キャリントン・イベントの10倍以上の規模だったと推定されるフレア
おおむね 1年くらい前に、太陽活動が激しくなるというような想定が出てきまして、以下の記事を書かせていただいたことがあります。太陽については、後半にあります。
太陽、食糧、そして準備
In Deep 2022年2月24日
その後のこの 1年間、太陽活動は大きくなり続けていますが、しかし、予想をはるかに上回る規模になってきている部分もあります。
現在の太陽活動サイクルは「サイクル25」と呼ばれるもので、NASA などから正式に、サイクル25が始まったことが発表されたのは、2020年9月のことでした。
つまり、新しいサイクルが始まって、まだ 2年半くらいしか経っていないのですが、ひとつの太陽活動のサイクルは、おおむね 11年前後で推移しまして、一般的には、その中間の時期の前後 2、3年あたりが最も太陽活動が活発になります。
ですので、本来なら、2024年から 2025年頃から最も激しい太陽活動となっていくと予想されていたのですが、予想を上回り続けているのですよね。
今年 2023年は、まだ3月ですが、すでに昨年の「Xフレアの発生回数に達した」ことが報じられていました。
Xフレアというのは、最も強いカテゴリーの太陽フレアで、2022年全体を通してのXフレアの発生回数は、「7回」だったのですが、今年のXフレアの発生回数が、すでに 7回に達したとスペースウェザーは伝えています。
2021年、2022年、2023年のXフレアの発生回数
spaceweather.com
スペースウェザーは、以下のように記していました。
> このフレアの本当の意味は、「7」という数字かもしれない。これは、2022年全体での Xフレアの総数だ。そして、今日 3月29日の Xフレアにより、太陽は 2023年にすでにその総数と一致した。今はまだ 3月だ。
>
> これは、太陽周期サイクル 25の活動が急速に強まっていることを示す 1つの兆候だ。この傾向が続けば、2023年末までに 30回近くの Xフレアが発生する可能性がある。公式の予測では、2024年または 2025年に太陽活動の極大期が到来するとされている。今後、Xフレアが日常的になる可能性がある。 spaceweather.com
それでデスね、最近の太陽フレアでですね、
「ものすごいのが起きていた」
ことを知ったのです。
これは、今月の 3月13日に発生したフレアなのですが、「地球から見て、太陽の裏側で発生したものなのに、地球が磁気嵐に見舞われた」という不思議な現象が起きていたものです。
以下に、NOAA (アメリカ海洋大気庁)の太陽物理学者の記事を翻訳しています。
・太陽の「裏側」で爆発したフレアにより地球がCMEの影響を受けるという珍しい現象 (2023/03/17)
なぜ、こんなことが起きたのかというと、結局は、
「信じられないほど巨大で強力な太陽フレア」
だったために、こんなことが起きたということのようです。
太陽の裏側で発生する太陽フレアは、そのエネルギーの数値を、正確に計測することはできないのですが、予想では、
「 1859年に起きた人類文明史上最大の太陽嵐を起こしたフレアより、はるかに強力なものである」
という可能性が報じられています。
1859年のその事象は、「 1859年の太陽嵐」と呼ばれることもあれば、その記録上で最大の太陽フレアを観測したイギリスの天文学者リチャード・キャリントン氏の名前から、「キャリントン・イベント」とも言われています。
おおむね以下のようなものでした。
1859年の太陽嵐は、第10太陽活動周期 (サイクル10)の期間中の1859年に起こった強力な太陽嵐である。イギリスの天文学者リチャード・キャリントンにより、現在まで記録に残る中で最も大きな太陽フレアが観測された。
…1859年9月1日から2日にかけて記録上最大の磁気嵐が発生した。ハワイやカリブ海沿岸等世界中でオーロラが観測され、ロッキー山脈では明るさのために、鉱山夫が朝と勘違いして起きて朝食の支度を始めてしまうほどであった。
アメリカ北東部でたまたま夜間に目覚めた人たちはオーロラの明りで新聞を読むことができた。
ヨーロッパおよび北アメリカ全土の電報システムは停止した。電信用の鉄塔は火花を発し、電報用紙は自然発火した。
オーロラを朝日と間違って朝食の準備を始めたうっかりさんがいたようですが、「どれほど明るいオーロラだったのだろうなあ」とは思います。
しかしですね。
重大なことは、朝食の準備を始めたうっかりさんのことではないのです(そりゃそうだ)。
この 1859年というのは、今から 160年以上前であり、欧米には上にありますように電報システムなどがあったようですけれど、
「基本的に、世界には電気システムなどなかった」
時代です。
なので、被害の程度も大したものではなく、せいぜい世界の広範囲でオーロラが見えたということくらいの影響で済んだのです。
日本で初めて「電灯」が設置されたのが 1884年、火力発電による電力供給が始まったのが 1887年ですから、この 1859年には、日本には電気や電気製品というものは事実上存在しませんでした。ですので、生活上の問題は特になかったと思います (このフレアが日本の地域を直撃したかどうかは不明です)。
ですので、当時は、全世界のほとんどで、これだけ巨大な太陽フレアによる地磁気嵐が起きたとしても「何の影響もなかった」と言えるのです。
しかし、さきほどの 3月12日の「太陽の裏側での爆発」は、米保守系メディアのアメリカン・シンカーの記事には、以下のように書かれていました。
> 初期の推定では、この 3月13日の爆発は 1859 年の爆発よりも 10倍から 100倍強力であったことが示唆されている。americanthinker.com
「 10倍から…… 100倍?」
と、やや驚きを持った次第ですが、もちろん推定です。
思わず、ウィリアム・キプ……とケニアの大統領の名前を思い出そうとして思い出せなかったほどの驚きでした。
先ほどリンクさせていただきました記事「太陽、食糧、そして準備」では、1859年タイプの太陽嵐が起きた場合、どういうような影響が出るかについて書いていますが、おおむねですけれど、以下のようなものです。
超巨大な太陽嵐が地球を直撃した際に想定されること
・電力送電網の破壊による完全な停電(短期の復旧は見込めません)
・通信(電話、携帯、インターネット)のほぼ完全な崩壊
・放送網(テレビ、ラジオ)の崩壊
・コンピュータに依存するシステム(軍事、銀行、医療、すべてのインフラ)の停止
・移動手段(車、電車、航空機等)の停止
・それによる物流、食料供給の停止 (自動車、飛行機等は全部動きません)
強力な太陽嵐による電子機器の破壊の特徴は、それが携帯でもパソコンでも何でも「完全にジャンクになる」という点です。直らない壊れ方をします。車や航空機もです。
今の車は全体として完全な電気制御ですので、クラシックカー以外は瞬時に動かなくなります。
データをオンライン上だけで保管している場合は、データは全部消滅します 。ですので、重要なデータは USB 等に入れて、ファラデーケージに保管するべきです。こちらの記事の後半に書いています。
もちろん、太陽フレアによるコロナ質量放出の直撃は、地球全体に対してのものではなく、「どの地域を直撃するか」という運めいた部分も確かにあります。
アメリカ政府は、2015年に、「国家宇宙天気行動計画」という太陽フレアに対しての行動計画を策定しています。
国家宇宙天気行動計画
whitehouse.gov
このことを報じた科学メディアは以下のように伝えていました。抜粋です。
私たちを暗黒時代に引き戻す可能性のある巨大な太陽嵐にホワイトハウスは備えている
2015年 10月29日、ホワイトハウスの国家科学技術委員会は、極端な宇宙天気事象への準備のための戦略的計画を発表した。
太陽活動による極端な宇宙天気事象が発生した場合には、人工衛星、宇宙艇、および、地上の重要な通信システム等が破壊される可能性がある。これらの電気系統の多くはお互いに依存しているために災害時には連鎖した被害を受けやすい。
…特に強力な磁気の弾幕が地球に向かった場合、それは簡単に地球の磁場シールドを貫通し、電力システムを弱体化させ、私たちを暗黒時代に追いやる可能性がある。すべては数時間のうちに起きる。
…このような終末のシナリオが起きたことはないが、専門家たちは 2008 年に、超巨大な太陽フレアが発生した場合、最大で 2兆ドル (約 260兆円)の経済的損害を引き起こす可能性があると見積もっている。
これは、記録された歴史における単一の自然災害による被害額のほぼ 10倍に相当する。
sciencealert.com 2015/11/07
こういうような被害も想定されているということで、何ともいえないですが、アメリカに関しては、少なくとも軍事施設や巨大なインフラや通信システムなどには、ある程度の「対策」を取り入れているようには思いますが、それは正式に発表されているわけではなく、何ともいえません。
日本はおそらく、個々の企業はわからないにしても、政府単位では何もしていないと思われます。
そういう規模の太陽フレアやコロナ質量放出が起きるかどうかの予測はまったくできないことですが、しかし 3月12日に「太陽の裏側では現実として起きた」ということで、現実に起きていたという重みはあります。
ちなみに、NOAA (アメリカ海洋大気庁)などは、地球にその太陽嵐が直撃する 12時間から 15時間前までには、正確な警告と予測を出すと述べています。しかし、インターネットが吹っ飛んだ場合、その後は情報にはアクセスできなくなります。
アメリカン・シンカーの記事をご紹介させていただきます。この記事では、1859年の太陽嵐についての説明もされているのですが、先ほど書かせていただきましたので、その部分は割愛します。
回避された黙示録
Dodging the Apocalypse
American Thinker 2023/03/23
3月12日の日曜日に、これを読んでいるすべての人の命を奪いかねない壊滅的な出来事が起きた。
太陽の反対側で強力な太陽フレアが発生し、その影響は、太陽の裏側での爆発だったにも関わらず、地球に影響を与えた。
この太陽フレアは、NASA によると、コロナ質量放出または CME として知られる太陽物質の大規模な噴出を引き起こし、2023年3月12日の午後11時36分 (EDT) に太陽から地球に向かっていることがが検出された。
コロナ質量放出が、地球から見て、太陽の反対側から噴出して、地球に向かったのである。
これは、一歩間違えば、 1859年9月1日のキャリントン・イベントの再来となる危険性があった。
3月12日に太陽の裏側で起きたこの爆発は、1859年の爆発と似ていたが、さらに規模が大きかった。初期の推定値では、この 3月12日の爆発は 1859年の爆発よりも 10倍から 100倍強力であったことが示唆されている。
1859年との重大な違いは、爆発が太陽の反対側で起こったことだった。
これが私たちの地球の方向を向いていたとしたら、そして、もし地球がその爆発の直撃を受けていたとしたら、私たちはその結果をほとんど想像することができない。
1859年の電信システムと同じように、動作中のすべての電気システムが即座に破壊された可能性があった。アクティブな電子機器はすべて破壊され、おそらく電源を切った機器でさえも、役に立たないプラスチックの塊に変っただろう。
そして、電気および電子ネットワークは消滅していただろう。現在の社会では、これらが破壊されると、すべてのパワーとエネルギーが消滅する。
産業は即座に停止する。ほとんどすべての財務データを含む大量のデータは、単純に消える。
音声範囲を超える通信手段はすべて存在しなくなる。
いかなる種類の政府によっても、単純に救出されるのを待っていればいいという問題ではない。さらにはそれらの回復に用いられるツールそのものが、電気に依存しているため、単に消滅してしまう。
その結果は想像を絶する。
新しい暗黒時代が始まると表現するのが正しいだろう。
この 3月12日のイベントでも、いくつかの影響はあった。壮大なオーロラが、通常よりはるかに南に見られた。
無線通信は北極圏上空で数時間にわたり世界的にダウンした。
奇妙なことに、アメリカン・シンカーの編集部自体が影響を受けていた可能性がある。その日曜の夜、私はいつものように勤務中で、11:30 過ぎにこの太陽からの磁気の嵐が地球に衝突したときには、パソコンの電源を切っていた。
しかし、私のパソコンはすぐに動作が遅くなり、特定の機能が不安定になり始めた。ウェブサイトの記事のグラフィックを挿入しているうちに、それらが挿入されず、グラフィックシステム全体が役に立たないことがすぐにわかった。
翌日になり、サーバーがダウンしており、スケジュールされた資料がロードされていないことを知った。 アメリカン・シンカーの優れた技術チームも、これを解決するのに数時間かかった。
この太陽での現象をメディアは見事に無視した。彼らの中に、 CME の重大性を理解できない人たちがいることは間違いない。
実際には、非常に知識のある人々や一流の科学者たちは、過去 50年以上にわたってキャリントンイベントの再発を予測していた。
もちろん、彼らもそれが「いつ」来るかを予想することはできなかったが、(1859年から) 1世紀、または 1世紀半までには、キャリントンイベントと同様の太陽での爆発があると予測していた。
そして彼らは正しかった。それは来た。
しかし、3月12日の爆発は、太陽の自転という力学的に非常に単純な側面のために、地球からの裏側で発生したため、そのエネルギーはすべて宇宙空間に吹き飛ばされ、地球が新たな暗黒時代に入ることは避けられた。
私の理解では、このイベントは過ぎ去ったばかりで、時計がリセットされるのではないかと考えている。もう 1世紀かそこらの間、心配する必要はないのではないだろうかと。
しかしその一方で、太陽のダイナミクスは、実際には科学ではほとんどわかっていないため、天体物理学者たちは CME の正確な原因が何であるかについて非常に不明であり、その原因を特定することはできない。
現在の太陽周期がピークアウトするまであと 2年あることはわかっているが、これまでのところ、3月12日の太陽フレアは記録上最も激しいものの 1つだ。
ここまでです。
この方の書いている、
> 時計がリセット…
と
> もう 1世紀かそこらの間、心配する必要はないのではないだろうかと。
については、そういう根拠はないです。
何しろ、太陽活動が活溌化していくのはこれからです。何度でもある程度の規模の太陽フレアの発生が続くと考えるほうが自然です。
スペースウェザーが述べていたように、2025年くらいまでの間にさらにXフレアの回数は増えていくと思われ、そのような可能性は、2027年くらいまで続きます。
果たして、今後の数年間、この記事タイトルにありますように「黙示録を回避し続ける」ことができるのかどうかは予測しようがありません。
これからの数年間は、太陽に関しては緊迫した時期となるかもしれません。
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