もしかして新型コロナウイルス感染症かなと思ったら 病院を受診するメリットとデメリット


新型コロナウイルス感染症の典型的な経過(筆者作成)



新型コロナウイルス感染症に関して、厚生労働省が2月17日に発熱などの症状が出た場合の相談・受診の目安を公表しました。


37・5度超が4日以上・強いだるさや息苦しさ…厚労省が受診の目安


「37.5度超が4日以上・強いだるさや息苦しさ」という根拠ですが、これは新型コロナウイルス感染症の臨床経過に基づいています。

新型コロナウイルス感染症の典型的な経過

私も現時点で十数例の患者さんを診てきましたが、軽症から重症を含めてだんだんと臨床像が掴めてきました。


新型コロナウイルス感染症の経過(筆者作成)
新型コロナウイルス感染症の経過(筆者作成)

新型コロナウイルス感染症では風邪のような症状から始まります。


風邪のような症状とは、微熱を含む発熱、鼻水、鼻詰まり、ノドの痛み、咳などです。


中国の4万人のデータの報告によれば、患者の8割は重症化に至らず治癒するようです。


数日〜1週間以降に2割弱の患者では、肺炎の症状が増強し入院に至ることがあります。


そして、これまでに報じられているように2-3%の事例で致命的になりうるとされています。


特徴的なのは、症状の続く期間の長さです。


新型コロナウイルス感染症は風邪やインフルエンザによく似ていますが、症状が続く期間がそれらと比べて長いという特徴があるようです。


特に重症化する事例では、発症から1週間前後で肺炎の症状(咳・痰・呼吸困難など)が強くなってくることが分かってきました。


中国のデータでは、発症から病院を受診するまでに平均5日、そして入院までに平均10日かかることが分かっています。


つまり、発症してから1週間程度は風邪のような軽微な症状が続き、約2割弱と考えられる重症化する人はそこから徐々に悪化して入院に至るというわけです。


インフルエンザは比較的急に発症し、高熱と咳、ノドの痛み、鼻水、頭痛、関節痛などが出現します。


風邪はインフルエンザに比べるとゆっくりと発症し、微熱、鼻水、ノドの痛み、咳などが数日続きます。


しかし、新型コロナウイルス感染症のように1週間以上続くことは比較的稀です(ただし咳や痰の症状だけが2週間程度残ることはよくあります)。


ここが風邪やインフルエンザと新型コロナウイルス感染症とを見分ける一つの手がかりになるかもしれません。


こうした事実を踏まえて、厚生労働省は「4日以上」という目安を示したものと考えられます。


風邪やインフルエンザは4日以上症状が続くことは少ないこと、そして新型コロナウイルス感染症であったとしても8割以上の症例は自然によくなるためです。


風邪やインフルエンザのような症状があるからと言ってすぐに医療機関を受診する必要はないというわけです。


実際に、風邪の人が全員医療機関を受診すれば医療機関はパンクしてしまうでしょう。

病院を受診するデメリット

受診する側にも医療機関を受診するデメリットはあります。


それは「風邪で受診したのに結果的に新型コロナウイルス感染症にかかってしまう」ことです。


現在、新型コロナウイルス感染症が疑われた場合、各自治体の相談窓口に電話相談した後に医療機関の「帰国者・接触者外来」を受診することになります。


今の国内の状況では、受診者の大半は「新型コロナウイルス感染症ではない(風邪などの)患者」ですが、稀に新型コロナウイルス感染症の方が外来を受診している可能性があります。


患者さんがたくさん医療機関に押しかけることによって、風邪の患者さんと新型コロナウイルス感染症の患者さんとが、同時に医療機関の中に集まることになります。


多くの医療機関では、受診者同士が近距離で接しないように一定の間隔で待合で待機できるように配慮していますが、受診者があまりに多すぎると狭い空間に受診者が長時間待機することになるかもしれません。


韓国では同じコロナウイルスであるMERS(中東呼吸器症候群)が流行した際に、救急外来の待合で感染が広がったという事実も知られています。受診する病院を転々とするドクターショッピングも韓国でのMERSのアウトブレイクの一因と考えられています。


新型コロナウイルス感染症である可能性が高くない時点で病院を受診することは、場合によってはかえって新型コロナウイルス感染症に罹る可能性を高めることがありますので注意しましょう。

高齢者や基礎疾患のある患者は早めの受診を

年齢別にみた新型コロナウイルス感染症の致死率(中国CDCのデータより筆者作成)
年齢別にみた新型コロナウイルス感染症の致死率(中国CDCのデータより筆者作成)

当初から言われているように、新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは高齢者と持病のある方です。


今回のクルーズ船の乗客の多くは富裕層であり、高齢者や持病を持つ方が多く含まれます。クルーズ船での感染者からは今後も重症者が増えることが予想されます。


つい先日、中国CDCより発表された44672人の新型コロナウイルス感染症患者のデータによると、年齢が上がれば上がるほど致死率が高くなることが改めて数字として示されています。


30代くらいまでは亡くなる人はほとんどいませんが、40代以降から徐々に致死率が高くなり、80歳以上では14.8%という非常に高い致死率となっています。


高齢者では風邪やインフルエンザのような症状が続けば早めに病院を受診する方がメリットがあるでしょう。


基礎疾患と新型コロナウイルス感染症の致死率(中国CDCのデータより筆者作成)
基礎疾患と新型コロナウイルス感染症の致死率(中国CDCのデータより筆者作成)

持病の有る無しによっても重症度が変わってくることも分かってきています。


心血管疾患、慢性呼吸器疾患、がんなどの持病をお持ちの方も、早めに受診することが望ましいでしょう。


ただし、現在は地域によって流行状況が異なります。


東京都内ではすでにどこで感染したのか分からない患者も発生していますが、地域によってはまだ1人も感染者が出ていない地域もあります。


まだ感染者が出ていない地域にお住まいの方については、感染者と接触した、あるいは流行地域に渡航したなどの特定のリスクがない限りは感染を心配する必要はないでしょう。


風邪やインフルエンザのような症状が出現した場合も、個々人が自身の感染リスクと重症化する可能性を考慮した上で、病院を受診するかどうか判断するようにしましょう。


また、病院を受診しない場合も、手洗いや咳エチケットなどの予防対策は必要ですし、周囲の人(特に高齢者や持病のある人)にはうつさないような配慮が必要です。


高齢者や持病のある方は不要不急な外出は控え、なるべく人混みは避けるようにしましょう。


国難とも言える大変な時期ですが、みんながそれぞれできることをしっかりとやっていきましょう。