「ヤスの備忘録」というサイトから転載。
現在の日本では中国について論じるのは右翼だけ、という奇妙な傾向があり、感情論でないまともな中国論はなかなか読めないので、下記記事のような中立的な立場で論じた中国論は貴重である。
下記記事をざっと読んだだけでも、この論が日本の有象無象の経済学者や政治学者などよりよほど正確に中国の実像を捉えていることが感じられる。これまでは漠然とした薄い描線で描かれていた中国の輪郭が太い実線で描かれ、明確なものになったという印象である。
で、この論によると、中国共産党は二つの路線変更を行おうとしているようだ。大きくは中国の経済構造の大転換、小さくは増大する貧困層の不満を和らげるため(だけではないが)の地方政治改革である。しかし、その改革が成功するかどうかは(あたりまえだが)不確定的であり、今後に注目、ということだ。
この10年ほどで中国は高度経済成長をしたわけだが、現在の形の経済成長は長くは続かない、と中国指導層は見ているのだろう。あるいは、高度経済成長をバブルとその破裂で終わらせた日本の失敗から学んだのかもしれない。
日本の場合はいまだに経団連と官僚たちが輸出主導の経済を必死で守ろうとしているが、中国は早くも輸出主導の経済から内需型経済への転換を図ろうとしているのであるなら賢明である。と言うのは、輸出主導の経済とは、労働者の低賃金によって成長し、労働者の賃金上昇とともに終わるものであるからだ。日本の経済界と経済官僚はかつての栄華の夢からいまだに覚めきれない、ガラパゴスの生物的存在なのである。
(以下引用)
中国の国内では本当になにが起こっているのか?
日本ではネットを中心に、中国経済の「失速」から国民の不満が爆発し、共産党の一党独裁に終止符が打たれ、これから大混乱に陥るのではないかとうる見方が多く出回っている。一部の新聞やテレビでも、このような見方をするところある。
しかしこのような見方は、中国の反日デモで刺激された嫌中の意識が背景にあるため、バイアスがかかっている可能性は大きい。これからの変化に適切に対処するためには、中国でなにが起こっているのかできるだけ客観的に把握したほうがよい。
中国経済「失速」の実態
中国経済が「失速」して混乱が拡大すると考えられているが、中国経済の減速は実際にはどの程度なのだろうか?
調べて見ると、メディアやシンクタンクで異なる見通しを出しているが、もっとも悲観的なロイターで6%程度、もう少し楽観的なウォールストリートジャーナルで7.4%、そしてもっとも楽観的なIMFでは8.2%の成長率を見積もっている。他のメディアやシンクタンクを平均すると、7.4%から7.2%の成長率といったところだ。
ちなみに、IMFの見通しでは日本は1.9%、アメリカは2.2%、そして信用収縮に苦しむEUは0.2%の成長率だ。これから見ると、中国の成長率は群を抜いており、いわゆる「失速」というイメージからはほど遠い。
ましてや中国政府は今回、2008年の金融危機のときに実施した大規模な景気刺激策と金融緩和は見送っている。
前回の金融危機では、100兆円を越える景気刺激策を、特に発展の遅れた内陸部のインフラ整備として実施した。また大幅に金融を緩和し、資金難に陥り破綻しつつある企業を資金面で支え、大量に失業者が発生するのを防いだ。
この結果、9%の高い成長率の維持に成功し、中国が金融危機で落ち込んだ世界経済の歯止めになった。
他方、巨額の景気刺激策と金融緩和は市場に大量の資金を供給したため、不動産バブルとインフレを引き起こした。このため、大都市のマンション価格は一般の市民では購入できない水準に高騰した。さらに上昇するインフレ率は市民生活を直撃し、生活水準の低下を招いた。これで格差は一層拡大し、特に貧困層の不満は高まった。
中国政府は、このような2008年から09年時の経済政策を反省し、今回は同じような景気刺激策と金融緩和は見送っている。しかし、いざ経済がそれこそ大きく減速する可能性があるときには、かつてのような景気刺激策を実施し、成長率を維持することは不可能ではない。
中国は、減速したといっても7%を越える成長率を維持し、実施可能なさまざまな経済政策もある。巷で聞く「経済失速による社会混乱」のイメージではない。
ではなにが問題なのだろうか?
経済成長の一般的なパターン
ところで、経済成長とそれがもたらす社会変化には一般的なパターンは存在している。日本、韓国、台湾などの国々もこのパターンを歴史的に踏襲してきた。
多くの場合、新興国の経済成長をけん引するのは、国内の安い労働力を使った輸出主導の製造業である。
こうした製造業に労働力を供給するのは、周辺の農村地域である。製造業の成長が続くと、都市には農村地域から職を求めて多くの人口がなだれ込み、都市のスラムが形成される。スラムでは、犯罪、伝染病、不衛生な生活環境などが大きな社会問題となる。
しかし、経済成長がさらに続くと、都市のスラムの住民は企業の正社員や熟練工として吸収され、所得が安定し生活水準も上昇する。第2世代になると大学教育の修了者が増加し、企業の管理職としてキャリアを築くものが多くなる。
この結果、分厚い中間層と消費社会が形成され、安い労働力に依存した輸出主導の成長モデルから、中間層による内需に依存した持続可能な成長モデルへと転換する。
分厚い中間層は、政治的には市民社会の形成を意味する。したがって80年代の韓国や台湾のように、経済成長が軍事独裁政権の手で行われている地域では、市民社会の形成が基盤となり、民主化要求運動が起こってくる。民主化要求運動は、市民の広範な支持を得るため、軍事独裁政権は打倒され、選挙で選ばれた民主主義的な政権に移行する。
これが、経済成長がもたらす社会変化の一般的なパターンだ。いまは、インドやベトナムで起こっており、これからはミャンマーやカンボジアのような国々がこの過程に入ると見られている。
形成が阻止された市民社会と農民工
では中国も、市民社会の形成に向かうこのような過程にあるのだろうか?だとするなら、80年代の韓国や台湾のように、これから民主化要求運動が激しくなり、現在の共産党一党独裁は打倒され、バランスの取れた民主的な政権に移行すると見ることができる。
しかし、いまの中国はそのような過程にあるとは言えない。それというのも、中国には農民戸籍と非農民戸籍が2つの戸籍が存在しているからだ。都市に労働力として流入した人々は、都市では行政や社会保障、そして医療のサービスには制限を受けるため、定住しにくい仕組みになっている。最終的には、出身の農村に帰ることが期待されるいわば出稼ぎ労働者でしかない。こうした人々は農民工と呼ばれ、2億人ほどいるとされる。
共産党政権は、このような戸籍システムを維持することで、1)都市に膨大な農村人口が流入して社会が不安化することを回避し、2)分厚い都市中間層と市民社会の形成を抑制し、民主化要求運動の基盤ができにくい状態にすることで、共産党の一党独裁体制の温存を目標にした。
中国の反体制運動
このような政策の結果、中国では、経済の規模と人口に比して、都市の中間層とそれが形成する市民社会は比較的に規模が小さいものに止まっている。
このため、都市型リベラルの民主化要求運動は規模もかなり小さく、共産党一党独裁体制の転換を主導できるほど大きな勢力にはなり得ていない。
他方、はるかに大きな勢力は、中間層になることは排除された農民工を主体とした2億人の勢力だ。都市や農村でもっともストレスが溜まっている層だ。
では、農民工を主体とした運動はなにを求めているのだろうか?民主化要求運動のような選挙による議会制民主主義や人権、そして言論の自由なのだろうか?
そうではないことははっきりしている。農民工主体の運動は、「毛沢東の時代に回帰し、貧しくても格差のない社会の構築」が目標だ。
反日デモで現れた政治勢力
中国内部のこうした政治勢力の違いがはっきりと現れたのは、尖閣諸島の領有権問題を発端にして噴出した反日デモである。
反日デモは、政府が溜まったストレスをガス抜きするための格好の手段として使われており、大型バスでやってくる「官製デモ」も盛んだ。だが、「愛国無罪」の原則が一部適用されるため、「反日」のスローガンさえ掲げていれば、比較的に自由な抗議が許されている。
もちろん、「民主、人権、自由」のスローガンを掲げる都市リベラルの勢力も存在しているが、かなり小規模だ。大きな勢力は、中国国旗と毛沢東の遺影を掲げる農民工を主体とした勢力だ。今回は反日デモが一部暴徒化したが、暴徒化したのはこの勢力である。都市リベラルではない。
独裁容認の左派とハクキライ
農民工を主体とした勢力は「左派」と呼ばれている。「左派」の目標は、「毛沢東の時代に回帰し、貧しくても格差のない社会を構築」することなので、独裁容認だ。議会制民主主義の導入ではない。40年前の「文化大革命」のような革命を理想としているきらいがある。
最近、重慶市のトップだったハクキライが共産党から追放された事件が起きた。追放の理由は、ハクキライが「左派」のスローガンを掲げ、民衆の熱情を利用した犯罪撲滅と反格差運動を展開したことにある。
それはまさに文化大革命型の改革運動だった。一度解き放たれた民衆の熱情は、共産党中央に対する非難に転化するとも限らない。共産党中央はこれを脅威とみなし、ハクキライの追放を決めたのだ。
共産党政権の最大の脅威は左派
「格差なき平等な共産党中央社会の実現」と「毛沢東時代への回帰」を目標に、民衆の熱情に訴えながら改革を目指す左派の存在は、既得権益集団と化し、政治的、経済的権力を一手に独占している現在の共産党にとっては、最大の脅威である。
左派による運動は、民衆の熱情に訴える文化大革命型だ。この運動によって農民工の不満に火がついたときには、それは燎原の火のごとく拡大し、それこそ手がつけられなくなる恐れがある。
共産党の対応
もちろん、左派の脅威をもっともよく認識しているのは、現在の共産党政権である。そのため、左派の勢力をしっかりとコントロールするための以下の政策を実施しようとしている。
1)不動産バブルとインフレを引き起こし、格差の拡大につながる景気刺激策や大幅な金融緩和は実施しない。
2)農民工の出身地域である内陸部に集中的に開発投資を行い、生活水準の向上をはかる。
3)輸出主導型から内需依存型の成長モデルに急いで転換する。
4)人口が200万人程度の地方都市では直接選挙を実施し、市民が指導者を選挙で決める体制を整える。
このような政策を実施すると、地方レベルで農民工は吸収され、いわば地方の中間層となる。中間層の市民社会化で民主化要求運動が起こってくるだろうが、地方都市で自由選挙を実施することで、要求を先取りする。このようにして、現在の左派の基盤である農民工そのものを切り崩すという政策だ。
これはいわば、民衆の下からの政治運動を介すのではなく、共産党が上から改革を推し進める方向だ。これが成功すると、現在の共産党中央の権力基盤は脅かされず、共産党の一党独裁体制も温存することができるはずだ。
これから中国の議会である全国人民代表者大会が開かれ、習近平が主席に選出される。習近平の政権になると、これらの政策を強力に実施すると見られている。
ハードランディングのシナリオ
これはいわばソフトランディングのシナリオだ。世界経済にとってもっとも影響が少ない理想的なシナリオだ。
だが、これとは異なるハードランディングのシナリオも考えることができる。それは、上記の4つの政策がすべて失敗することだ。
内陸部の開発投資は、地方の共産党組織に巨大な利権を生む。地方組織は利権を独占し、農民工の生活水準の向上を阻むかもしれない。
また地方都市の直接選挙の実施は、地方の共産党の権力基盤を脅かす脅威である。地方組織が頑強に抵抗する可能性は否定できない。
このようにして、地方の経済を活性化し、農民工を中間層として吸収する政策が失敗した場合、左派の文化大革命に似た抗議運動が全国規模で拡大する恐れがある。そうなると、コントロールが効かなくなる臨界点を向かえる可能性もある。
そして、その過程で現在の共産党政権が打倒されるとどのようなことが起こるだろうか?
左派は、「毛沢東回帰による平等な社会」の実現を目指している。これを実現できる独裁的な指導者こそ、左派が求めるものだ。
すると、共産党内部で左派を支持するグループや人民解放軍の強硬派が中心となり、現在よりもずっと独裁的な軍事政権が成立する可能性も大きい。この政権によって、富裕層からの富の剥奪と、貧困層への富の移転が行われ、平等社会の実現が本当に目標とされる可能性も出てくる。
また、おそらくこうした軍事独裁政権は、国内の矛盾と国民の不満を、海外に領土を拡張することでそらすことに抵抗はないだろう。
もしこのような政権が中国にできると、非常に危険なことになる。これが、ハードランディングのシナリオだ。
11月の主席に指名される習近平は、来年の3月に政権交代する。そのタイミングで見ると、いまから2015年前後までが転換期となる可能性が大きいように思う。これからの3年間で、ソフトランディングのシナリオになるのだろうか?それとも、ハードランディングのシナリオだろうか?
注視しなければならないだろう。
(追記) 「ギャラリー酔いどれ」に引用されていた下記記事も中国と日本の今後について示唆的な好記事なので、追加引用しておく。「酔いどれ」の管理人氏は中国を「シナ」呼ばわりする右翼臭い人物で、この記事の結論には否定的だが、私はこの記事のスタンスは正しいと思う。「酔いどれ」氏の思想は感情論にしか見えないが、すべて感情論は、最初から結論ありきであり、議論になっていないものだ。
(引用2)
◆http://news.infoseek.co.jp/article/businessjournal_20121029_10001
Business Journal(2012年10月29日)
◎中国には、国内で1千万人の雇用を創出する日本企業が不可欠-
日本政府による尖閣諸島国有化に対する中国での反日デモを契機に、
日本企業の間では「中国とどう向き合うか?」という、中国リスクに対する対応策に大きな関心が高まっている。
改革開放路線から20年間、中国は豊富で安価な労働力による人口ボ-ナスの恩恵と、
日本や欧米先進国による積極的な外資導入をテコに、高度経済成長を続けてきた。
しかし、ここにきて中国は、このまま中進国にとどまるか、それとも先進国入りできるか、
重大な岐路に立っている。
中国では、経済成長の最大の原動力といわれる農村の余剰労働人口が、2013年から減少に転じ、
それ以降はこれまでの人口ボ-ナスの恩恵から人口減少が経済不振をもたらす人口オ-ナス
(高齢人口が急増する一方、生産年齢人口が減少し、経済成長の重荷となる状態)へと移行する。
その結果、労働力不足と労賃の上昇により、経済成長に大きなブレ-キがかかる
「ルイスの転換点=成長の壁」(英国の経済学者ア-サ-・ルイスが提唱)に直面する。
●深刻な「過剰」に苦しむ中国
すでに数年前から中国の人件費の急激な上昇と人民元高で、中国製品の国際競争力は急速に低下している。
とりわけ、中国の輸出製品は労賃の安さを武器にした低付加価値製品が多いこともあって、
国際競争力は長期低下傾向にある。そのうえ、2008年に起こったリ-マン・ショック後の
4兆元規模の景気対策による副作用もあり、鉄鋼や造船など、国営企業や地方企業ともに
深刻な設備過剰・人員過剰・在庫過剰の問題に苦しんでいる。
中国政府は、これまでの安価な余剰労働力と低付加価値製品に依存した産業構造を、
生産性向上を実現して高付加価値製品に支えられたハイテク産業に転換しようとしているが、
現実はなかなかうまくいっていない。それどころか、
不動産バブルなど数百兆円という膨大な不良債権を抱え、中国経済は崩壊するのではないかととの指摘さえある。
中国がルイスの転換点を乗り越えられるか否かは、
そのまま中進国にとどまるか、それとも先進国入りに飛躍できるかどうか、
歴史的な転換点に立っていることを意味する。
欧米先進国や、日本・韓国・シンガポ-ルなどアジアの先進国は、
ルイスの転換点を克服して先進国入りを果たした。先進国入りに必要な要件として、
その決定的なカギを握るのは、
(1)経済成長を長期にわたって支える政治的・社会的安定を確保し、
(2)安価な労働力でなく高い労働生産性により経済成長を実現していく「生産性革命」
の実現である。
(1)の政治的・社会的安定に関していえば、尖閣問題に端を発した反日デモはまったくマイナスに働き、
中国社会を深く蝕んでいる貧富の格差・不平等や役人・官僚の汚職問題と共に最大の中国リスクとなる。
●反日デモが阻害するものとは?
中国はこれまでの歴史において近代化運動に3度挑戦した。
第1回は清朝末期の洋務運動で、清朝政府の腐敗と列強侵略により挫折。
第2回は中華民国の近代化運動で、これも日中戦争や内戦などにより挫折。
そして第3回は共産中国での近代化運動で、文化大革命により挫折した。
中国にとって今度で4度目の近代化への挑戦となるが、
ここにきて勃発した偏狭なナショナリズム、反日デモは間違いなく近代化挑戦を阻害する重大な要因となる。
現在、中国社会が抱える深刻な貧富の格差・不平等、役人官僚の腐敗・汚職問題などを考えると、
反日デモは何かのきっかけで容易に反政府デモに転化しやすく、深刻な政治的・社会的な不安定をもたらす。
持続的な経済成長は政治的・社会的な安定なくしてあり得ない。
それに、国家間の国境・領海・領土問題は古今東西にわたって
軍事的な武力行使や偏狭なナショナリズムの扇動で円満に解決した事例は歴史上一つもない。
時間をかけて粘り強く知恵を絞り、政治力や外交力を駆使して話し合いで解決するしかない。
(2)の生産性革命についていえば、中国が近代化を成し遂げ、先進国入りするのに不可欠な
「生産性革命による経済成長・発展」を実現するには、
トヨタやパナソニックなどもの造りに精通した日本企業の技術協力なくして非常に難しいということだ。
中国は日本を抜いてGDP世界第2位になり、「もう日本に配慮する必要はない」という
おごった気持ちや自信があるのか、この厳しい現実をよく理解していない。
現在中国に進出している日系企業は、大企業から中小企業まで含めて2万数千社、
これら企業が雇用している現地従業員は400~500万人に上る。
そのうち製造業が6割以上を占め、従業員の家族を含めると、日系企業は1000万人以上の中国人の生活を支えている。
製造業はこれまでも、そしてこれからも中国人の雇用と経済成長を支える最大の産業である。
もし、日本のメーカーが撤退したり、
生産性革命を実現できず国際競争力を失って多くの中国企業が倒産したりすれば、大量の失業者が溢れる。
彼らは反政府活動や政治的・社会的不安定の最大の温床になる。
中国が政治的・社会的不安定に陥り、経済的にも生産性革命に失敗すれば、
中進国の罠に陥って4度目の近代化挑戦=先進国入りも不可能になろう。
●日本の技術協力なくして、中国の発展はない?
中国経済の最大の原動力である製造業において、低付加価値の産業構造のままにとどまるか、
生産性革命を実現して高付加価値の産業構造に転換できるか、いまその正念場にあるといってよい。
「製造業における生産性革命」を実現するのにきわめて重要な
技術・ノウハウ・経験・人材・事例(成功事例も失敗事例も)を豊富に持っている日本企業の技術協力なくして、
中国の先進国入りは難しいとさえいえる。この事実を中国は冷静に考えるべきであろう。
同時に、日本にとっても中国との関係は国内市場が縮み傾向にある中、
今後の成長・発展の大きな力になることは間違いない。
中国リスクがあるからといって、
日本企業が反日デモに反発して中国市場から安易に撤退するのは決して得策ではない。
軍事用語で核抑止力という言葉があるが、中国との経済取引・貿易関係にはかなりの「したたかさ」が必要である。
多少の政治的・外交的な緊張や軋轢があっても、日本との協力なくして中国の発展はないと彼らに思わせ、
中国の圧力や脅威を押さえ込めるだけの「経済的抑止力」を持つことが大事になる。
経済的抑止力とは、先進技術での圧倒的な優位性、核心技術のブラックボックス化、
知的所有権の行使、粘り強い技術交渉力、経験豊富な人材による技術指導・教育訓練、
日本ブランドの浸透力と宣伝活動などを組み合わせた総合力を確保し、
中国リスクに対して確実な抑止力を発揮できるようにすることである。
情緒的・感情的に対応したほうが、負けである。(文=野口恒/ジャーナリスト)
現在の日本では中国について論じるのは右翼だけ、という奇妙な傾向があり、感情論でないまともな中国論はなかなか読めないので、下記記事のような中立的な立場で論じた中国論は貴重である。
下記記事をざっと読んだだけでも、この論が日本の有象無象の経済学者や政治学者などよりよほど正確に中国の実像を捉えていることが感じられる。これまでは漠然とした薄い描線で描かれていた中国の輪郭が太い実線で描かれ、明確なものになったという印象である。
で、この論によると、中国共産党は二つの路線変更を行おうとしているようだ。大きくは中国の経済構造の大転換、小さくは増大する貧困層の不満を和らげるため(だけではないが)の地方政治改革である。しかし、その改革が成功するかどうかは(あたりまえだが)不確定的であり、今後に注目、ということだ。
この10年ほどで中国は高度経済成長をしたわけだが、現在の形の経済成長は長くは続かない、と中国指導層は見ているのだろう。あるいは、高度経済成長をバブルとその破裂で終わらせた日本の失敗から学んだのかもしれない。
日本の場合はいまだに経団連と官僚たちが輸出主導の経済を必死で守ろうとしているが、中国は早くも輸出主導の経済から内需型経済への転換を図ろうとしているのであるなら賢明である。と言うのは、輸出主導の経済とは、労働者の低賃金によって成長し、労働者の賃金上昇とともに終わるものであるからだ。日本の経済界と経済官僚はかつての栄華の夢からいまだに覚めきれない、ガラパゴスの生物的存在なのである。
(以下引用)
中国の国内では本当になにが起こっているのか?
日本ではネットを中心に、中国経済の「失速」から国民の不満が爆発し、共産党の一党独裁に終止符が打たれ、これから大混乱に陥るのではないかとうる見方が多く出回っている。一部の新聞やテレビでも、このような見方をするところある。
しかしこのような見方は、中国の反日デモで刺激された嫌中の意識が背景にあるため、バイアスがかかっている可能性は大きい。これからの変化に適切に対処するためには、中国でなにが起こっているのかできるだけ客観的に把握したほうがよい。
中国経済「失速」の実態
中国経済が「失速」して混乱が拡大すると考えられているが、中国経済の減速は実際にはどの程度なのだろうか?
調べて見ると、メディアやシンクタンクで異なる見通しを出しているが、もっとも悲観的なロイターで6%程度、もう少し楽観的なウォールストリートジャーナルで7.4%、そしてもっとも楽観的なIMFでは8.2%の成長率を見積もっている。他のメディアやシンクタンクを平均すると、7.4%から7.2%の成長率といったところだ。
ちなみに、IMFの見通しでは日本は1.9%、アメリカは2.2%、そして信用収縮に苦しむEUは0.2%の成長率だ。これから見ると、中国の成長率は群を抜いており、いわゆる「失速」というイメージからはほど遠い。
ましてや中国政府は今回、2008年の金融危機のときに実施した大規模な景気刺激策と金融緩和は見送っている。
前回の金融危機では、100兆円を越える景気刺激策を、特に発展の遅れた内陸部のインフラ整備として実施した。また大幅に金融を緩和し、資金難に陥り破綻しつつある企業を資金面で支え、大量に失業者が発生するのを防いだ。
この結果、9%の高い成長率の維持に成功し、中国が金融危機で落ち込んだ世界経済の歯止めになった。
他方、巨額の景気刺激策と金融緩和は市場に大量の資金を供給したため、不動産バブルとインフレを引き起こした。このため、大都市のマンション価格は一般の市民では購入できない水準に高騰した。さらに上昇するインフレ率は市民生活を直撃し、生活水準の低下を招いた。これで格差は一層拡大し、特に貧困層の不満は高まった。
中国政府は、このような2008年から09年時の経済政策を反省し、今回は同じような景気刺激策と金融緩和は見送っている。しかし、いざ経済がそれこそ大きく減速する可能性があるときには、かつてのような景気刺激策を実施し、成長率を維持することは不可能ではない。
中国は、減速したといっても7%を越える成長率を維持し、実施可能なさまざまな経済政策もある。巷で聞く「経済失速による社会混乱」のイメージではない。
ではなにが問題なのだろうか?
経済成長の一般的なパターン
ところで、経済成長とそれがもたらす社会変化には一般的なパターンは存在している。日本、韓国、台湾などの国々もこのパターンを歴史的に踏襲してきた。
多くの場合、新興国の経済成長をけん引するのは、国内の安い労働力を使った輸出主導の製造業である。
こうした製造業に労働力を供給するのは、周辺の農村地域である。製造業の成長が続くと、都市には農村地域から職を求めて多くの人口がなだれ込み、都市のスラムが形成される。スラムでは、犯罪、伝染病、不衛生な生活環境などが大きな社会問題となる。
しかし、経済成長がさらに続くと、都市のスラムの住民は企業の正社員や熟練工として吸収され、所得が安定し生活水準も上昇する。第2世代になると大学教育の修了者が増加し、企業の管理職としてキャリアを築くものが多くなる。
この結果、分厚い中間層と消費社会が形成され、安い労働力に依存した輸出主導の成長モデルから、中間層による内需に依存した持続可能な成長モデルへと転換する。
分厚い中間層は、政治的には市民社会の形成を意味する。したがって80年代の韓国や台湾のように、経済成長が軍事独裁政権の手で行われている地域では、市民社会の形成が基盤となり、民主化要求運動が起こってくる。民主化要求運動は、市民の広範な支持を得るため、軍事独裁政権は打倒され、選挙で選ばれた民主主義的な政権に移行する。
これが、経済成長がもたらす社会変化の一般的なパターンだ。いまは、インドやベトナムで起こっており、これからはミャンマーやカンボジアのような国々がこの過程に入ると見られている。
形成が阻止された市民社会と農民工
では中国も、市民社会の形成に向かうこのような過程にあるのだろうか?だとするなら、80年代の韓国や台湾のように、これから民主化要求運動が激しくなり、現在の共産党一党独裁は打倒され、バランスの取れた民主的な政権に移行すると見ることができる。
しかし、いまの中国はそのような過程にあるとは言えない。それというのも、中国には農民戸籍と非農民戸籍が2つの戸籍が存在しているからだ。都市に労働力として流入した人々は、都市では行政や社会保障、そして医療のサービスには制限を受けるため、定住しにくい仕組みになっている。最終的には、出身の農村に帰ることが期待されるいわば出稼ぎ労働者でしかない。こうした人々は農民工と呼ばれ、2億人ほどいるとされる。
共産党政権は、このような戸籍システムを維持することで、1)都市に膨大な農村人口が流入して社会が不安化することを回避し、2)分厚い都市中間層と市民社会の形成を抑制し、民主化要求運動の基盤ができにくい状態にすることで、共産党の一党独裁体制の温存を目標にした。
中国の反体制運動
このような政策の結果、中国では、経済の規模と人口に比して、都市の中間層とそれが形成する市民社会は比較的に規模が小さいものに止まっている。
このため、都市型リベラルの民主化要求運動は規模もかなり小さく、共産党一党独裁体制の転換を主導できるほど大きな勢力にはなり得ていない。
他方、はるかに大きな勢力は、中間層になることは排除された農民工を主体とした2億人の勢力だ。都市や農村でもっともストレスが溜まっている層だ。
では、農民工を主体とした運動はなにを求めているのだろうか?民主化要求運動のような選挙による議会制民主主義や人権、そして言論の自由なのだろうか?
そうではないことははっきりしている。農民工主体の運動は、「毛沢東の時代に回帰し、貧しくても格差のない社会の構築」が目標だ。
反日デモで現れた政治勢力
中国内部のこうした政治勢力の違いがはっきりと現れたのは、尖閣諸島の領有権問題を発端にして噴出した反日デモである。
反日デモは、政府が溜まったストレスをガス抜きするための格好の手段として使われており、大型バスでやってくる「官製デモ」も盛んだ。だが、「愛国無罪」の原則が一部適用されるため、「反日」のスローガンさえ掲げていれば、比較的に自由な抗議が許されている。
もちろん、「民主、人権、自由」のスローガンを掲げる都市リベラルの勢力も存在しているが、かなり小規模だ。大きな勢力は、中国国旗と毛沢東の遺影を掲げる農民工を主体とした勢力だ。今回は反日デモが一部暴徒化したが、暴徒化したのはこの勢力である。都市リベラルではない。
独裁容認の左派とハクキライ
農民工を主体とした勢力は「左派」と呼ばれている。「左派」の目標は、「毛沢東の時代に回帰し、貧しくても格差のない社会を構築」することなので、独裁容認だ。議会制民主主義の導入ではない。40年前の「文化大革命」のような革命を理想としているきらいがある。
最近、重慶市のトップだったハクキライが共産党から追放された事件が起きた。追放の理由は、ハクキライが「左派」のスローガンを掲げ、民衆の熱情を利用した犯罪撲滅と反格差運動を展開したことにある。
それはまさに文化大革命型の改革運動だった。一度解き放たれた民衆の熱情は、共産党中央に対する非難に転化するとも限らない。共産党中央はこれを脅威とみなし、ハクキライの追放を決めたのだ。
共産党政権の最大の脅威は左派
「格差なき平等な共産党中央社会の実現」と「毛沢東時代への回帰」を目標に、民衆の熱情に訴えながら改革を目指す左派の存在は、既得権益集団と化し、政治的、経済的権力を一手に独占している現在の共産党にとっては、最大の脅威である。
左派による運動は、民衆の熱情に訴える文化大革命型だ。この運動によって農民工の不満に火がついたときには、それは燎原の火のごとく拡大し、それこそ手がつけられなくなる恐れがある。
共産党の対応
もちろん、左派の脅威をもっともよく認識しているのは、現在の共産党政権である。そのため、左派の勢力をしっかりとコントロールするための以下の政策を実施しようとしている。
1)不動産バブルとインフレを引き起こし、格差の拡大につながる景気刺激策や大幅な金融緩和は実施しない。
2)農民工の出身地域である内陸部に集中的に開発投資を行い、生活水準の向上をはかる。
3)輸出主導型から内需依存型の成長モデルに急いで転換する。
4)人口が200万人程度の地方都市では直接選挙を実施し、市民が指導者を選挙で決める体制を整える。
このような政策を実施すると、地方レベルで農民工は吸収され、いわば地方の中間層となる。中間層の市民社会化で民主化要求運動が起こってくるだろうが、地方都市で自由選挙を実施することで、要求を先取りする。このようにして、現在の左派の基盤である農民工そのものを切り崩すという政策だ。
これはいわば、民衆の下からの政治運動を介すのではなく、共産党が上から改革を推し進める方向だ。これが成功すると、現在の共産党中央の権力基盤は脅かされず、共産党の一党独裁体制も温存することができるはずだ。
これから中国の議会である全国人民代表者大会が開かれ、習近平が主席に選出される。習近平の政権になると、これらの政策を強力に実施すると見られている。
ハードランディングのシナリオ
これはいわばソフトランディングのシナリオだ。世界経済にとってもっとも影響が少ない理想的なシナリオだ。
だが、これとは異なるハードランディングのシナリオも考えることができる。それは、上記の4つの政策がすべて失敗することだ。
内陸部の開発投資は、地方の共産党組織に巨大な利権を生む。地方組織は利権を独占し、農民工の生活水準の向上を阻むかもしれない。
また地方都市の直接選挙の実施は、地方の共産党の権力基盤を脅かす脅威である。地方組織が頑強に抵抗する可能性は否定できない。
このようにして、地方の経済を活性化し、農民工を中間層として吸収する政策が失敗した場合、左派の文化大革命に似た抗議運動が全国規模で拡大する恐れがある。そうなると、コントロールが効かなくなる臨界点を向かえる可能性もある。
そして、その過程で現在の共産党政権が打倒されるとどのようなことが起こるだろうか?
左派は、「毛沢東回帰による平等な社会」の実現を目指している。これを実現できる独裁的な指導者こそ、左派が求めるものだ。
すると、共産党内部で左派を支持するグループや人民解放軍の強硬派が中心となり、現在よりもずっと独裁的な軍事政権が成立する可能性も大きい。この政権によって、富裕層からの富の剥奪と、貧困層への富の移転が行われ、平等社会の実現が本当に目標とされる可能性も出てくる。
また、おそらくこうした軍事独裁政権は、国内の矛盾と国民の不満を、海外に領土を拡張することでそらすことに抵抗はないだろう。
もしこのような政権が中国にできると、非常に危険なことになる。これが、ハードランディングのシナリオだ。
11月の主席に指名される習近平は、来年の3月に政権交代する。そのタイミングで見ると、いまから2015年前後までが転換期となる可能性が大きいように思う。これからの3年間で、ソフトランディングのシナリオになるのだろうか?それとも、ハードランディングのシナリオだろうか?
注視しなければならないだろう。
(追記) 「ギャラリー酔いどれ」に引用されていた下記記事も中国と日本の今後について示唆的な好記事なので、追加引用しておく。「酔いどれ」の管理人氏は中国を「シナ」呼ばわりする右翼臭い人物で、この記事の結論には否定的だが、私はこの記事のスタンスは正しいと思う。「酔いどれ」氏の思想は感情論にしか見えないが、すべて感情論は、最初から結論ありきであり、議論になっていないものだ。
(引用2)
◆http://news.infoseek.co.jp/article/businessjournal_20121029_10001
Business Journal(2012年10月29日)
◎中国には、国内で1千万人の雇用を創出する日本企業が不可欠-
日本政府による尖閣諸島国有化に対する中国での反日デモを契機に、
日本企業の間では「中国とどう向き合うか?」という、中国リスクに対する対応策に大きな関心が高まっている。
改革開放路線から20年間、中国は豊富で安価な労働力による人口ボ-ナスの恩恵と、
日本や欧米先進国による積極的な外資導入をテコに、高度経済成長を続けてきた。
しかし、ここにきて中国は、このまま中進国にとどまるか、それとも先進国入りできるか、
重大な岐路に立っている。
中国では、経済成長の最大の原動力といわれる農村の余剰労働人口が、2013年から減少に転じ、
それ以降はこれまでの人口ボ-ナスの恩恵から人口減少が経済不振をもたらす人口オ-ナス
(高齢人口が急増する一方、生産年齢人口が減少し、経済成長の重荷となる状態)へと移行する。
その結果、労働力不足と労賃の上昇により、経済成長に大きなブレ-キがかかる
「ルイスの転換点=成長の壁」(英国の経済学者ア-サ-・ルイスが提唱)に直面する。
●深刻な「過剰」に苦しむ中国
すでに数年前から中国の人件費の急激な上昇と人民元高で、中国製品の国際競争力は急速に低下している。
とりわけ、中国の輸出製品は労賃の安さを武器にした低付加価値製品が多いこともあって、
国際競争力は長期低下傾向にある。そのうえ、2008年に起こったリ-マン・ショック後の
4兆元規模の景気対策による副作用もあり、鉄鋼や造船など、国営企業や地方企業ともに
深刻な設備過剰・人員過剰・在庫過剰の問題に苦しんでいる。
中国政府は、これまでの安価な余剰労働力と低付加価値製品に依存した産業構造を、
生産性向上を実現して高付加価値製品に支えられたハイテク産業に転換しようとしているが、
現実はなかなかうまくいっていない。それどころか、
不動産バブルなど数百兆円という膨大な不良債権を抱え、中国経済は崩壊するのではないかととの指摘さえある。
中国がルイスの転換点を乗り越えられるか否かは、
そのまま中進国にとどまるか、それとも先進国入りに飛躍できるかどうか、
歴史的な転換点に立っていることを意味する。
欧米先進国や、日本・韓国・シンガポ-ルなどアジアの先進国は、
ルイスの転換点を克服して先進国入りを果たした。先進国入りに必要な要件として、
その決定的なカギを握るのは、
(1)経済成長を長期にわたって支える政治的・社会的安定を確保し、
(2)安価な労働力でなく高い労働生産性により経済成長を実現していく「生産性革命」
の実現である。
(1)の政治的・社会的安定に関していえば、尖閣問題に端を発した反日デモはまったくマイナスに働き、
中国社会を深く蝕んでいる貧富の格差・不平等や役人・官僚の汚職問題と共に最大の中国リスクとなる。
●反日デモが阻害するものとは?
中国はこれまでの歴史において近代化運動に3度挑戦した。
第1回は清朝末期の洋務運動で、清朝政府の腐敗と列強侵略により挫折。
第2回は中華民国の近代化運動で、これも日中戦争や内戦などにより挫折。
そして第3回は共産中国での近代化運動で、文化大革命により挫折した。
中国にとって今度で4度目の近代化への挑戦となるが、
ここにきて勃発した偏狭なナショナリズム、反日デモは間違いなく近代化挑戦を阻害する重大な要因となる。
現在、中国社会が抱える深刻な貧富の格差・不平等、役人官僚の腐敗・汚職問題などを考えると、
反日デモは何かのきっかけで容易に反政府デモに転化しやすく、深刻な政治的・社会的な不安定をもたらす。
持続的な経済成長は政治的・社会的な安定なくしてあり得ない。
それに、国家間の国境・領海・領土問題は古今東西にわたって
軍事的な武力行使や偏狭なナショナリズムの扇動で円満に解決した事例は歴史上一つもない。
時間をかけて粘り強く知恵を絞り、政治力や外交力を駆使して話し合いで解決するしかない。
(2)の生産性革命についていえば、中国が近代化を成し遂げ、先進国入りするのに不可欠な
「生産性革命による経済成長・発展」を実現するには、
トヨタやパナソニックなどもの造りに精通した日本企業の技術協力なくして非常に難しいということだ。
中国は日本を抜いてGDP世界第2位になり、「もう日本に配慮する必要はない」という
おごった気持ちや自信があるのか、この厳しい現実をよく理解していない。
現在中国に進出している日系企業は、大企業から中小企業まで含めて2万数千社、
これら企業が雇用している現地従業員は400~500万人に上る。
そのうち製造業が6割以上を占め、従業員の家族を含めると、日系企業は1000万人以上の中国人の生活を支えている。
製造業はこれまでも、そしてこれからも中国人の雇用と経済成長を支える最大の産業である。
もし、日本のメーカーが撤退したり、
生産性革命を実現できず国際競争力を失って多くの中国企業が倒産したりすれば、大量の失業者が溢れる。
彼らは反政府活動や政治的・社会的不安定の最大の温床になる。
中国が政治的・社会的不安定に陥り、経済的にも生産性革命に失敗すれば、
中進国の罠に陥って4度目の近代化挑戦=先進国入りも不可能になろう。
●日本の技術協力なくして、中国の発展はない?
中国経済の最大の原動力である製造業において、低付加価値の産業構造のままにとどまるか、
生産性革命を実現して高付加価値の産業構造に転換できるか、いまその正念場にあるといってよい。
「製造業における生産性革命」を実現するのにきわめて重要な
技術・ノウハウ・経験・人材・事例(成功事例も失敗事例も)を豊富に持っている日本企業の技術協力なくして、
中国の先進国入りは難しいとさえいえる。この事実を中国は冷静に考えるべきであろう。
同時に、日本にとっても中国との関係は国内市場が縮み傾向にある中、
今後の成長・発展の大きな力になることは間違いない。
中国リスクがあるからといって、
日本企業が反日デモに反発して中国市場から安易に撤退するのは決して得策ではない。
軍事用語で核抑止力という言葉があるが、中国との経済取引・貿易関係にはかなりの「したたかさ」が必要である。
多少の政治的・外交的な緊張や軋轢があっても、日本との協力なくして中国の発展はないと彼らに思わせ、
中国の圧力や脅威を押さえ込めるだけの「経済的抑止力」を持つことが大事になる。
経済的抑止力とは、先進技術での圧倒的な優位性、核心技術のブラックボックス化、
知的所有権の行使、粘り強い技術交渉力、経験豊富な人材による技術指導・教育訓練、
日本ブランドの浸透力と宣伝活動などを組み合わせた総合力を確保し、
中国リスクに対して確実な抑止力を発揮できるようにすることである。
情緒的・感情的に対応したほうが、負けである。(文=野口恒/ジャーナリスト)
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