日本は112カ国中78位――。近年、さまざまな指標における世界での日本のランキングの低さが話題になるが、ついに「英語力」も下から数えたほうが早くなってしまった。11月16日に発表された、EF英語能力指数(EF EPI)において日本の順位は2020年の55位から大幅にランクダウン。2011年の14位からは急落している。ちなみに、隣国の韓国は34位と日本から背中すら見えない状態だ。
これは単に日本人が、英語が苦手である、ということを意味しているのではない。このランキングが示しているのは、日本の外国人嫌いが加速し、国全体が急ピッチで孤立主義の姿勢を強めつつあることだ。
楽しかった雰囲気が成田空港で一変
外国人にとっても日本はかつてより住みにくい国になっている。特にコロナ禍でその状況は「悪化」している。2021年8月17日、パリ発東京行きのエールフランス航空AF275便に乗っていた人たちもそう強く感じる場面があった。
パリから日本へ向かう機内には、楽しげな雰囲気がただよっていた。これはどこにでもあるフライトではない。フランスのビジネス界では「エア・エクスパット」と呼ばれているこのフライトには、夏休みを利用して帰国していたフランス企業のトップたちが大勢乗っていた。
彼らがこのフライトを選んだのは、学校が始まる前日の9月1日に、子どもたちの隔離期間が終わるのにあわせて入国するためだった。彼らは日本でも定期的に会っており気心知れた間柄だったうえ、夏休み明けで気分も高揚していた。
ところが、成田空港の入国審査でその雰囲気は一変した。
12時間のフライトの後、何日間にもわたって、新型コロナウイルス流行時に導入された特別な手続きをしなければならなかったからである。フランス企業のトップたちは、すべての入国希望者に課せられた手続きなどをしないといけないことは理解していた。グローバル企業の幹部である彼らがうんざりしたのは、手続きのあまりにひどい非効率さである。
彼らには、官僚主義の狂気を描いた、フランツ・カフカの小説の主人公が今や成田空港における手続きを担当しているようにすら見えた。審査官らは英語が苦手で、ほとんどの手続きを外国人スタッフに頼っていた。
その中でも特に印象的だったのは、手続きの最終段階で、日本人職員が何度も書類をチェックした後、「再確認!」と言って、別の職員に渡し、同じ作業を繰り返したことだ。「今の日本に本社の役員を招くことはとてもできない。こんなプロセスを経させたら会社はすぐさま日本への投資をやめるだろう」と、このフライトに乗っていたあるフランス人は嘆く。
それ以来、事態はさらに悪化している。いまだに時間のかかる紙の手続きに頼っているため、多くの人の時間を無駄にしている。旅行者(時には子どもも含めた家族全員)が、成田空港で8時間も待たされることが日常茶飯事で、中には、3日間の隔離のために名古屋まで飛行機で運ばれる人もいる。成田の職員が旅行者に渡す、下線や太字の入った大量の紙は、ツイッターを介して世界中で揶揄されている。
外国人居住者の入国を拒否する日本
日本における感染者数と死亡者数を見る限り、日本のコロナウイルスへの対応は極めて良好である。本稿の執筆時点では、日本でコロナウイルスに感染して死亡する可能性はほとんどない。
しかし日本は、ほかの民主主義国があえて実施しようとはしないような不作法で無頓着な方法で自国を封鎖している。パンデミックが始まって以来、日本の政治家は、外国人の日本への入国を拒否することで、日本に将来を託そうとしていた外国人学生、労働者、投資家などの計画を壊してきた。
しかも、ここへきてオミクロン株の侵入を防ぐという理由で当面、外国人の新規入国を原則停止したのである。最も衝撃的だったのは、オミクロンと関係のあるアフリカの10カ国からの日本国籍者を認める一方、永住者など一部を除く外国人居住者の入国を禁止するというものだった。
日本が自国民と外国人居住者を「区別」するという措置に対して、ヨーロッパ系航空会社の幹部は、「これは非常に不快な話だ」と怒りを露わにする。「これは、日本に住む外国人が、当面日本の自宅に帰宅できないことを意味している」。
岸田文雄首相はこの政策を勇気あるものと偽っていたが、世界保健機関(WHO)の健康危機管理プログラム責任者であるマイケル・ライアンは、日本人記者の質問を受け、日本の外国人の新規入国禁止をこう説明した。
「疫学的には、(自国民以外のフライトを禁止するという)原理を理解するのは難しい。ウイルスがパスポートを読み、(中略)国籍や法律上の居住地を知るというのだろうか(中略)ほとんどの国を封殺できるという日本政府の考えは、正直なところ、不可能だ」
日本の「外国離れ」はあらゆる場面で見られる。
例えば、政治家たちはかつてより外国人を軽視している。筆者が来日した1995年当時、有力な国会議員のスタッフには、若い外国人研修生がおり、外国からの情報を議員に提供するなどしていた。それは政治家たちが自らを世界に開かれた存在であると示す手段でもあった。そんな政治家たちは「国際派」と冗談で呼ばれていた。
「しかし、今では外国人研修生はいなくなってしまった。そんなことをしたら、その議員は日本人よりも外国人を優遇しているというシグナルを送ることになってしまうからだ」と、あるアメリカ人ロビイストは語る。
今や岸田首相は、野党からも、外国人を日本から締め出すためにより一層の努力をするように迫られている。そして日本国民は90%の確率で彼の施策を支持している。私自身、国境をもっと開くことを支持するこのような記事を書くことで、多くの批判を受けるだろう。しかしこうした政策をとることによって日本が強くなるとは到底思えない。
金融業界でも「孤立主義」が炸裂している。東京や福岡、そして大阪も「金融ハブ」を標榜しているが、上述の通り日本には英語を話せる人材が不足しているうえ、不透明な規制があり、新しい考えの受け入れに消極的で、キャピタルゲインへの厳しい課税があるにもかかわらず、こうした問題を解決するための具体的な努力をしていない。こうした中、海外の金融機関は東京を去り、シンガポールや韓国に拠点を置き始めている。
オフィスの新設場所に日本は選ばない
こうした日本の状況に呼応してか、海外からの日本への関心も低下している。2006年、当時の小泉純一郎首相は、2011年までにFDI(海外直接投資)をGDP(国内総生産)の5%に引き上げることを公約した。その15年後、FDIは4.7%とOECD加盟国の中で最低となっている。2番目に低い韓国は、日本の3倍である。3位の欧州連合(EU)は75%で日本の15倍だ。767%のルクセンブルグは日本の163倍である。
日本企業の買収に、いまだに興味を持つ外国企業もある。後継者がいない企業においては、これは一生に一度のチャンスとも言える。「しかし日本企業は、外国企業に買収される位なら死ぬほうを好みがちだ」と、フランスの監査法人の支社長は嘆く。
今や外国企業は工場やオフィスの設立場所を決める際に、日本を迂回するようになっている。中には北東アジアの本部を日本から韓国に移した企業もある。日本はコストが高く、労働力が減少しているため、外国企業はますます日本に生産拠点を置く意味がなくなってきているのだ。
かつて国際企業の若い幹部候補たちは、キャリアアップの足がかりとして日本でのポジションを切望していた。が、今はもう違う。日本におけるほとんどの市場が縮小しているため、日本は高齢の幹部が優雅にキャリアを終えるために定年前に甘い汁を吸える赴任地となっている。
中にはこうした駐在員の赴任期間後に後任がこず、報酬の安い現地幹部(もちろん日本人である)に仕事を任せてしまう場合もある。こうした状態が続けば、日本人の現地スタッフは外国人とかかわる意欲や能力を失ってしまう。実際、「ソウルの韓国人社員はみな私より英語ができる」とあるフランス大手企業の日本支社長は打ち明ける。
「日本離れ」は外交面でも顕著である。フランス外務省は、かつて最高の外交官を派遣していた。 私が来日した1995年以降、外務省のトップ官僚である「事務局長」の9人中4人が元駐日大使だった。
マクロン大統領の悲観的な見方
しかし、フランスにとって日本は今や、二流の国になっている。真の意味での国賓訪問は、8年前の2013年に当時のフランソワ・オランド仏大統領が訪日したのが最後だ。
エマニュエル・マクロン大統領は、フランスが開催する2024年パリ大会を見据えて、8月に東京オリンピックの開会式のために訪日したが、ある関係者によると、菅政権の硬直性とどんなテーマでも妥協する意思のないことに愕然としたという。マクロン大統領はすぐには再訪日しないだろう。
日本は、東京オリンピックを開催したことで、世界の中心にい続けられると思っているかもしれない。しかし、1964年に東京で開催された壮大で革新的な大会のような重要性は、オリンピックにはない。むしろ、日本政府がオリンピックを重要視していることは、日本が現在の世界を誤解していることの表れでもある。
日本政府はまた、2025年に大阪で開催される万博も桁外れに重要視している。岸田政権では、この問題を担当する国際博覧会担当相がいるほどだ。しかし、世界的な博覧会は、今や開催国以外では誰も気にとめないローカルなイベントとなっている。日本人で誰が、現在ドバイが万博を開催していることを知っているというだろうか。
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