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徽宗皇帝のブログ

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中国の「キャッシュレス」事情
私は基本的にキャッシュレス化に反対する人間だが、それは日本政府や日本の金融業界への不信感が強いからだ。それに、電子マネーは、日本のような自然災害が多い国では災害の際に立ち往生する危険性が大きいと思っている。
だが、下の記事はかなり客観的視点で(中国への偏見無しに)書かれていて、考察の参考にはなるかと思う。

(以下引用)





QRを活用するほど、中国でキャッシュレス化が進んだ理由とは?(写真:Bloomberg/Getty Images) © 東洋経済オンライン QRを活用するほど、中国でキャッシュレス化が進んだ理由とは?(写真:Bloomberg/Getty Images)

中国経済が数年で急成長した背景には「キャッシュレス化」が大きく関係している。路上の物乞いまでQRを活用するほど中国でキャッシュレス化が進んだ理由とは? ライターの西谷格氏が「中国IT社会の現状」を明かした新書『ルポ デジタルチャイナ体験記』(取材時期:2019年7月)から一部抜粋・再構成してお届けする。

初めて中国を訪れた人が口をそろえて驚くのは、サービスや小売りにおける徹底したキャッシュレス化だ。コンビニやタクシーはもちろん、個人経営の飲食店や雑貨店、道端の屋台、果ては路上の物乞いまでもが、「QRコード」を使ったキャッシュレス社会を生きている。

スマホなしでは生きてはいけない

 物乞いがキャッシュレスというのを最初にニュースで知ったときは、特殊事例なのではないかと思って半信半疑だったが、実際に上海の街中を歩いてみると、ごく普通に遭遇した。


 フードコートで食事をしていた際、目の前にA4用紙を見せてくる老婆と女児の2人連れが現れた。紙を見ると、「病気を治療したいのです。助けてください。ありがとうございます」とメッセージがあり、その横にQRコードが貼られていた。


 こうした様子を見て、「物乞いがスマホを持つなんておかしい! ぜいたくだ!」と考えるのは、日本人の感覚が古いせいかもしれない。逆にいえば、中国では物乞いですら“スマホがないと生きていけない社会”なのである。


 社会の貧困層にまで、スマホとキャッシュレス決済が普及し、それなしでは生活が成り立たないのだ。


 こうしたキャッシュレス社会の立役者となったのは、中国を代表する巨大IT企業アリババの開発した決済アプリ「アリペイ」と、テンセントが開発したチャットアプリ「ウィーチャット」である。


 パリに本社をもつ世界第3位の市場調査会社「イプソス」が、中国のキャッシュレス事情についての調査結果(「2019第三季度第三方移動支付用戸研究報告<=2019年第3クオーター モバイル決済ユーザー研究報告>」)を発表している。それを読むと、アリペイとウィーチャットの存在の大きさがよくわかる。

現金派はもはやマイノリティー

 日常生活の買い物で最もよく使う支払い方法について調査した結果、モバイル決済(スマホを使ったキャッシュレス決済やネット決済)と回答した人は全体の61%、カード決済(中国のカード決済は、クレジットカードではなく銀行のキャッシュカードを使ったデビットカードが主流)は23%、現金は14%だった。現金派は、圧倒的にマイノリティーだ。


 ウィーチャットペイ(QQ銭包など、テンセントが運営するその他キャッシュレス決済も含む、以下同)のユーザー浸透率は全体の92.4%にのぼり、アリペイの浸透率も72.1%を記録した。


 3位以下は銀聯カードの「銀聯雲閃付」27.2%、「京東銭包」17.9%、「翼支付」10.6%、Apple Pay 8.1%、ファーウェイペイ8%と続く。取引金額をベースに調査すると、ウィーチャットペイ46%、アリペイ43%、銀聯雲閃付6%、4位~15位までの合計5%となっている。キャッシュレス決済のほぼ9割を、アリペイとウィーチャットペイが分け合っている計算になる。


 アリペイを運営するアリババは、当初はショッピングモール「淘宝」の運営で急成長し、アリペイもネットショッピングでの利用を起点に拡大した。強引に日本に例えるなら、「楽天ペイ」が普及し、天下を取ったようなものだろう。


 一方、ウィーチャットペイはチャットアプリ「ウィーチャット」から生まれたため、日本に例えるなら「LINEペイ」に相当する。アリペイのサービス開始時期は2004年であるのに対し、ウィーチャットペイは2013年。約10年のギャップがありながら、チャットアプリという利便性の高さを武器に、近年アリペイの市場を奪いつつある。


 ネット空間での支払いはアリペイが優位だが、オフラインすなわちリアル店舗では、ウィーチャットペイのほうが利用率が高い。キャッシュレス決済が一般化するにつれ、ウィーチャットペイの存在感はさらに増す流れだが、アリペイは金融商品の多角化や信用機能をベースにしたサービスなどで、差別化を進めている。


 中国のキャッシュレス決済は2016~2018年ごろのわずか2~3年で、中国全土に爆発的に普及した。キャッシュレス決済が中国の隅々まで普及した理由は諸説あり、聞いたことがあるという読者も多いだろうが、改めて整理したい。

中国が「キャッシュレス大国」になれた理由

 ①スマホの普及率が高かった 


いまでこそ経済大国として日本を追い越し、アメリカと対等にまで成長した中国だが、北京五輪(2008年)のあった10年ほど前までは、ニセモノや有毒食品が街にあふれ、ネットも日本ほど普及しておらず、携帯電話はノキアやブラックベリーばかり。それが2010年ごろから目に見えて社会が豊かになり、スマートフォンを通じてネットが急速に普及した。


 現在でも中国のネットユーザーの多くは、スマートフォンを通じてネットにアクセスしているため、キャッシュレス決済を導入する下地が日本以上に整っていたといえる。


 また、中国は携帯電話の基地局(携帯の電波を送受信するアンテナ)の生産でも日本をはるかに上回り、世界のトップクラスにある。パソコンによるインターネットの普及が遅れたからこそ、全国民がどこでもスマホでネットにつながる“スマホ先進国”となり、キャッシュレス社会の基盤がつくられたといえる。


 ②政府主導で、国家プロジェクトとして推進した


中国という国で社会を大きく変える際、政府が無関係であることはまずありえない。中国政府は2015年3月、「インターネット+行動計画」を発表。インターネット+医療、インターネット+物流、インターネット+金融などインターネットをあらゆる産業と結び付けることを国策として掲げ、キャッシュレス決済の普及を強力に後押しした。


 中国はよくも悪くも徹底した管理社会であるため、個人の交友関係や移動履歴などについても、政府は積極的に管理下におきたがる(普通に生活するうえではとくに問題はないが、反政府的な言動などがあれば、ただちに是正を促される)。


 お金の流れについても、匿名性の高い現金より、実名とひも付いたキャッシュレス決済のほうが、国民を管理しやすいと考えたのではないだろうか。税金の徴収も確実である。


 ③出血キャンペーンを行い、導入のハードルを下げた


アリペイ、ウィーチャットともに、専用端末はなくても使用でき、手数料も現在は無料である。これにより、サービスを導入する小売店が急増した。3%前後の手数料がかかる日本のキャッシュレスサービスとは違い、多少損をしてでも自社サービスを普及させ、あくまで“ビッグデータで稼ぐ”という理念があるのだ。


 とくに、2014~2016年ごろの市場導入期は、ユーザー、店舗それぞれに対して大規模なキャッシュバックキャンペーンを展開し、“ちから技”でアリペイ、ウィーチャットペイに人々を呼び込んだ。


 日本では過去に「ペイペイ」が大規模キャンペーンを実施して話題となったが、あれはまさに中国の先行事例を意識したものだったといえるだろう。


 ペイペイはインドのキャッシュレス決済サービス「Paytm」から技術提供を受けていて、「Paytm」はアリババから巨額の出資を受けている。ペイペイとアリババはいわば“孫とおじいちゃん”のような関係にあり、ビジネスモデルが酷似しているのもうなずける。

お金は「便利な道具」にしかすぎない

 ④お金が大好きな中国の国民性


私見だが、中国人のお金に対する価値観は、日本人とは少々異なるように感じる。中国人は、お金を単に便利な“道具の1つ”として見なしていて、変に神聖視しない。友人知人にものを頼むときや、もめ事が起きたときなど、お金を使ってライトに解決することも多い。投資好きで、日本人のように現金を大事に手元に置いておくようなことはあまりしないのである。


 ウィーチャットペイが出現した当初も、個人間ですぐに“ご祝儀(紅包)”という機能を使って、数十元~数百元程度の少額のやり取りが生まれた。いわば、日本人が缶コーヒーをおごったり、LINEスタンプをプレゼントするような軽い感覚で、おひねりをやり取りしているのだ。


 さらに、友人同士で物品を売買したり、代理購入を頼むのも普通だ。日本など海外旅行に行く友人に、コスパのいいコスメや健康食品を買ってきてもらうこともよくある。日本だとある程度仲のいい相手でないと引かれてしまいそうだが、中国人同士は融通無碍(ゆうずうむげ)だ。


 大阪人以上に商品を値切るのが好きだし、お金に対する価値観が日本人とどこか違うのだ。紙幣だろうが、カードだろうが、スマホだろうが、「お金はお金」という感覚なのかもしれない。「金は天下の回りもの」という意識も徹底している。


 ⑤外資系企業がいない


最後にこの点を付け加えてもいいだろう。中国政府は、外資系企業が自国で覇権を握ることのないよう、グーグルやツイッター、フェイスブックといったアメリカ系の巨大IT企業を市場から完全に排除している。


 キャッシュレス決済についても、「アップルペイ」が許されてはいるものの、存在感は極めて小さい。外資系を排除したことで、中国企業2社に絞り込めたともいえる。


 一方の日本はクイックペイ、アップルペイ、グーグルペイなどの外資系キャッシュレス決済も続々と市場に入ってきている。自由市場はもちろん望ましいことだが、乱立状態は早く抜け出したいものである。

「偽札が多いから説」は信じるべからず

 補足:「偽札が多いから」説について


「中国は偽札が多いから、キャッシュレス決済の導入が進んだ」という説もあるが、これは少し疑ってみたほうがいいだろう。


 確かに、中国では日本よりも偽札を見る機会が多いとはいえ、決して頻繁ではない。在住者であっても、1~2年に1回程度にすぎず、キャッシュレス決済に飛びつく動機としては弱すぎる。これまでも中国人は、そこまで偽札に困っていなかったはず。キャッシュレス化を進める多少の後押しにはなっただろうが、決定的な要因にはならなかったはずだ。


 「日本でキャッシュレス化が普及しない理由は、日本人が福沢諭吉を尊敬していて、いつも手元に置いておきたいから」と言われたら、奇妙に感じるだろう。それと同じようなものである。偽札の蔓延というといかにも“中国らしい話”なのでつい信じてしまいそうになるが、眉唾物と捉えるのが賢明だ。





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