1ページだけ転載するが、記事全体が非常に興味深く、植松事件は氷山の一角に過ぎないと思わせる。大雑把に言えば一種の「組織悪」の問題だ。
つまり、高齢者養護施設に勤務していると、「人間が人間に見えなくなってくる」という根本的問題があるのではないか。その対策を抜きにして、あの事件を植松ひとりの個人的問題に矮小化すると、これからも第二第三の植松が出て来るだろう。
(以下引用)
内部資料が明かす植松聖死刑囚と津久井やまゆり園の支援の実態
利用者にスクワットを強要 素行不良な職員たち
渡辺 かたや植松は、裁判の被告人質問の際に、やまゆり園の職員が利用者に命令口調だったり、暴力をふるっているのを見て、「暴力はよくない」と先輩職員に言ったところ、その人から「オマエだって2~3年たてばかわるよ」と言われたと証言しています。 それに対して、入倉元園長は判決後の記者会見で、《暴力をふるっている職員、命令口調の職員、2~3年たったらわかるよと言った職員について、そういった事実は確認されませんでした》と植松の主張を完全否定しています。これについて、Tさんはどう思いますか? T氏 それは入倉さんが事実を知っているのにウソをついたか、あるいは、部下から上がってきたウソの報告を本当だと信じ切っているかのどちらかですね。 入倉さんは、僕が津久井で一緒に勤務していた時代は、フロアに現れない人として有名でした。幹部職員で現場にちゃんと入っている人は、数えるほどしかいません。たいてい現場の報告を見聞きするだけで、そんな事実はありませんと言ってしまえば、それで済んでしまう。 渡辺 やはり植松の証言は現実だった? T氏 利用者さんに「おい、こら、てめえ」という口調で話す職員は、ごく普通にいます。あと、先輩職員で「自閉症なんて気合いで治る」という持論を得々と語る人もいました。 渡辺 どういう意味ですか? T氏 自閉症の人には、力づくで言うことをきかせればいいと。その人は、もし自分が自閉症の支援論の本を書くなら、1ページ目は「上手な握りこぶしのつくり方」だと言っていたくらいで。 渡辺 うーん……。 T氏 先ほど、植松が「のぞみホーム」に配属されてから、おかしくなったのではないかと言いましたが、その人はまさにのぞみホームの職員でした。 のぞみホームは、昔からいわくつきのホームで、だから植松がのぞみで、ああいう考え方に取りつかれたのには理由があるんじゃないかと……。 それも含めて、僕はこれまで素行に問題のある職員をたくさん見てきました。かながわ共同会では年1回、管理職と面談する機会があるのですが、僕は職員の問題事例を文書にまとめて、園長に上申したこともあります。 渡辺 今回、その文書を持ってきていただいたので、ぜひ紹介してください。 T氏 これは津久井やまゆり園時代の先輩職員の事例ですが、《利用者にヒンズースクワットをたびたび強要。利用者が職員の前から脱出を図ろうとして足を滑らせて転倒。頭部を3針ぬう傷を負ったが、後輩職員に「利用者が突然動き出してケガをした」ことにするよう示唆。虚偽の報告書を作成する》。 渡辺 なぜヒンズースクワットを? T氏 なぜかわかりませんが、自閉症の利用者さんは「反復性行動」をとる方が多いので、スクワットさせておもしろがっていたんじゃないでしょうか。 渡辺 ……ひどいですね。 T氏 あるいは、《業務時間中、フロア内にて携帯ゲームで遊んでいる。上司に見つからないようにと、新人職員にフロア入り口を見張らせる》ということも。 《夜勤当番にも関わらず休憩室におもむき、休日職員とともに飲酒。その際、およそ4時間フロアを無人にする》。 あと、キリがありませんが《業務時間内のPC作業の頻度が高く、寮内の支援を別の職員に実施させているのが現状。夜勤中に仮眠と称して、午前0時~5時までフロアに現れず。その間の各種業務は相方の夜勤職員が代行》というのも。 渡辺 PC作業とは何のことですか? T氏 スタッフルームのパソコンで、ユーチューブを見てたりするんです。 渡辺 この報告書は、上司との面談で提出したんですよね。どうなりました? T氏 あなた一人の証言を信用するわけにはいかないと。それと、そういう場面を見たと言うんなら、あなたがその場で注意しなきゃいけないと。 渡辺 先輩職員に面と向かって注意するなんて、なかなかできませんよね。 T氏 それと、かながわ共同会が指定管理をする愛名やまゆり園(厚木市)に異動してからも、僕は津久井での事例を園長に話して、ちゃんと現場に目を向けてほしいとお願いしたのですが、「津久井の事例を愛名に持ち込むなんて、あなたにはガッカリした」と言われて。同じ系列の園の話なんですよ。でも、「よその園のやっかいごとをうちに持ち込むな」と。それで終わってしまいました。 トイレに長時間座らせる 愛名やまゆり園での虐待 渡辺 愛名やまゆり園でも昨年1月、「利用者をトイレに長時間座らせる」など、複数の職員による虐待が発覚し、厚木市から虐待認定を受けています。 Tさんは、この事実を身近で見て知っていますか? T氏 あるとき、僕が夜勤をしていたんですが、喫煙所へタバコを吸いに行こうとして、隣の寮のトイレを通ると、暗いトイレの中で、一人の利用者さんが、拘束板をヒザに載せて座らせられているんです。そして、その2時間後くらいに、もう一回タバコ吸いに行こうとして、トイレをのぞくと、まったく変わらない姿勢で座っている。おそらく、ひと晩じゅう、あのままだったんじゃないか。そういう光景を何回も見ています。 渡辺 要するに、洋式トイレの便座に利用者を座らせて、膝の上に板を置いて、利用者が便座から立ち上がれないようにするということですよね。どうして夜通しトイレに拘束するんでしょう。 T氏 おむつの中にされちゃうと、めんどくさいからですよね。それと、利用者さんによっては、腸閉塞を患っていて、腸の中に食べ物をためないよう、下剤を入れるんです。そうなると、間違いなく便が出るので、場合によっては布団が汚れたり、体を洗ったりしなくてはならなくなる。それを手間だと考える職員がそうしてしまうんです。 篠田 拘束板があるということは、そういう拘束がシステム化されているということですね。 T氏 建前上は、拘束板というのは、上半身のバランスを保てない利用者さんのためにあるんですが、事実上は逃げられないようにする目的で使われていました。 渡辺 何割くらいの職員が、そういうことをやっていたんですか。 T氏 僕が愛名やまゆり園に勤務していた感触でいうと、だいたい3割くらいです。虐待認定されたおかげで、今ではなくなったとは思いますけど。
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