「日経ビジネスオンライン」記事の一部を転載。
私は脳科学者や科学ライターというのはあまり好きではないが、ここに書かれた実験の話は興味深い。要するに、これは人間の動物的本能である。
自己保存のためには、見知らぬ存在や異物を、まず敵だと看做す必要がある。それでこそ自分の安全が保たれるのであり、相手が味方だと思って呑気に接近すると、それが敵だった場合には防御が手遅れになるからだ。
そして、自分の属する集団というのは、いわば自分自身の拡張であるから、それを肯定するか否定するかといえば、肯定するしかない。これは他集団が出てきた時に顕現化する。つまり、必然的に他集団は敵、自己の属する集団は味方、となる。これが、下の実験で示された、
10~11歳の白人男子で構成する2つの集団を近くの場所でキャンプをさせました。最初の1週間はそれぞれの存在を知らせずに過ごさせる。次の週に、偶然を装って、両集団を引き合わせました。その後、綱引きなどのゲームをして競わせ、お互いの対抗心を煽るように仕向けたのです。
その後、両集団の親睦を図るため、食事を一緒に作って食べたり、花火をしたり、イベントを催したのですが、結果は親睦どころではありませんでした。相手の集団が使うキッチンにゴミを捨てたり、殴り合いのけんかを始めたり、相手の集団の旗を燃やしたり、まるで戦争が勃発したかのような行動が見られたのです。
たった3週間のことですよ。お互い、なんの怨恨もないのに。
という結果をもたらしたもので、それは動物的本能が理性を圧倒した、ということなのである。
言うまでもなく、私はこの「動物性」を否定する者だ。
「愛国心」を鼓舞する人間は、国内にすら「敵」を作り出す。「愛国心」とは裏を返せば「他国を憎悪せよ」ということであり、それに従わないグループは、国内の「敵」なのである。
こうした「動物的本能」は、社会的熱狂を作り出しやすい。その前では理性の言葉が無力化されがちなのである。今、日本はそういう瀬戸際にあるのではないか。
あなたは動物でありたいか、人間でありたいか。
(以下引用)
脳とナショナリズムと戦争の意外な関係
脳科学者・中野信子さんに聞く
2015年8月5日(水)
人類は集団行動を取ることで猛獣から身を守り、生き延びてきた。
だが、祖先から引き継いできたこの特性が、戦争を生み出す可能性を秘めている。
なぜ、こんな皮肉なことが起きるのか。
気鋭の脳科学者、中野信子氏に、脳の働きと戦争の関係について聞いた。
(聞き手 森 永輔)
先日、中野先生とある方によるライブ対談にお邪魔する機会がありました。その場で話題に上った「青シャツと黄シャツ」のエピソードにハッとさせられました。教育とナショナリズム、戦争の関係を考えるのに役に立つのではないかと思ったからです。
中野 身びいきについて調べるために行われたこんな実験の話でしたね。
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者。東日本国際大学教授、横浜市立大学客員准教授 1975年生まれ。東京大学工学部卒、東京大学大学院医学系研究科医科学専攻博士課程修了。フランス国立研究所で研究に従事。 主な著書に『脳はどこまでコントロールできるか?』『脳内麻薬』『努力不要論』など。(撮影:加藤 康、以下すべて)
6~9歳の白人の子供を集め、青いシャツを着るグループと黄色いシャツを着るグループに無作為に分けます。そして、それぞれのメンバーがそれぞれのグループに属していることを毎日、意識させるように仕向けました。例えば、「青シャツグループのロバート君」と呼びかけるとか。青シャツグループと黄シャツグループに同じテストを受けさせ、グループごとの平均点を知らせるとか。
こうしたことを1カ月にわたって続けた後、面白い反応が確認されたのです。「競争すると、どちらが勝つか」と聞くと、67%の子どもが「自分の集団が勝つ」と答えたのです。また、グループ替えをするなら、今度はどちらのグループに入りたいかと問うと、8割以上の子供が「今のグループがよい」と応じました。こうした身びいきが生じることを「内集団バイアス」と呼びます。
小学生の時、隣のクラスはまるで外国のような存在であったことを思い出します。比較したわけでもないのに、自分のクラスこそが最も素晴らしいクラスだと信じて疑いませんでした。できればクラス替えはしたくなかったですね。
中野 あの時の対談ではお話ししなかった、「泥棒洞窟実験」というものがあります(注:泥棒洞窟は地名)。
10~11歳の白人男子で構成する2つの集団を近くの場所でキャンプをさせました。最初の1週間はそれぞれの存在を知らせずに過ごさせる。次の週に、偶然を装って、両集団を引き合わせました。その後、綱引きなどのゲームをして競わせ、お互いの対抗心を煽るように仕向けたのです。
その後、両集団の親睦を図るため、食事を一緒に作って食べたり、花火をしたり、イベントを催したのですが、結果は親睦どころではありませんでした。相手の集団が使うキッチンにゴミを捨てたり、殴り合いのけんかを始めたり、相手の集団の旗を燃やしたり、まるで戦争が勃発したかのような行動が見られたのです。
たった3週間のことですよ。お互い、なんの怨恨もないのに。
私は脳科学者や科学ライターというのはあまり好きではないが、ここに書かれた実験の話は興味深い。要するに、これは人間の動物的本能である。
自己保存のためには、見知らぬ存在や異物を、まず敵だと看做す必要がある。それでこそ自分の安全が保たれるのであり、相手が味方だと思って呑気に接近すると、それが敵だった場合には防御が手遅れになるからだ。
そして、自分の属する集団というのは、いわば自分自身の拡張であるから、それを肯定するか否定するかといえば、肯定するしかない。これは他集団が出てきた時に顕現化する。つまり、必然的に他集団は敵、自己の属する集団は味方、となる。これが、下の実験で示された、
10~11歳の白人男子で構成する2つの集団を近くの場所でキャンプをさせました。最初の1週間はそれぞれの存在を知らせずに過ごさせる。次の週に、偶然を装って、両集団を引き合わせました。その後、綱引きなどのゲームをして競わせ、お互いの対抗心を煽るように仕向けたのです。
その後、両集団の親睦を図るため、食事を一緒に作って食べたり、花火をしたり、イベントを催したのですが、結果は親睦どころではありませんでした。相手の集団が使うキッチンにゴミを捨てたり、殴り合いのけんかを始めたり、相手の集団の旗を燃やしたり、まるで戦争が勃発したかのような行動が見られたのです。
たった3週間のことですよ。お互い、なんの怨恨もないのに。
という結果をもたらしたもので、それは動物的本能が理性を圧倒した、ということなのである。
言うまでもなく、私はこの「動物性」を否定する者だ。
「愛国心」を鼓舞する人間は、国内にすら「敵」を作り出す。「愛国心」とは裏を返せば「他国を憎悪せよ」ということであり、それに従わないグループは、国内の「敵」なのである。
こうした「動物的本能」は、社会的熱狂を作り出しやすい。その前では理性の言葉が無力化されがちなのである。今、日本はそういう瀬戸際にあるのではないか。
あなたは動物でありたいか、人間でありたいか。
(以下引用)
脳とナショナリズムと戦争の意外な関係
脳科学者・中野信子さんに聞く
2015年8月5日(水)
人類は集団行動を取ることで猛獣から身を守り、生き延びてきた。
だが、祖先から引き継いできたこの特性が、戦争を生み出す可能性を秘めている。
なぜ、こんな皮肉なことが起きるのか。
気鋭の脳科学者、中野信子氏に、脳の働きと戦争の関係について聞いた。
(聞き手 森 永輔)
先日、中野先生とある方によるライブ対談にお邪魔する機会がありました。その場で話題に上った「青シャツと黄シャツ」のエピソードにハッとさせられました。教育とナショナリズム、戦争の関係を考えるのに役に立つのではないかと思ったからです。
中野 身びいきについて調べるために行われたこんな実験の話でしたね。
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者。東日本国際大学教授、横浜市立大学客員准教授 1975年生まれ。東京大学工学部卒、東京大学大学院医学系研究科医科学専攻博士課程修了。フランス国立研究所で研究に従事。 主な著書に『脳はどこまでコントロールできるか?』『脳内麻薬』『努力不要論』など。(撮影:加藤 康、以下すべて)
6~9歳の白人の子供を集め、青いシャツを着るグループと黄色いシャツを着るグループに無作為に分けます。そして、それぞれのメンバーがそれぞれのグループに属していることを毎日、意識させるように仕向けました。例えば、「青シャツグループのロバート君」と呼びかけるとか。青シャツグループと黄シャツグループに同じテストを受けさせ、グループごとの平均点を知らせるとか。
こうしたことを1カ月にわたって続けた後、面白い反応が確認されたのです。「競争すると、どちらが勝つか」と聞くと、67%の子どもが「自分の集団が勝つ」と答えたのです。また、グループ替えをするなら、今度はどちらのグループに入りたいかと問うと、8割以上の子供が「今のグループがよい」と応じました。こうした身びいきが生じることを「内集団バイアス」と呼びます。
小学生の時、隣のクラスはまるで外国のような存在であったことを思い出します。比較したわけでもないのに、自分のクラスこそが最も素晴らしいクラスだと信じて疑いませんでした。できればクラス替えはしたくなかったですね。
中野 あの時の対談ではお話ししなかった、「泥棒洞窟実験」というものがあります(注:泥棒洞窟は地名)。
10~11歳の白人男子で構成する2つの集団を近くの場所でキャンプをさせました。最初の1週間はそれぞれの存在を知らせずに過ごさせる。次の週に、偶然を装って、両集団を引き合わせました。その後、綱引きなどのゲームをして競わせ、お互いの対抗心を煽るように仕向けたのです。
その後、両集団の親睦を図るため、食事を一緒に作って食べたり、花火をしたり、イベントを催したのですが、結果は親睦どころではありませんでした。相手の集団が使うキッチンにゴミを捨てたり、殴り合いのけんかを始めたり、相手の集団の旗を燃やしたり、まるで戦争が勃発したかのような行動が見られたのです。
たった3週間のことですよ。お互い、なんの怨恨もないのに。
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