豊田真由子議員のあの絶叫暴言は,今年の裏・流行語になることは間違いないにしても,笑ってばかりもいられない深刻な事態がそこには潜んでいるように私には思えるのだが,そのことを指摘する論評が見当たらないので,あえてここに書いてみることにした。単に豊田議員個人の資質や人格の問題として片づけることができない,戦前から続く根深い問題がそこにはあると思うのである。
私は,密室車内での暴言・暴行の様子を録音したテープを聞いて,これは野間宏が描いた軍隊内務班の世界だなと即座に直感した。兵営内の兵士たちが起居する場である内務班には,ああいった理不尽な命令やいじめ,暴力,私刑(リンチ)がはびこっていた。すなわち,そこは人間が息することもできない「真空地帯」。そこでは,すべての人間が人間性を剥ぎ取られた兵士となる。
たしかに兵営には空気がないのだ。それは強力な力によってとりさられている。いやそれは真空管というよりも,むしろ真空菅をこさえあげるところだ。真空地帯だ。ひとはそのなかで,ある一定の自然と社会とをうばいとられて,ついには兵隊になる。
(野間宏『真空地帯』より)
(野間宏『真空地帯』より)
徹底した階級の上下関係だけが日常を支配している軍隊内務班に,人間的自然の発揚する余地はない。暴力が日常茶飯事に繰り返される。野間宏が描いたのは実際の戦場ではなく,その戦場に駆り出される前の兵営での軍隊生活であるが,実はそこで散見される腐敗や不条理,非人間性というのは,兵営内ばかりでなく,その外の一般社会にも通じる問題でもあったわけである。その意味で『真空地帯』は,日本社会全体の暗部を暴き出した小説と言える。そして,それが,今の今まで続いているということである。
敗戦後に軍隊は解散されても,その旧日本軍的な体質(いじめ・体罰・しごき・リンチ・暴行・パワハラ・腐敗etc)は社会の至る所に依然としてはびこっているのである。自衛隊や警察・機動隊は言わずもがな,企業・学校・医療・スポーツ界・芸能界等々,社会のさまざまな場面で「真空地帯」が作られている。それぞれの閉鎖空間の中で,暴力をテコにして上下・服従関係が形成・維持され,個人が自由に考え振る舞う空気が奪われていく。個人の人格・人権なんてどうでもいい。上の命令がすべて,という全体主義的世界。
そういう旧軍的な体質は国政レベルでも変わらないということが,今回明らかになったわけである。ある自民党幹部がいみじくも「あんな男の代議士なら,いっぱいいる」と言ったが,それが実態なのだろう。
豊田真由子が女性だからといって,軍隊的な体質は何ら変わらない。むしろ,そこでの「抑圧の移譲」は先鋭的になっている。「抑圧の移譲」とは丸山真男が唱えた軍隊の論理だが,要は,上の者に抑圧された下の者がさらに下の者を抑圧していくこと。弱い者がさらに弱い者を叩く構図。そうすることで心理的・組織的なバランスが辛うじて保たれる。その構図が典型的に現れていたのが旧陸軍の内務班であった。
★「豊田真由子さんと私の関わり」
豊田真由子の親友らしき人物が書いた上の弁護論を読んでも,私にはエリートさんの抱えるストレスや心の闇がよく理解できないのだが,唯一言えるのは,軍隊的な「抑圧の移譲」によって彼女も心理的なバランスを保っていたのだろうということである。すなわち,男性優位の社会で抑圧された生活を強いられてきた彼女は,同じ抑圧を年下の女性や立場の低い弱者に押しつける。そうすることで,自らが受けた抑圧の屈辱や鬱憤を晴らそうとする。そうしなければ心理的なバランスが保てず,アイデンティティが侵されると感じていたのだろう。実はこの論理は,日本会議や神道政治連盟に属する女性議員に共通するメンタリティにほかならない。
小池百合子,稲田朋美,高市早苗,山谷えり子,片山さつき,佐藤ゆかり,そして豊田真由子!生活保護バッシングにしても電波停止にしても「自衛隊としてお願いしたい」という脅しにしても「このハゲーーーっ!」という暴言にしても,要するに弱い者いじめとしての「抑圧移譲」症候群だ。これこそが彼女たちの正体である。旧軍隊の体質を最もよく表しているのが,今では日本会議系女性議員と言っていい。こういう弱い者いじめ,「抑圧移譲」をこのまま許しておいていいのだろうか。こういった形で国づくりを進める人たちには即刻,政治の舞台から退場してほしいと私は切に願うのだが,読者諸賢はどう思われるだろうか。
さて,小説『真空地帯』の登場人物で,リンチを受けた初年兵は次のような苦しみをノートに書き留めないではいられなかった。この苦しみは今も変わらない。今,日本の至る所が「真空地帯」だ。弱者は常に「蝉」である...。
苦しいか,おい,苦しいか。苦しいといえ。
心などもうなくなってしまった。自分をどうすることもできない。犬のようにたたきまわされても,なんともないし,ひとりでに手があがるだけ。
自分がこんなになるとは思えなかった。胃袋が口のところまででてきている。
靴は重いし服はだぶだぶ。ざらざらざら。おかあさん……また,今日も蝉,せみです。
真空地帯(新潮文庫)/野間 宏
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心などもうなくなってしまった。自分をどうすることもできない。犬のようにたたきまわされても,なんともないし,ひとりでに手があがるだけ。
自分がこんなになるとは思えなかった。胃袋が口のところまででてきている。
靴は重いし服はだぶだぶ。ざらざらざら。おかあさん……また,今日も蝉,せみです。
*「蝉」とは軍隊内での制裁の一つで,柱にのぼって蝉の鳴き声を真似ること。
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【第3弾】〈物事にはねえ!裏と表があんの!!〉さらなる壮絶な絶叫暴力
豊田議員:私が違うって言ったら違うんだよ!バーカ!
秘書男性:はい。。。
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