不就労者と就労者の「社会的コスト」の試算が面白い。22歳から65歳まで生活保護を受けても5000万円から6000万円しかかからない、というのは意外な気がする。いつも報道される政府の無駄遣いで金銭感覚が麻痺しているせいかもしれないが、その5000万円~6000万円も、実は彼らの消費によって、すべて社会に還元されるのである。つまり、「逆トリクルダウン」だ。(笑)無駄な支出ですらない。
一方、金持ちは消費せずに、溜め込むだけだから、社会全体は貧困化する。企業の社内留保も同様だ。生活保護受給者の方が、社会には有益である、というのはもちろん冗談だが、この「逆トリクルダウン」という思想は、なかなか面白いのではないか、と自画自賛してみる。
働かなくても金がもらえる人間への敵意がネットウヨなどの生活保護受給者への攻撃になるのだが、同様に働かなくても金がある資産家や上流階級への敵意がネットに流されることは少ない。これは、彼らは「弱いもの」にしか吼えないということだろうか。
まあ、働いても生活保護以下の給与しか得られない、という勤労者も無数にいる世の中で、生活保護への風当たりが強くなるのは理解はできるが、それは攻撃の方向が違うだろう、と思う。働いてもその程度の給与しか得られない社会がおかしい、となぜ考えないのか。
もちろん、そういうことを言うと、勤労者の給与を上げたら企業が成り立たないから、低賃金の後進国に労働力を求めることになる、それでもいいのか、という話になる。それも怪しい話だと思うが、先進国の単純労働は後進国にアウトソーシングされていることは確かだ。ただし、それで採算が取れる業種は限られているのを、すべてに当てはめて論じるという詐術がそこにあるような気もするのである。たとえば、介護を外国人に任せるというプランがあるが、はたして言葉の不自由な外国人に介護という命に関わる作業を本当に任せられるのか、あまりに安易な考えではないか、と思われるのである。
(以下引用)
1人あたり1億円の便益も
では乳幼児期に限らず、「貧困の連鎖」を断ち切るための投資がどのような効果をもたらすのでしょうか。
阿部:例えば誰かが貧困に陥れば、生活保護をはじめとするいろいろな社会的給付が必要になります。逆にその人が平均的な就労をすれば納税をする。ここが一番分かりやすいでしょう。
様々な仮定を前提にしていますが、私が厚生労働省の依頼で試算したものだと、職業訓練などの対策を一切取らず、仮に20歳から65歳まで生活保護を受給した場合、そのコストは5000万~6000万円に達します。一方で、職業訓練などの支援プログラムを2年間実行したとすると、費用は約460万円かかりますが、非正規でも65歳まで働き続ければ、本人が納付する税金や社会保険料の合計額は、2400万~2700万円ほどになります。差し引きで7000万円くらいのメリットが生まれることになります。
同様に、もし正規雇用で65歳まで勤めれば、税金などの納付額は4500万~5100万円です。職業訓練の費用を差し引いても、7000万~1億円ほどの便益が社会にもたらされることになります。1人でも多く「支えられる側」から「支える側」に回ってもらうことが重要になる。
この試算では含めていませんが、海外で子供の貧困の投資を考える場合、これ以上のメリットも織り込みます。貧困者の差別につながってはいけないので誤解のないようにすべきですが、貧困者の救済は犯罪率の低減につながるという指摘もあります。犯罪者を収監するには、正確な算出は難しい部分がありますが、捕まえる時も収監した後もお金がかかる。トータルでは生活保護よりもっとかかるんです。だから、犯罪を減らせれば経済的なメリットも生まれる可能性がある。
医療費の問題もあります。貧困者の健康状況が悪いのは研究で確実に分かっています。つまり貧困者が増えればそれだけ医療費がかかる。これも減らせれば、社会全体が便益を受けられます。
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