。あなたが従業員なら、雇用主との経常収支は黒字だが、商品やサービスを購入する企業との経常収支は赤字だ。収入とまったく同じ額を使っているなら、経常収支は赤字だ。買い物三昧でクレジット・カードの借金が増え、収入以上の出費をしているとしよう。すると経常収支は赤字になる。店があなたをだましているのか、それとも、あなたの浪費が借金を生んでいるのか?

 ワシントンを支配する企業買収者や脱税者の無責任な財政が続く限り、関税では貿易赤字を解消できない。例えば、トランプ関税で海外からの自動車や他の商品輸入が大幅に減少したとしよう。すると、アメリカ人はアメリカ製自動車や輸出されるはずだった他の商品を購入することになる。輸入は減少するが、輸出も減少する。更に、トランプ関税に対抗して他国が課す新たな関税は、アメリカ輸出の減少を更に助長する。アメリカの貿易不均衡は残る。

 関税によって貿易赤字がなくなるわけではないが、アメリカ国民は外国生産者から、より安価に入手できるはずの高価なアメリカ産品を買わざるを得なくなる。関税は、経済学者が貿易の利益と呼ぶもの、つまり国内外の生産者の比較優位に基づいて商品を購入する能力を浪費することになる。

 関税により自動車価格と自動車労働者の賃金は上がるが、その賃金上昇は国民所得の増加ではなく、経済全体でのアメリカ人の生活水準低下によって支払われることになる。アメリカ労働者を支援する本当の方法は、国民皆保険や労働組合結成の支援やグリーンエネルギーを含む近代的インフラへの予算支援など、トランプが好むものと正反対の連邦政府の措置を通じてであり、これらは全て、最も裕福なアメリカ人と企業部門への減税ではなく増税によって賄われる。

 裕福な選挙資金提供者が減税や租税回避(タックスヘイブン経由)や脱税を推進しているため、連邦政府は総支出を税収で賄えない。DOGEがIRSの監査能力を弱体化させたことを忘れないよう願いたい。現在、予算赤字は約2兆ドルで、アメリカ国民所得の約6%に相当する。予算ギャップが慢性的に高いため、アメリカの貿易収支は慢性的赤字のままだ。

 DOGEを通じて無駄と乱用を削減し、財政赤字を削減するとトランプは述べている。問題は、DOGEが財政浪費の本当の原因を誤って伝えていることだ。財政赤字は、不当に解雇されている公務員給与や、将来の繁栄がかかっている政府の研究開発費によるものではなく、むしろ富裕層の減税や、アメリカの絶え間ない戦争への無謀な支出や、イスラエルの絶え間ない戦争へのアメリカの資金提供や、750の海外アメリカ軍基地、肥大化したCIAや他の諜報機関や、急増する連邦債務への利払いの組み合わせによるものだ。

 最も裕福なアメリカ人に対するさらなる減税に道を開くため、トランプ大統領と共和党議員はメディケイド、つまり最も貧しく弱い立場にあるアメリカ人を標的にしていると報じられている。彼らは近いうちに社会保障とメディケアにも狙いを定めるかもしれない。

 トランプ関税は貿易赤字と財政赤字を解消できず、物価を上昇させ、貿易による利益を浪費することでアメリカと世界を貧しくするだろう。アメリカは自国と世界に与えている損害のせいで世界の敵になるだろう。


(著者または代理人の許可を得てCommon Dreamsから転載)

記事原文のurl:https://www.unz.com/article/trumps-absurd-trade-policies-will-impoverish-americans-and-harm-the-world/