マスコミに載らない海外記事さんのサイトより
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2023/08/post-db744e.html
<転載開始>

2023年8月4日
ウラジーミル・テレホフ
New Eastern Outlook


 今年7月16日から18日まで、サウジアラビア王国、アラブ首長国連邦、クウェートの三つのアラブ湾岸諸国を岸田首相が訪問した。2021年秋に就任して以来、世界地政学グレートゲームの現段階で、全ての主要大国にとって戦略的重要性が高まっている地域への彼の初訪問だ。


 炭化水素燃料の燃焼に依存する現在の「炭素依存」経済を、いわゆる「グリーン」経済に置き換える必要性に関するあらゆる話にもかかわらず、主要大国は相変わらず化石燃料の世界の主要供給者である湾岸地域に政治的影響力を確保することに関心を持っている。歴訪について評論家たちが指摘している通り、サウジアラビアとUAEは日本の炭化水素輸入のほぼ80%を占めている。さらに10%は、この地域の他の国々から来る。そして岸田首相歴訪の主な焦点は(「中・長期的に」)炭化水素供給の安定した入手をいかに維持するかという問題だった。


 日本の首相が各国との政治交渉で使うため持参した「贈り物」も、いささか顰蹙をかった。どうやら、交渉の中で、日本は製造過程で使われる革新的「脱炭素技術」を利用できるようにすることを申し出たようだ。しかし炭化水素供給国が長年にわたり炭化水素輸出へのほぼ完全な依存を減らしたい願望は、いくつか誤解があるようだ。


 実際彼らの主な関心事は製造技術の脱炭素化ではなく、より競争力ある製品を製造するため常に最新生産施設を開発することだ。結局、今日、炭化水素の大部分は生産国から遠く離れた場所で燃やされる(そして結果として生じる温室効果ガスが排出される)。したがって、実際の生産者には、行うべき脱炭素化はほとんどない。



 この同じ主題は、世界の大気温度が近年上昇している(明らかに証明された)事実を糧にする国際的「グリーン」運動によって大いに推進されている。しかしこの有害な過程否において、家畜農業を含む様々な人間活動が果たす(とされている)支配的役割は起源が不明な数学モデルによって実証されている。


 この「脱炭素問題」は現代のメディアや政治の場で「新常態」という概念と「公正でない」価値観の背後にある同じ声に推進されているように見える。更に、この両方の思惑の推進は、ヨーロッパや日本の代理人を通じて動く今のアメリカの民主党政権加盟以来、劇的に加速している。実際、これが両方とも実施された場合、世界中の人々に壊滅的結果をもたらす可能性がある。


 しかし日本の首相が訪問先首脳との会談中、脱炭素問題に焦点を当てたのは、実際は単なる隠れ蓑で、湾岸諸国訪問の本当の狙いはかなり違っていたようだ。その狙いは上記要因、つまりこの地域での有利な地位を巡り益々激化する闘いに完全に関連していた。経済的利益だけでなく、政治的利益も、この二つは概して密接に関連している。


 現在、東京の主要地政学的ライバルである北京は、最近何十年にもわたり和解できない敵対者に見えたイランとサウジアラビア間の仲介に成功し、この成果は、より広範な中東地域全体でその地位を大幅に高めた。そして北京も同様にこの地域の経済に関与している。今年6月、中国国営企業CNCPは、カタールエナジーと二度目の長期(27年)契約を締結し、その下で年間400万立方メートルの液化天然ガスを購入する。


 東京は「この地域における地位を中国に譲りつつある」と感じ、中東で存在感を示すため緊急措置を講じる必要があると感じ、これは本来、現代日本で最も著名な指導者の一人、行動的な安倍晋三が最初の任期(2007-2020)に開始した過程だ。安倍晋三のアラブ湾岸諸国への最後の訪問は、首相としての二期目が終了する6か月前の2020年1月に行われた。


 その訪問から3年半の間、安倍晋三の後継者たちはより広範な中東湾岸諸国を訪問しなかった。だから、その間この地域の様々な進展は日本の明白な関与なしに行われた。そして東京が北東アジアという「地元」地域で継続的配慮を必要とする多くの問題を抱えているのは事実だが、遙か遠くにある国々、特に主要炭化水素供給国を無視する余裕はない。


 今回の岸田歴訪の目的は、日本の外交活動におけるこの「ギャップ」を埋めることだった。地理と主題の両方の観点から、彼の歴訪は2020年の安倍晋三の歴訪とほぼ同じ地域だった。歴訪の最後の国所だけ異なっていた。三年半前はオマーンだったが、今年はカタールだった。訪問した三か国で署名された二国間文書の範囲に鑑みて、日本は既に述べた通り極めて重要な地域で日本の存在感を示す過程を再開したと言って過言ではない。


 事実「再開」という言葉が、これらの文書中、最も重要な文書(少なくとも筆者の見解で)、つまり日本の全権代表とアラブ・ペルシャ湾岸6カ国で構成される湾岸協力会議の共同声明で実際使用されている。したがって、共同声明署名国には、岸田率いる日本代表団が最近の訪問で訪問しなかった3か国が含まれている。


 この文書の主な焦点は、日本と湾岸協力会議の六つの加盟国全てとの間の自由貿易協定を締結するための交渉の計画された開始(2024年)にある。この問題は15年前に安倍晋三が最初に提起したもので、これが本文で「再開」という言葉を使用している理由のようだ。


 最後に、日本のペルシャ湾地域への新たな幅広い関与は、経済分野に限定されておらず、決して局所的や地理的な範囲に限定されていない事実に注意する必要がある。実際、これは東京の外交政策における最近の多くの構想の一つに過ぎず、この地域は多かれ少なかれ相互接続された政治的、地理的地域連鎖のリンクとして機能する。これには北東アジア、台湾、東南アジア、インド、ペルシャ湾を含むより広い中東、アフリカ、ヨーロッパが含まれる。


 今年3月、岸田首相はインドを訪問し、その後ヨーロッパを短期間訪問し、その一か月後アフリカ諸国を訪問した。そして、これまで見てきた通り、彼の最近の外交政策活動はペルシャ湾に焦点を当てている。そして彼の政権の他のメンバーも同様に活発だ。特に林義正外務大臣がアジア(インドを含む)やアフリカの多くの国を訪問した。


 上記の通り日本が各国で新たな国際活動を行う大きな理由の一つは「中国要因」だ。


 ウラジーミル・テレホフは、アジア太平洋地域問題専門家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。


記事原文のurl:https://journal-neo.org/2023/08/04/the-japanese-prime-minister-tours-the-persian-gulf-states-to-discuss-decarbonization/