「孤帆の遠影碧空に尽き」というブログから転載。
このブログは、私などのようにほとんど思いつきと主観だけで喋り散らすブログとは異なり、客観情報に基づいて世界の現状を紹介する有益なブログである。ただ、私は私の「直観」にかなり自信があるので、私自身の「放言ブログ」もまったく無意味とも思ってはいないのだが。
先日の日本政府のミャンマーへの債権放棄を、私はブログで咎めたのだが、それは「国民の金を勝手に無駄遣いするな」という趣旨である。問題は、それが無駄遣いか、「有効な投資」かの適切な判断をすることだが、下記記事を見るかぎりでは、これは「無駄遣い」である可能性がかなり高いと思う。
まず、政治経済社会的インフラがまったく未開発である。
ここに「世界的合意」に基づいて、世界中から金をジャブジャブ注ぎ込み、ミャンマーを中国に代わる世界の工場にしよう、そして人的資源や自然資源搾取の対象にしよう、というのが現在のミャンマーバブルであるわけだが、これは「新自由主義的資本主義」の最後の足掻きだろう。ここしか「フロンティア」が残っていないから、ここに投資するだけ、という、まったく無能極まる判断である。投資というものの実情は、その程度のものだ。
要するにこれは、上に行けば行くほど丼勘定になる、ということの実例でしかないのだが、「誰もがやるから自分もやる。そうすれば失敗しても責任は問われない」という心理が後押しして、このようなバブルが、まるで何かの根拠や成算があっての行為であるかのように錯覚されているわけである。
米国は敗戦後の日本に投資をして日本を復興させ、その後に「回収」したわけだが、(この20年間の日本の経済的窮乏は、実はそれが根本原因である。)あれは相手が日本だからできたことである。ドイツや日本のような国民性を持った国ならば、投資すればきちんと働いて投資以上の収益を上げる。しかし、世界にそういう国は多くはない。ミャンマーなどがそういう国だとは私にはまったく思えない。何しろ、英国がいくら直接間接に支配してもさっぱり経済効果の無かった国だ。
まあ、深読みするならば、これは世界中から投資させて、ミャンマーという国の「資産価値」を上げてから叩き売るという、英国(ユダ金)による、国家そのものを対象としたM&A的戦略ではないか、というのが私の判断だ。いや、他人(各国政府や各国企業)に投資させた段階で、ある一部の連中にとっては、すでに成功、と見るべきだろう。
(以下引用)
アジア「最後のフロンティア」ミャンマー 注目される「政治家」スー・チー氏の判断
2013-01-28 23:13:43 | ミャンマー
【対外債務問題に道筋 ひとつの節目】
テイン・セイン大統領のもとで民主化・改革に取り組むミャンマーはアジア「最後のフロンティア」とも呼ばれ、世界各国が経済進出を狙っていることは、これまでも取り上げてきたところです。
経済制裁の大半を解除したアメリカは、オバマ大統領が昨年11月にミャンマーを訪問し、今後2年間で1億7千万ドル(約138億円)の援助を行うことを表明しています。
日本も、野田前首相がASEAN関連首脳会議の際に行テイン・セイン大統領と会談、26年ぶりに500億円の円借款を行うことを約束しています。
今年に入ると、就任したばかりの麻生太郎財務相が国内問題を先送りする形でミャンマーを訪問、民主党前政権によって示された債務放棄や円借款の方針を改めて確認しています。
こうした取り組みは、ほとんど未開拓の市場であるミャンマーでの日本の役割を強固にすることを目指しています。
****5500億円の債務免除、債権国と合意 ミャンマー****
ミャンマーは28日、対外債務のうち約60億ドル(約5500億円)分を免除することで債権国と合意したと発表した。軍政からの迅速な民政移行を目指すミャンマーにとって1つの節目となる。
ミャンマー政府によると、25日に開催されたパリクラブ(債務国の返済軽減措置を決める債権国会合)で債務の半分を免除することで合意し、また残りの負債返済についても15年かけて見直すことが決まった。日本が放棄する債務額は30億ドル(約2700億円)、ノルウェーは5億3400万ドル(約485億円)だという。
さらにミャンマーは、日本の国際協力銀行(JBIC)からの融資で世界銀行とアジア開発銀行に対する延滞債務も解消。これを受け世銀とADBは数十年ぶりにミャンマー向け融資を再開。9億ドル(約820億円)超を融資した。【1月28日 AFP】
****************
この対外債務問題の整理は、昨年9月に日本政府の仲介により方針が決まっていたものです。
対外債務問題に道筋がついたことで、ミャンマーの経済改革、海外からの投資・進出に更に弾みがつきそうです。
【新市場に潜むリスクも】
ただ、テイン・セイン大統領の“民主化”が今後も進展するのか、制裁解除は早過ぎたのでは・・・といったそもそもの議論以外にも、ミャンマーの抱える問題点も多く存在しています。
****世界が熱視線を送る最後のフロンティア****
注目度の高い新市場に潜むこれだけのリスク
・・・・それまで人権弾圧などを理由に欧米諸国に経済制裁を科せられ、国際的に孤立してきたミャンマーだが、実は天然資源が豊富な推定人口6000万人以上の大市場。中国や他の東南アジア諸国に比べて人件費も安い。
新たな未開拓市場として期待が高まるのも当然だ。
新政権も、積極的に経済改革に取り組もうとしている。
例えば、公定レートと市中レートの2つのレートがあった二重為替制度を改めて管理変動相場制を導入する。
金融システムも、中銀行の役割や銀行制度を1から見直さなければならない。
外国企業を誘致するための法整備もまだ十分とは言えない。
いずれも、15年までに域内の関税を撤廃し、投資を自由化するASEAN(東南アジア諸国連合)統合を見据えた動きだ。
外国企業にとってミャンマーの最大の魅力は、人件費の安さと労働力の質の高さ。
かつて「世界の工場」と言われた中国は、賃金の高騰が激しく人材の確保が困難になっているのに対し、ミャンマーの賃金は中国の5分の1程度といわれる。
国連の統計によれば成人の識字率は約92%に達するとされ、単純労働者の質も高い。敬虔な仏教徒が多く、勤勉だとも言われる。
外国投資法も期待外れ
だが、問題も少なくない。電力供給などのインフラはまだ整備されておらず、国内最大の都市ヤンゴンでも停電は頻繁にある。インターネットの普及もこれからだ。
不動産の値上がりも激しい。オフィス不足で賃貸料は跳ね上がっている。あるヤンゴン在住者によれば、1年契約の住宅の賃貸料も昨年1年で倍以上になったという。
半面、購買力でみた国内市場はまだ小さい。労働者の月収は80ドル程度と言われ、金融制度が未発達のためカードやローンはほとんど利用できない。
市場開放には国内の抵抗もある。外国企業の投資を促すため新しい「外国投資法」が昨年11月に成立したが、外資の出資上限や最低資本金額などで、開放を目指す大統領と既得権益を守ろうとする軍政の生き残りが多
い議会との間で1年半以上もめた。結果、最低資本金額は「ミャンマー投資委員会が決める」との条文が法律に盛り込まれるなど、運用は不透明なままだ。
結局のところ、ミャンマーの市場開放から最大の恩恵を受けているのは、ミャンマーと約2000キロの国境を接し、軍政時代から関係の深かった中国だろう。ミャンマーのGDPの半分近い年間200億ドル以上の投資を約束し、代わりに油田や天然ガス田の開発を請け負っている。
もっとも、中国も国境付近の情勢不安には警戒を強めている。ミャンマー政府は少数民族が作る多くの反政府勢力と停戦に合意したが、北部カチン州の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」との交渉は難航中。昨年末には空爆して犠牲者を出し、爆弾の一部は中国国内にも着弾した。
欧米では経済制裁の解除が時期尚早だったのではないか、という声も上がっている。仮にそうだとしても、今更ミャンマーを開放前に引き戻すのは難しいだろう。【1月29日号 Newsweek日本版】
*******************
「外国投資法」をめぐっては、「外国企業への開放、経済改革」を目指す大統領側と、既得権益を守ろうとする議会との間で激しい綱引きが行われたことが報じられていました。結果、“妥協の産物”ともなっており、今後の運用次第といったところです。
【国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」のはざま】
軍政時代に権益を拡大した中国については、ミャンマー中部モンユワで国軍関連企業が中国と進める銅山開発の動向が注目されています。
土地収用などに抗議していた住民や僧侶らを当局側が強制排除し、数十人が負傷した件については、12年11月30日ブログ「ミャンマー 銅山開発抗議の住民を強制排除、負傷者多数 民主化・開発について思うこと」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121130)でも取り上げました。
事業継続の是非を判断する調査委員会の委員長には、“民主化運動指導者”であるアウン・サン・スー・チー氏が選任されており、“政治家”スー・チー氏がどのような判断を下すのかという点でも興味深いところです。
****「政治家」スー・チー氏に試練 銅鉱山開発の是非判断へ ****
ミャンマーで中国企業による銅鉱山開発に地元住民らが反対しているのを受け、政府は事業継続の是非を判断する調査委員会の委員長にアウン・サン・スー・チー氏を起用した。
「中止」と判断すれば対中関係悪化を招き、「継続」なら国民の失望を買いかねない。国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」のはざまで、難しい決断を迫られる。(中略)
ミャンマー中部の「レパダウン銅山」。スー・チー氏が視察で現地入りする直前の11月29日未明、開発中止を求めて居座るデモ隊のキャンプを警官隊が急襲した。催涙ガスや放水で強制排除に乗り出し、参加していた僧侶を含む数十人が負傷。政府が「やり過ぎた」と謝罪する事態を招いた。
それでも現場に到着したスー・チー氏は、強制排除への非難は口にせず、開発の今後も「国際的な信用にも配慮しないと」「私の判断が皆さんを喜ばせるとは限らない」と慎重に言葉を選んだ。
銅鉱山は2010年に国軍系のミャンマー連邦経済持ち株会社と中国の万宝鉱産公司が共同開発に合意した。ただ環境汚染や土地の強制収用があったとして、今年6月に反対派が現場周辺を包囲し、工事が一時停止に追い込まれた。先月下旬には2度目の大規模な抗議デモが起き、政府も対応策へ重い腰を上げた。
スー・チー氏が調査委員会を任せられたのは、下院の法順守委員長であり、また国会でこの問題を提起したのが同氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)の所属議員だったからのようだ。
スー・チー氏の歯切れの悪さの背景には隣国との外交関係の悪化懸念がある。中国企業が手掛け、中止に追い込まれた事業には、イラワジ川上流の大規模発電事業「ミッソンダム」がある。昨年9月、「国民の意思」としてテイン・セイン大統領が開発中止を決め、国内外から喝采を浴びた。
ただ旧軍事政権時代の契約とはいえ、両国合意の計画を一方的に破棄するのは異例。中国側は不快感を示しつつ静観したが「2度目」となれば巨額の違約金請求など強硬手段に出る公算が大きい。
今回も国民感情は「中止」に傾く。「中国と国軍。2つのキーワードを国民は嫌悪する」。外交筋はこう分析しつつも「もし開発中止となれば今後の外資誘致に影を落としかねない」とみる。
一方で国民人気がよりどころのスー・チー氏は「民意」も袖にはしにくい。苦い経験もある。今年5月、西部で激化した仏教徒とイスラム教徒の民族・宗教対立で、イスラム教徒側に配慮する発言が仏教徒が大多数を占める国内で非難を浴びた。その後はこの問題に口を閉ざすが、今度は国内外から「逃げ腰」と批判され、対応に苦慮する。
調査委員会の中間報告書の大統領への提出期限は来年1月末。限られた時間で政治家としての能力と決断力が試される。【12年12月11日 日経】
******************
経済や軍事、政治の面で大国化した中国に対する反感はアジア近隣諸国で高まっていますが、中国の進出が著しいミャンマーでは、その分、中国への反発も大きくなっています。
****アジア諸国で高まる反中国感情****
ミャンマーの歌手リンリンさんはコンサートで、愛や環境、自由をテーマにした曲を歌っている。だが、ファンがいつも求めてくる曲は、そうした曲ではなく、中国人移民に乗っ取られた故郷を嘆いた作品だという。
「この都市に住みついた彼らは誰だ?/北東の国からここにたどり着いた隣人/僕は恥ずかしさのあまり耳をふさぐしかない/異邦人にめちゃくちゃにされてしまったのだ/愛するマンダレーは死んだ」。リンリンさんはアコースティックギターで穏やかなフォーク・ロック調の曲を弾き語る。
リンリンさんによると、過去10年の間に大勢の中国商人がマンダレーに押し寄せ、地元の企業を買い漁ったり、住民を市外に追い出したりしたという。この「マンダレーの死」という曲を歌う彼の姿はファンの1人によって撮影され、インターネット上に公開された。それ以来、数十万人がその動画を見た。
「どの公演でも、必ずこの曲がリクエストされる」と語るリンリンさん。中国文化や勤勉な多くの中国人は尊敬するが、彼らとの取引では得られるものより奪われるもののほうが多いと不満を口にした。(後略)【1月16日 The Wall Street Journal】
*******************
“政治家”スー・チー氏については、こんな話題も。
****「汚れたカネ」に開き直るスー・チー****
ミャンマー(ビルマ)の最大野党、国民民主連盟(NLD)の党首アウン・サン・スー・チーの清廉なイメージに傷が付いた。旧軍事政権とつながりの深い政商から、NLDが金を受け取っていたことが分かったのだ。
彼ら政商は約50年にわたり国を支配した軍事政権の取り巻きで、その立場を利用して富を築いてきた。国内でも悪評は高い。
NLDも献金の事実を認めており、教育・医療対策のために実業家テー・ザから8万2353ドル、チョー・ウィンから15万8824ドルを受け取ったという。
テー・ザは武器密輸の疑いがあり、チョー・ウィンは最近南部カレン州で起きた強制土地収用に関係している人物だ。やはりNLDに献金したゾー・ゾーが所有する財閥マックス・ミャンマーは今も、欧米からの制裁を受けている。
イラワジ誌によれば、スー・チーはNLDの行動を擁護し、こう語った。「軍事政権の取り巻きだったとされる人々は、NLDなどの社会活動を支援してきた。そのどこが悪いのか?目的もなく金を使う代わりに、彼らは支援するべきことを支援した。それはいいことだ」【1月29日号 Newsweek日本版】
*****************
詳しい事情はわかりませんが、随分と踏み込んだ発言のように思えます。
“国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」”をどのように両立させていくのか、難しい立場にあります。
北部カチン州の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」の関係については、長くなるの比較的最近目にした記事だけ。
****カチン攻撃を停止=大統領府が声明―ミャンマー****
ミャンマー大統領府は18日夜、北部のカチン州で続く少数民族武装勢力カチン独立軍(KIA)との戦闘について19日朝以降、攻撃を停止すると発表した。国軍がヘリコプターなどによる空爆を行い多数の死傷者や難民が出たため、国際社会から非難の声が上がっていた。【1月19日 時事】
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ジャンル: 政治
このブログは、私などのようにほとんど思いつきと主観だけで喋り散らすブログとは異なり、客観情報に基づいて世界の現状を紹介する有益なブログである。ただ、私は私の「直観」にかなり自信があるので、私自身の「放言ブログ」もまったく無意味とも思ってはいないのだが。
先日の日本政府のミャンマーへの債権放棄を、私はブログで咎めたのだが、それは「国民の金を勝手に無駄遣いするな」という趣旨である。問題は、それが無駄遣いか、「有効な投資」かの適切な判断をすることだが、下記記事を見るかぎりでは、これは「無駄遣い」である可能性がかなり高いと思う。
まず、政治経済社会的インフラがまったく未開発である。
ここに「世界的合意」に基づいて、世界中から金をジャブジャブ注ぎ込み、ミャンマーを中国に代わる世界の工場にしよう、そして人的資源や自然資源搾取の対象にしよう、というのが現在のミャンマーバブルであるわけだが、これは「新自由主義的資本主義」の最後の足掻きだろう。ここしか「フロンティア」が残っていないから、ここに投資するだけ、という、まったく無能極まる判断である。投資というものの実情は、その程度のものだ。
要するにこれは、上に行けば行くほど丼勘定になる、ということの実例でしかないのだが、「誰もがやるから自分もやる。そうすれば失敗しても責任は問われない」という心理が後押しして、このようなバブルが、まるで何かの根拠や成算があっての行為であるかのように錯覚されているわけである。
米国は敗戦後の日本に投資をして日本を復興させ、その後に「回収」したわけだが、(この20年間の日本の経済的窮乏は、実はそれが根本原因である。)あれは相手が日本だからできたことである。ドイツや日本のような国民性を持った国ならば、投資すればきちんと働いて投資以上の収益を上げる。しかし、世界にそういう国は多くはない。ミャンマーなどがそういう国だとは私にはまったく思えない。何しろ、英国がいくら直接間接に支配してもさっぱり経済効果の無かった国だ。
まあ、深読みするならば、これは世界中から投資させて、ミャンマーという国の「資産価値」を上げてから叩き売るという、英国(ユダ金)による、国家そのものを対象としたM&A的戦略ではないか、というのが私の判断だ。いや、他人(各国政府や各国企業)に投資させた段階で、ある一部の連中にとっては、すでに成功、と見るべきだろう。
(以下引用)
アジア「最後のフロンティア」ミャンマー 注目される「政治家」スー・チー氏の判断
2013-01-28 23:13:43 | ミャンマー
【対外債務問題に道筋 ひとつの節目】
テイン・セイン大統領のもとで民主化・改革に取り組むミャンマーはアジア「最後のフロンティア」とも呼ばれ、世界各国が経済進出を狙っていることは、これまでも取り上げてきたところです。
経済制裁の大半を解除したアメリカは、オバマ大統領が昨年11月にミャンマーを訪問し、今後2年間で1億7千万ドル(約138億円)の援助を行うことを表明しています。
日本も、野田前首相がASEAN関連首脳会議の際に行テイン・セイン大統領と会談、26年ぶりに500億円の円借款を行うことを約束しています。
今年に入ると、就任したばかりの麻生太郎財務相が国内問題を先送りする形でミャンマーを訪問、民主党前政権によって示された債務放棄や円借款の方針を改めて確認しています。
こうした取り組みは、ほとんど未開拓の市場であるミャンマーでの日本の役割を強固にすることを目指しています。
****5500億円の債務免除、債権国と合意 ミャンマー****
ミャンマーは28日、対外債務のうち約60億ドル(約5500億円)分を免除することで債権国と合意したと発表した。軍政からの迅速な民政移行を目指すミャンマーにとって1つの節目となる。
ミャンマー政府によると、25日に開催されたパリクラブ(債務国の返済軽減措置を決める債権国会合)で債務の半分を免除することで合意し、また残りの負債返済についても15年かけて見直すことが決まった。日本が放棄する債務額は30億ドル(約2700億円)、ノルウェーは5億3400万ドル(約485億円)だという。
さらにミャンマーは、日本の国際協力銀行(JBIC)からの融資で世界銀行とアジア開発銀行に対する延滞債務も解消。これを受け世銀とADBは数十年ぶりにミャンマー向け融資を再開。9億ドル(約820億円)超を融資した。【1月28日 AFP】
****************
この対外債務問題の整理は、昨年9月に日本政府の仲介により方針が決まっていたものです。
対外債務問題に道筋がついたことで、ミャンマーの経済改革、海外からの投資・進出に更に弾みがつきそうです。
【新市場に潜むリスクも】
ただ、テイン・セイン大統領の“民主化”が今後も進展するのか、制裁解除は早過ぎたのでは・・・といったそもそもの議論以外にも、ミャンマーの抱える問題点も多く存在しています。
****世界が熱視線を送る最後のフロンティア****
注目度の高い新市場に潜むこれだけのリスク
・・・・それまで人権弾圧などを理由に欧米諸国に経済制裁を科せられ、国際的に孤立してきたミャンマーだが、実は天然資源が豊富な推定人口6000万人以上の大市場。中国や他の東南アジア諸国に比べて人件費も安い。
新たな未開拓市場として期待が高まるのも当然だ。
新政権も、積極的に経済改革に取り組もうとしている。
例えば、公定レートと市中レートの2つのレートがあった二重為替制度を改めて管理変動相場制を導入する。
金融システムも、中銀行の役割や銀行制度を1から見直さなければならない。
外国企業を誘致するための法整備もまだ十分とは言えない。
いずれも、15年までに域内の関税を撤廃し、投資を自由化するASEAN(東南アジア諸国連合)統合を見据えた動きだ。
外国企業にとってミャンマーの最大の魅力は、人件費の安さと労働力の質の高さ。
かつて「世界の工場」と言われた中国は、賃金の高騰が激しく人材の確保が困難になっているのに対し、ミャンマーの賃金は中国の5分の1程度といわれる。
国連の統計によれば成人の識字率は約92%に達するとされ、単純労働者の質も高い。敬虔な仏教徒が多く、勤勉だとも言われる。
外国投資法も期待外れ
だが、問題も少なくない。電力供給などのインフラはまだ整備されておらず、国内最大の都市ヤンゴンでも停電は頻繁にある。インターネットの普及もこれからだ。
不動産の値上がりも激しい。オフィス不足で賃貸料は跳ね上がっている。あるヤンゴン在住者によれば、1年契約の住宅の賃貸料も昨年1年で倍以上になったという。
半面、購買力でみた国内市場はまだ小さい。労働者の月収は80ドル程度と言われ、金融制度が未発達のためカードやローンはほとんど利用できない。
市場開放には国内の抵抗もある。外国企業の投資を促すため新しい「外国投資法」が昨年11月に成立したが、外資の出資上限や最低資本金額などで、開放を目指す大統領と既得権益を守ろうとする軍政の生き残りが多
い議会との間で1年半以上もめた。結果、最低資本金額は「ミャンマー投資委員会が決める」との条文が法律に盛り込まれるなど、運用は不透明なままだ。
結局のところ、ミャンマーの市場開放から最大の恩恵を受けているのは、ミャンマーと約2000キロの国境を接し、軍政時代から関係の深かった中国だろう。ミャンマーのGDPの半分近い年間200億ドル以上の投資を約束し、代わりに油田や天然ガス田の開発を請け負っている。
もっとも、中国も国境付近の情勢不安には警戒を強めている。ミャンマー政府は少数民族が作る多くの反政府勢力と停戦に合意したが、北部カチン州の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」との交渉は難航中。昨年末には空爆して犠牲者を出し、爆弾の一部は中国国内にも着弾した。
欧米では経済制裁の解除が時期尚早だったのではないか、という声も上がっている。仮にそうだとしても、今更ミャンマーを開放前に引き戻すのは難しいだろう。【1月29日号 Newsweek日本版】
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「外国投資法」をめぐっては、「外国企業への開放、経済改革」を目指す大統領側と、既得権益を守ろうとする議会との間で激しい綱引きが行われたことが報じられていました。結果、“妥協の産物”ともなっており、今後の運用次第といったところです。
【国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」のはざま】
軍政時代に権益を拡大した中国については、ミャンマー中部モンユワで国軍関連企業が中国と進める銅山開発の動向が注目されています。
土地収用などに抗議していた住民や僧侶らを当局側が強制排除し、数十人が負傷した件については、12年11月30日ブログ「ミャンマー 銅山開発抗議の住民を強制排除、負傷者多数 民主化・開発について思うこと」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121130)でも取り上げました。
事業継続の是非を判断する調査委員会の委員長には、“民主化運動指導者”であるアウン・サン・スー・チー氏が選任されており、“政治家”スー・チー氏がどのような判断を下すのかという点でも興味深いところです。
****「政治家」スー・チー氏に試練 銅鉱山開発の是非判断へ ****
ミャンマーで中国企業による銅鉱山開発に地元住民らが反対しているのを受け、政府は事業継続の是非を判断する調査委員会の委員長にアウン・サン・スー・チー氏を起用した。
「中止」と判断すれば対中関係悪化を招き、「継続」なら国民の失望を買いかねない。国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」のはざまで、難しい決断を迫られる。(中略)
ミャンマー中部の「レパダウン銅山」。スー・チー氏が視察で現地入りする直前の11月29日未明、開発中止を求めて居座るデモ隊のキャンプを警官隊が急襲した。催涙ガスや放水で強制排除に乗り出し、参加していた僧侶を含む数十人が負傷。政府が「やり過ぎた」と謝罪する事態を招いた。
それでも現場に到着したスー・チー氏は、強制排除への非難は口にせず、開発の今後も「国際的な信用にも配慮しないと」「私の判断が皆さんを喜ばせるとは限らない」と慎重に言葉を選んだ。
銅鉱山は2010年に国軍系のミャンマー連邦経済持ち株会社と中国の万宝鉱産公司が共同開発に合意した。ただ環境汚染や土地の強制収用があったとして、今年6月に反対派が現場周辺を包囲し、工事が一時停止に追い込まれた。先月下旬には2度目の大規模な抗議デモが起き、政府も対応策へ重い腰を上げた。
スー・チー氏が調査委員会を任せられたのは、下院の法順守委員長であり、また国会でこの問題を提起したのが同氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)の所属議員だったからのようだ。
スー・チー氏の歯切れの悪さの背景には隣国との外交関係の悪化懸念がある。中国企業が手掛け、中止に追い込まれた事業には、イラワジ川上流の大規模発電事業「ミッソンダム」がある。昨年9月、「国民の意思」としてテイン・セイン大統領が開発中止を決め、国内外から喝采を浴びた。
ただ旧軍事政権時代の契約とはいえ、両国合意の計画を一方的に破棄するのは異例。中国側は不快感を示しつつ静観したが「2度目」となれば巨額の違約金請求など強硬手段に出る公算が大きい。
今回も国民感情は「中止」に傾く。「中国と国軍。2つのキーワードを国民は嫌悪する」。外交筋はこう分析しつつも「もし開発中止となれば今後の外資誘致に影を落としかねない」とみる。
一方で国民人気がよりどころのスー・チー氏は「民意」も袖にはしにくい。苦い経験もある。今年5月、西部で激化した仏教徒とイスラム教徒の民族・宗教対立で、イスラム教徒側に配慮する発言が仏教徒が大多数を占める国内で非難を浴びた。その後はこの問題に口を閉ざすが、今度は国内外から「逃げ腰」と批判され、対応に苦慮する。
調査委員会の中間報告書の大統領への提出期限は来年1月末。限られた時間で政治家としての能力と決断力が試される。【12年12月11日 日経】
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経済や軍事、政治の面で大国化した中国に対する反感はアジア近隣諸国で高まっていますが、中国の進出が著しいミャンマーでは、その分、中国への反発も大きくなっています。
****アジア諸国で高まる反中国感情****
ミャンマーの歌手リンリンさんはコンサートで、愛や環境、自由をテーマにした曲を歌っている。だが、ファンがいつも求めてくる曲は、そうした曲ではなく、中国人移民に乗っ取られた故郷を嘆いた作品だという。
「この都市に住みついた彼らは誰だ?/北東の国からここにたどり着いた隣人/僕は恥ずかしさのあまり耳をふさぐしかない/異邦人にめちゃくちゃにされてしまったのだ/愛するマンダレーは死んだ」。リンリンさんはアコースティックギターで穏やかなフォーク・ロック調の曲を弾き語る。
リンリンさんによると、過去10年の間に大勢の中国商人がマンダレーに押し寄せ、地元の企業を買い漁ったり、住民を市外に追い出したりしたという。この「マンダレーの死」という曲を歌う彼の姿はファンの1人によって撮影され、インターネット上に公開された。それ以来、数十万人がその動画を見た。
「どの公演でも、必ずこの曲がリクエストされる」と語るリンリンさん。中国文化や勤勉な多くの中国人は尊敬するが、彼らとの取引では得られるものより奪われるもののほうが多いと不満を口にした。(後略)【1月16日 The Wall Street Journal】
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“政治家”スー・チー氏については、こんな話題も。
****「汚れたカネ」に開き直るスー・チー****
ミャンマー(ビルマ)の最大野党、国民民主連盟(NLD)の党首アウン・サン・スー・チーの清廉なイメージに傷が付いた。旧軍事政権とつながりの深い政商から、NLDが金を受け取っていたことが分かったのだ。
彼ら政商は約50年にわたり国を支配した軍事政権の取り巻きで、その立場を利用して富を築いてきた。国内でも悪評は高い。
NLDも献金の事実を認めており、教育・医療対策のために実業家テー・ザから8万2353ドル、チョー・ウィンから15万8824ドルを受け取ったという。
テー・ザは武器密輸の疑いがあり、チョー・ウィンは最近南部カレン州で起きた強制土地収用に関係している人物だ。やはりNLDに献金したゾー・ゾーが所有する財閥マックス・ミャンマーは今も、欧米からの制裁を受けている。
イラワジ誌によれば、スー・チーはNLDの行動を擁護し、こう語った。「軍事政権の取り巻きだったとされる人々は、NLDなどの社会活動を支援してきた。そのどこが悪いのか?目的もなく金を使う代わりに、彼らは支援するべきことを支援した。それはいいことだ」【1月29日号 Newsweek日本版】
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詳しい事情はわかりませんが、随分と踏み込んだ発言のように思えます。
“国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」”をどのように両立させていくのか、難しい立場にあります。
北部カチン州の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」の関係については、長くなるの比較的最近目にした記事だけ。
****カチン攻撃を停止=大統領府が声明―ミャンマー****
ミャンマー大統領府は18日夜、北部のカチン州で続く少数民族武装勢力カチン独立軍(KIA)との戦闘について19日朝以降、攻撃を停止すると発表した。国軍がヘリコプターなどによる空爆を行い多数の死傷者や難民が出たため、国際社会から非難の声が上がっていた。【1月19日 時事】
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ジャンル: 政治
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