水道料金の”地域間格差”、2040年の年間差額は約20万円に拡大
水と安全はタダ、と世界にうらやましがられていた住みやすい国・日本は、もう遠い昔の幻になってしまったのか。
ボトル入りのミネラルウォーターで水を飲む習慣があっという間に普及し、水道水を直接飲む習慣を追いやった。そして今度は、安いと思われていた水道料金が、ものすごい勢いで高騰しているという実態が浮かび上がってきた。
洗面やトイレ(温水洗浄便座の急激な普及!)やお風呂に洗濯など、水なしに私たちの暮らしは成り立たない。
にもかかわらず、バターや小麦粉の値上げニュースのように騒がれることもなく、静かに、着々と、全国各地の自治体が値上げに踏み切る。
しかも、自治体によってまったく水道料金が異なるという“地域格差”が、じわりじわり広がっているという。
水道料金の決まり方が、そのような格差を生んでいると、水ジャーナリストの橋本淳司さんが解説する。
「水の供給にかかった総コストを給水人口で割って算出するのが水道料金です。人口が多い都市は、ある程度コストがかかっても安くすみます。東京の浄水場にかかるお金はいちばん高いのですが、人口が多いために水道料金は平均以下に抑えられています」
現行料金を見てみると(表参照)、20立方メートルあたりの月額が最も安い山梨・富士河口湖町は835円。あべこべに最も高いのは北海道夕張市で6841円。年間換算での差額は7万2072円。国民年金の給付額のほぼひと月分に匹敵する。
さらに『新日本有限責任監査法人』と『水の安全保障戦略機構事務局』が共同で打ち出した、2040年のひと月あたりの予測値を見ると、最安の兵庫・赤穂市は1031円、最高の青森・深浦町は1万7688円。年間差額はなんと約20万円!
なぜこれほどまでに差が開いてしまうのか。深浦町が、苦しい実情を明かす。
「10数か所に水道施設が点在し、維持管理費が高くつく。地形の起伏が激しく、ポンプで水を送るため、電気料金の値上げでさらに厳しくなります。老朽化部分の修理や人口減少もあり、これ以上、料金は下げられない状態です」
管理費などの抑制、新たにかかる建設費の削減、事業統合などで何とかしのごうとしているが、25年後の“日本一水道料金が高い町”というありがたくない予想については、
「お答えしにくいですね。まだ先のことですし……」
と話すのが精いっぱい。
一方、“将来は日本一、水道料金が安い”という称号を得た赤穂市は、恵まれた地の利によって水道料金を抑えることができていると感謝する。
「水源である千種川の水量が豊富で水質が良好。薬剤もいらず、機械のメンテナンスも低価格ですむ。町の中心を流れているので、市街地までの水道管も短くすむんです」
水道料金が高い北海道などとは、環境そのものがまったく違うのだ。それでも日本はこれまで、どこで暮らしていても水道水の恩恵に預かれていたが……。
日本水道協会は、
「人口減少や維持費の増加を受けてもなお、蛇口をひねればどこでも水が出るようにするためには、料金の上昇はある程度、覚悟しなければ」
と利用者へ痛みの共有を求める。
前出の橋本さんは、
「料金が高くなっている水道事業体は、経営がうまくいっていないということですから、今後、経営破綻するところも出てくるでしょう」
と見通し、最悪の終着点を、
「水道料金が高い町で人口流出がさらに進んだら、最終的には水道が断絶してしまうこともあるかもしれません。生活用水は、自分で給水タンクを持って10数キロも先の給水所にくみに行かなければならなくなる可能性もあるのです」
と、寒々しく描いた。
「水道管1キロメートルに東京都のように1万人くらいぶら下がるか100人ぶら下がるかでは、1人あたりの負担額が大幅に違ってくる」(日本水道協会)というが、人口の多い政令指定都市であっても、仙台の水道料金は札幌市に次いで高い。
要因は企業債の利息と人口密度の低さという。
「1923年から’99年までに5回、水道事業の拡張を行い、企業債を発行しました。その利息が高くついています。泉市と合併した経緯があり、地域が広いわりに人口密度が低い。よって水道管の距離が長くなり、整備が大変な状態にあります」(仙台市)
それでも’98年から値上げはしていない。
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