かつて第1位だった日本は、いまや38位
スイスのビジネススクールIMDが、2024年の世界競争力ランキングを6月17日に発表した。世界の67カ国・地域中で、日本は昨年の35位からさらに順位を下げ、38位になった。3年連続で過去最低だ。
このランキングが始まった1989年から1992年までの期間では、日本は世界第1位だった。それ以降、日本の順位が毎年ずるずると下がっていくのを見るのは、日本人としては不愉快なことだ。だから、無視したい。実際、今年のランキングは、報道はされたものの、ほとんど話題にならなかった。
しかし、かつて第1位だった国がここまで凋落するのは、ただごとではない。何でこんなことになるのかを真剣に検討し、対策を考えなければならない。
このランキングで示されているのが日本の実態であるならば、日本企業に投資することは合理的ではない。しかし、今年の初めから2月初めにかけて日経平均がバブル期の最高値に近付いていく局面では、「これからは日本株への投資の時代になる」と言われた。そうした見方は、このランキングで見られる日本の姿とは明らかに矛盾するものだ。
第2次世界大戦で、実際の戦場で敗戦と撤退が続いているにもかかわらず、華々しい戦果を国民に報道し続けた大本営発表と同列のものだと見なされても、やむを得ないだろう。
アジアで日本より下位は、3国だけ
2024年では、シンガポールが2023年から3つ順位を上げて、20年以来4年ぶりに世界の首位となった。香港が5位、台湾は8位だ。中国は、昨年の21位から14位になった。韓国は20位だ。
これらの国・地域が日本より上位に来るのは止むをえないと考える人が多いだろうが、タイ(25位)、インドネシア(27位)、マレーシア(34位)も日本より上位であるのを見ると、ただならぬことが起きていると、実感するだろう。
アジアの調査対象国中で日本より下位にあるのは、インド(39位)、フィリピン(52位)、モンゴル(61位)だけだ。
世界の主要国で日本より下位は、スペイン(40位)、ポーランド(41位)、イタリア(42位)、チリ(44位)、ギリシャ(47位)、ハンガリー(54位)、メキシコ(56位)、ブラジル(62位)、アルゼンチン(66位)などとなっている。
日本の評価はなぜこのように低いのか?それを知るには、いかなる要因・指標について評価がなされているのかを知る必要がある。
このランキングは、「経済パフォーマンス」、「政府の効率性」、「ビジネスの効率性」、「インフラストラクチャー」の4つの競争力要因について、336の指標を使用して評価を行っている。
IMDのWorld Competitiveness Booklet 2024によれば、項目別に日本の順位を見ると、「経済パフォーマンス」では第21位、「インフラストラクチャー」では第23位と、比較的上位にある。
問題は、「政府の効率性」で第42位、「ビジネスの効率性」で第51位と評価が低いことだ。とくに、「ビジネスの効率性」の中の「マネジメント・プラクティス(マネジメントの慣行)」が65位と、非常に低い評価だ。
「マネジメント・プラクティス」は、「会社がアジャイル(機敏)か?」「変化するマーケットの条件に、会社がきわめて敏感に反応するか?」など、14個の項目について評価される。日本の競争力が低いと評価されるのは、こうした項目についての評価が低いからだ。この状況は、2023年も同じだった。
デジタル競争力ランキングでは32位
IMDは、「世界デジタル競争力ランキング」も作成している。2023年11月に公表された2023年の結果を見ると、世界の64カ国・地域のうち、第1位がアメリカだ。アメリカは2017年の調査開始以来、5回目まで首位だったが、2022年調査で2位となっていた。
これに続いて、第2位がオランダ、第3位がシンガポールとなっている。韓国が第6位、台湾が第9位、香港が第10位だ。日本は第32位になる。2022年調査から3つ順位を落としており、過去最低だ。
上で見た全般の競争力よりはやや順位が上になるが、決して満足してよい結果ではない。
3つのファクターによって評価されている。「知識」(日本は第28位)、「技術」(日本は32位)、「将来への準備」(日本は32位)となっている。
日本の評点がとくに低いのは、「知識」のうちの「人材」(日本は49位)、「技術」のうちの「規制のフレームワーク」(50位)、「将来への準備」の中の「ビジネスの機敏性」(56位)だ。これらの項目のいずれにおいても、日本の順位は時系列的に見て低下している。
IMDは、「世界人材ランキング」も作成している。2023年9月に公表された2023年の結果を見ると、世界64カ国・地域の中で、1位がスイス、2位がルクセンブルク、3位がアイスランドなどとなっている。
以下、ヨーロッパの人口が比較的少ない国が続く。アジアでは、シンガポールが世界第8位だ。そして、香港が第16位、台湾が第20位、マレーシアが第33位、韓国が第34位、中国が第41位となっている。
日本は第43位だ。これまで見てきたIMD世界ランキングの中で、最低だ。2019年には第35位だったので、ここでも日本は劣化していることになる。
評価は、つぎの3つの項目によってなされている。第1は「人材投資と開発」(日本は世界第36位)。これは、教育に対する公的支出、教師の数、雇用訓練、女性労働者比率、健康のインフラストラクチャーなどだ。
第2は、「アピール」(魅力)」(日本は世界第23位)。これは、生活費、頭脳流出、生活の質、外国の熟練専門家、個人所得税などだ。
第3は「準備」(日本は世界第58位)。これは、労働力の成長率、専門家、金融の技術、国際的経験、シニアマネージャーの能力、初・中教育、理系の人材、大学での教育、経営の教育、語学の能力などだ。
「国際的な経験」では、文字通り世界最低
日本が特に低いのは、「国際的な経験」(世界第64位)、「シニアマネージャーの能力」(世界第62位)、「語学の能力」(世界第60位)だ。「国際的な経験」では、文字どおり世界最低だ。
国際経験の面で日本人に問題があるとは、これまでもしばしば指摘されてきたことだが、このように「世界最低」という数字を突きつけられると、改めて愕然とする。
そして、このことがビジネスの機敏性などに影響与えていることは疑いがない。つまり世界が大きく変化していることを、日本の経営者は肌で感じられず、そのため必要な対応をしていないのだ。
日本が、IT革命、世界的水平分業の進展、製造業のファブレス化といった大きな変化に対応できなかったのは、そうした変化を身の回りの出来事として直接に感じることができなかったからだろう。
2000年頃にアメリカのシリコンバレーで生活をしていれば、世界が大きく変わりつつあることを日常体験として経験できた。そして、それに対応しない限り将来はないことを、実感できたに違いない。
留学生数を見ても、韓国と比べて、日本は約4分の1と非常に少ない。人口あたりで見れば、もっと少ない。
これに関して、最近さらに問題が生じている。それは円安だ。これによって日本人が外国に留学する費用が著しく高騰している。そのために、計画していた留学を諦める人も増えている。
この問題の解決は、決して簡単ではない。しかし、日本衰退を食い止めるためのカギがここにあることを、認識すべきだ。
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