「総力を挙げて伊藤忠グループを使い倒す。(伊藤忠商事から)役員や人がバサバサ来ることはないと信じている。さらなるファミマのリストラはまったく考えていない」。ファミリーマートの澤田貴司社長は7月8日、決算説明会の場でそう語った。
大手商社の伊藤忠商事は同日、子会社である国内コンビニ2位のファミマに対して、株式の公開買い付け(TOB)を行うと発表した。
TOB期間は8月24日まで。伊藤忠は約5800億円をつぎ込み、ファミマへの出資比率を50.1%から100%に引き上げる。その後、全国農業協同組合連合会と農林中央金庫にファミマ株を計4.9%譲渡するほか、伊藤忠の持分法適用会社・東京センチュリーもファミマ株を0.4%持つ。最終的に伊藤忠によるファミマへの出資比率は94.7%となる予定だ。
成長に必要だった「非公開化」
TOBに当たって伊藤忠は、伊藤忠グループとの連携による物流の合理化や店舗の省力化、金融やデジタル分野など新たな領域の開拓、海外市場での成長で、ファミマの収益力向上を目指すとした。
そのためにはファミマの非公開化が必要だったとする。上場していると少数株主の利益を考慮する必要性から、商品の流通状況など重要な情報を大株主である伊藤忠だけに提供することはできなかった。経営判断の迅速化も期待する。
確かに伊藤忠にとって、1日に1500万人が来店するファミマ店舗の存在は大きい。ファミマの顧客データを伊藤忠グループ内で利用して販促や金融サービスにつなげたり、店舗内に広告掲載スペースを作ったりといった、より一体となった取り組みを見据える。
ただ、この説明は2018年8月のファミマ子会社化時に挙げられた施策と内容が近い。当時はAI(人工知能)などの活用による次世代店舗の構築、金融事業や顧客基盤を生かしたデジタル戦略の強化、海外事業の強化を進めるとしていた。
2年前、伊藤忠は1200億円を投じて、ファミマを子会社化した。だが振り返ると、その成果には疑問符が付く。
ファミマは2016年9月、傘下にサークルKサンクスを持つユニーグループ・ホールディングスと経営統合した。統合直前は、両ブランドを合計すると国内店舗数は1万8240店を数え、業界首位のセブンに肉薄していた。しかし統合後、低収益店の大量閉鎖へと舵を切り、2020年6月末時点で1万6618店まで身を縮めた。2万0880店(沖縄除く)のセブン-イレブンとは差が開いた。
1日当たり1店売上高である日販も伸びていない。2018年2月期に52万円だったファミマの日販は、2020年2月期に52.8万円となったが、セブンとの10万円以上の開きは一向に埋まらない。日販の頭打ちはコンビニ各社に共通する課題とはいえ、子会社化後に目立ったヒット商品は出ていない。
進んでいない「攻めの施策」
ファミマは近年、売り上げを追うのでなく利益を重視。その結果、広告宣伝費など販管費の削減は進んだ。サークルKサンクスとの統合で肥大した組織をスリム化させるため、3月に全社員の約15%に当たる1025人の希望退職を行った。
だが、それらは守りの施策。伊藤忠による子会社化時に語られた、攻めの施策はあまり進んでいなかった。今回のTOB以前に伊藤忠は3000億円強をファミマへの出資につぎ込んだが、すべては回収しきれていない。5800億円という新たな投資を行うからには、伊藤忠自身の株主に対して、投資の明確な成果を示していく必要があるだろう。
TOBに関する資料には、今後5期の業績予測が記されている。2020年2月期の営業収益は5170億円、事業利益は645億円だったが、2025年2月期には営業収益は5619億円(2020年2月期比で8.6%増)、事業利益は779億円(同20.7%増)を見込む。計画達成のカギを握るのは、成長事業の確立となるだろう。
海外事業はその1つに据えられるが、中国では合弁先との関係がこじれ訴訟を起こしており暗雲が漂う。金融やデジタルを活用した新規事業も、ビジョンは長らく語られてきたものの、いまだ日の目をみていない。
ある競合幹部は「新しさがなく他社のいいところをまねてくる『マネリーマート』が変われるのか」と懐疑的な見方を示す。「伊藤忠の人間が的外れなことを言ってきて現場が混乱するのでは、と心配している」と話すファミマの加盟店オーナーもいる。こうした不安を払拭するためにも、TOB後の伊藤忠の一手が重要となる。
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