自衛隊が抱える根本的な問題
岸田政権は「安保関連3文書」の改定案を閣議決定した。安保関連3文書は、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つで、日本の安全保障の方針を定めたものだ。 【写真】岸田総理「防衛費増額」発言のウラで…日本のメディアが報じないヤバい現実 さらにロシアによるウクライナ侵攻が契機となり、今回の改定では、防衛費の増額問題も大きな注目を集めている。3文書には、防衛費を5年以内にGDP比で2%以上に引き上げることが盛り込まれた。 防衛費増額の財源をどう確保するかが大きな争点になっており、国を守るための「兵器」、そして「カネ」についての議論は活発化している。だが、自衛隊にはもっと根本的な問題があることに気づいている人は少ない。 「人」が足りないのだ。 '21年度における国家公務員の数は約59万人だ。そのうち5割弱の約27万人を占めているのは防衛省の職員である。このうちトップの防衛大臣を含む事務官等が約2万人いて、残りの約25万人が自衛官となっている。 あまり知られていないが、創設以来、自衛隊は定員を充足できたことが一度もない。自衛官の階級は16に分かれており、大別すると「将」「佐」「尉」「曹」「士」の5つに分類される。「令和4年版防衛白書」によると、このうち、幹部(「将」「佐」と3尉以上の「尉」)の定員(約4.6万人)、准尉(「尉」で一番下の階級)の定員(約0.5万人)、「曹」の定員(約14万人)は、概ね93~98%の充足率となっていた。 会社組織でたとえると彼らは部長や課長、係長にあたり、これらのポストは欠員が出ても昇進によって埋まっていく仕組みになっている。
いずれ崩壊を迎える
一方、問題は会社の平社員にあたる「士」だ。定員は約5.4万人となっているが、充足率は約80%しかない。 人不足がより深刻なのは、災害救助や有事の際に動員される「予備自衛官」だ。定員は約4.8万人だが、充足率は約70%となっている。また、予備自衛官より高い練度を要する「即応予備自衛官」は定員約0.8万人で、充足率は約52%しかない。 なぜ自衛隊で人不足が起きているのか。そのひとつの原因が、「若年定年制」にある。自衛官でいつづけるためには体力や筋力を維持する必要があるため、階級にもよるが定年は早い人で54歳と設定されている。また2~3年の任期付きで自衛官になり、除隊後は運輸や介護、建築やIT企業などで働く人も少なくない。 中高年の自衛官は次々と定年を迎え、若い任期付き自衛官は自衛隊の外で生きる道を選ぶ。そのため、ここ数年は毎年1.4万~1.5万人の自衛官等を採用しているものの、自衛隊は定員を満たすことができていないのだ。 そこに追い打ちをかけるのが、少子化だ。'22年の出生数が80万人割れとなるのは確実だが、いまの出生数の減少トレンドが継続すると、2040年には出生数が60万人割れとなる可能性も高いだろう。2040年に生まれた子どもが成人した時に、60万人のうち1.5万人、すなわち60人に1.5人が自衛官等になるとは思えない。 加速する人不足によって現行の自衛隊の体制は、いずれ崩壊を迎えるだろう。組織の在り方そのものの見直しが求められる。 「週刊現代」2022年12月24日号より
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