「勝てる」かどうかは選挙戦術の問題だろう。「どうしてもこの人でなければならない」という人物を、推薦陣営が人知を絞って「勝たせる」のが当然あるべき姿だ。
まったく関係の無さそうな話をするが、今評判の「けものフレンズ」というアニメがある。まったく予算も無く、少人数のスタッフで作ったアニメだが、誠実で、目だたない部分に努力を傾注した優れた作品である。一見、幼い子供向けの無邪気なアニメだが、見ていて心を癒される、まさに現代人が求めていたアニメだと、分かる人には分かる。
大金をかけて、マーケティングに頼り、「これならヒットするはずだ」と作ったアニメが軒並み不人気であるのと、この「けものフレンズ」の人気の対比を見れば、選挙にも同じような錯覚や誤解が蔓延していることが分かるだろう。「すぐれているものは、最初は無名でも、SNSを通じてやがて大評判になる」というのが今の時代であり、それは「この世界の片隅に」でも証明されたことだ。これはトランプが大統領になった経緯にも共通している。(トランプが人間として「すぐれている」かどうかは別として、彼の選挙中の発言は他候補よりもまっとうで、アメリカ人の心をとらえていたのは確かだ。)
最初の話に戻せば、「勝てる候補」論、というのは、大金を使い、マーケティングに頼る手法と同じことであり、候補者の人物内容を無視した思想である。くだらない人物を「勝てる候補」として選んで、その候補が実際に勝ったとしても、住民の利益になることは何もない。多くの人は、その手法のいかがわしさを知りつつあるはずだ。
(以下引用)
地元も元同僚もやっぱり! 「反原発」で当選した元テレ朝記者・三反園鹿児島県知事“堂々の変節”
今年7月、原発再稼働に慎重意見を唱えて初当選した三反園訓・鹿児島県知事(58)が、早くも政治姿勢を問われる事態となっている。自らの支持勢力と距離を置き、選挙で対立した県議会多数派に擦り寄っているが、その「軽さ」から人心は離れるばかりだ。
三反園訓(みたぞのさとし)知事は鹿児島県指宿市出身。テレビ朝日の政治記者として、安倍晋太郎会長時代の自民党清和会などを担当し、同局の看板ニュース番組「ニュースステーション」にも出演。後年、コメンテーター(解説委員)として「ビートたけしのTVタックル」などに登場していた。
対立候補で4選を目指していた伊藤祐一郎・前知事(69)は多選に加え、女性蔑視発言などもあって有権者の反発が大きかった。また、4月には最大震度7を観測した熊本地震が起き、震源域から南西110キロ余りに位置する九州電力川内原発(同県薩摩川内市)への不安の声が高まっていた。
三反園氏は、立候補を予定していた反原発団体代表、平良(たいら)行雄氏(57)と政策調整をして一本化を図る。伊藤前知事による原発再稼働受け入れ表明について、「拙速で問題があった」と批判し、原発の安全性や避難計画の妥当性を判断する検討委員会の設置を提案。無所属ながら民進、社民系の支援を得て、自民系が推す伊藤氏を破った。
就任間もない8月26日と9月7日には、公約通り九電に川内原発の即時停止を要請。だが、検討委設置に関する予算案の提出は12月県議会にずれ込んだ(12月16日に可決)。定期検査中だった川内原発1号機の再稼働が12月上旬に迫っており、それまで「検討委で総合的に検討し、最終的に私が判断する」としてきた三反園知事は議会初日の11月28日、事実上再稼働を容認する方針を示した。
候補者調整で出馬を見送った平良氏が、三反園氏と最初に会った6月15日の会談について明かす。
「『候補の一本化がなければ伊藤氏を利することになる』ということで、鹿児島市のホテルで双方の支持者2人を交えた4人で会いました。検討委については事前に三反園氏側から提案があり、『メンバーに入ってほしい』と言われた。だが、今に至るまで要請はなく、漏れ伝わってくる話では、委員に反対派を入れないだろうということです」
原発の問題点の公平な議論のため、検討委のメンバーに賛成・反対双方を登用するのは当然だが、三反園知事は議会中、人選を明らかにするよう求める質問に対し「(反対派を入れることを)約束したかどうか記憶には定かでない」「予算案成立まで個人名は控えたい」と、かわし続けた。
実は“豹変(ひょうへん)”は、当選直後から始まっていた。前出の平良氏が振り返る。
「一本化を図ったものの、本来のスタンスは自民シンパであり、大丈夫かなという思いはありました。知事就任直前、後援会長や私と食事をする機会があり、『初登庁を見守りに行きますよ』と言うと、『来ないでくれ』と断られた。その後、後援会長とも関係を絶っています」
また、支援した県議は「就任後、何度も『話し合いたい』と知事に申し入れているが、実現していません。知事公室を通じて『忙しい』として我々との接触を避けている。私の支援者からも『いったい知事はどうなっているのか』との問い合わせが相次いでいる」と嘆息する。
手のひら返しともとれる知事の態度について、県政関係者が解説する。
「知事は巨額の建設費が見込まれるドーム球場建設を打ち出しており、議会対策のためには51人中37人を占める自民系会派との関係修復が不可欠。当選直後から、支援者を遠ざけるなど『反原発』というイメージの払拭(ふっしょく)を図ってきました。知事選前の記者会見で『検討委に反対派を入れる』と公言したことについては、本人もしぶしぶ認めていますが、信用はがた落ちですね。それでも、伊藤県政への反発から、支持者には『しばらく見守ろう』という人が多いのも事実」
「反原発」は選挙向けの方便なのか
一方、三反園知事が歩み寄ろうとする自民側も釈然としない様子だ。ある自民系県議が語る。
「知事は我々には『原発についての私のスタンスは皆さんと一緒。私を信じてください』と、調子の良いことを言っています。『それなら、その旨一筆書くか公言してくれ』と求めると応じない。その場しのぎの二枚舌ですよ」
別の自民系県議も辛辣(しんらつ)だ。
「激しい選挙戦だっただけに、そう簡単には信頼できない。自民の大部分は懐疑的に見ていますが、その中でドーム球場建設で潤う建設業界とつながりの深い議員に知事はアプローチをかけている。やることが露骨で軽薄。公平に議論するというなら、検討委には賛成、反対双方のメンバーを入れるべきだ。看板政策の原発についてもこうなのだから、元々、政策など二の次なのでしょう」
このように地元での評判が散々なのは、「三反園氏の人間性がそのまま表れているから」と指摘する古巣・テレ朝関係者は多い。元同僚記者は、こうため息をつく。
「記者時代もコメンテーター時代も、とにかくテレビに出るのが大好きでね。軽薄という印象でした。『反原発』というのは、当選するための戦術でしょう。政治家にとって政策とは、神に祈るような気持ちで取り組まなければならない最重要事項。元々、彼はそういうことを深く突き詰めるタイプではない」
「ニュースステーション」時代から三反園氏を知る関係者が続ける。
「人当たりは良いのだが、根底には政治記者だったエリート意識が根強く横たわっている。自分の頼み事がある時には声を掛けてくるのに、こちらが頼りたい時は知らん顔。話していると、そうした部分が透けて見える」
三反園氏が出世コースを外れてコメンテーターになったのは、早河洋・テレ朝会長との確執が原因、と局内ではみられていたという。「局内で冷遇されていた7年ほど前から政界進出の機会をうかがっていた」という地元関係者の証言もあり、当時の現職への求心力低下という千載一遇のチャンスをものにしてつかんだ知事の座だったわけだ。
前出の平良氏が語る。
「知事を支持した反原発派の中には、『いま知事に要請などをするとプレッシャーになるので、静観しよう』と信じる人もいます。早々に『原子力規制委の枠組みは越えない』との方針を打ち出した県の検討委に期待はできませんが、言うべきことは言っていきたい」
川内原発への不安が高まった最大の要因は、熊本地震で事故リスクが現実味を帯びたためだ。三反園知事には、自らを知事に押し上げた安全を願う有権者の声に、真摯(しんし)に向き合う責任がある。
(本誌・花牟礼紀仁)
(サンデー毎日2017年1月1日号から)
ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/sunday/articles/20161219/org/00m/010/001000d#csidx85dcbdebcad208ead956ccb3d4f9c51
Copyright 毎日新聞
コメント