特集 TPP問題


※10月17日テキストを追加しました!


 「米国にとってTPPは、世論もあって、面倒くさいからずっと漂流していた方がいい」——。


 PARC(アジア太平洋資料センター)の内田聖子氏は、米国の本音をこう分析した。では、ここまでTPPを推進する米国にとって、その「うまみ」は何なのか。


 内田氏は「TPPよりも、保険、表示義務、サービス、貿易などの非関税障壁の撤廃がメインである日米並行協議が問題だ」と警告、TPPが生きている限り、日米並行協議が実効性を持つこと、2013年4月からはその内容を書簡のみで決めていることに触れて、「この協議内容は外務省管轄で、TPPよりもさらに中身が見えにくい」と警鐘を鳴らし、国会議員に調査してもらいたいと希望した。


 この警告に、会場は静まり返った——。


内田聖子氏

▲PARC(アジア太平洋資料センター)事務局長の内田聖子氏


 2015年10月8日、衆議院第二議員会館で、「TPP阻止国民会議」と「TPPを慎重に考える会」による、「TPPアトランタ閣僚会合出張報告」が行われた。


 9月30日から開かれていたTPP閣僚会合に合わせてアトランタ入りし、直接、反対行動を行った民主党の佐々木隆博衆議院議員、福島伸享衆議院議員、篠原孝衆議院議員、玉木雄一郎衆議院議員、藤田幸久参議院議員のほか、「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」の原中勝征氏、山田正彦元農水大臣、弁護団の三雲たかまさ氏、「TPP阻止国民会議」事務局長の首藤信彦氏、そして内田聖子氏らが報告を行った。


 首藤信彦氏は、「日本のメディアは『大筋合意』と声高に言うが、閣僚記者会見のどこに、その発言があったのか」と問いかけ、「あったのは『大筋合意を作ろうとした合意』なのだ。日本の記者団がマイケル・フロマン米国通商代表に『Principal Agreement(原則的合意)があった、ということでいいのかと確認すると、フロマン通商代表は答えなかった』と強調した。


 篠原孝議員は、「米国にとって、ペルーもマレーシアも眼中にない。日本だけがターゲット。日米FTAでは目立つので、12ヵ国を目くらましにして誘い出したのが真相だ」と述べ、TPPに惑わされず、政府与党のチェックを怠らないようにと警鐘を鳴らした。
 TPPの最大の目的は、米国と多国籍資本による、日本の富の収奪である。

  • 記事目次
  • 与党議員が1人もTPPに反対しない異常さ
  • 日本の富と地域社会の安定を公然と奪うのがTPP
  • TPP批准の採択に際しては、自民党は党議拘束を外せ
  • 安倍政権の「成長戦略」は、国民の命を守る農業、医療、労働の規制を取り払うこと〜まる裸にされた国民はグローバルな競争の暴風にさらされることに!
  • 守るべきものは守らず、攻めるべきものは攻められず!
  • 他国から「日本は自動車しかメリットはないのに、あんなに譲ってもいいのか?」と言われた日本政府
  • 日本にとってTPPは「大金を払ってタヌキの葉っぱを買うこと」〜マスコミがこぞって流す大嘘「大筋合意」など一言もなかった
  • これで終らず再交渉に? 「為替操作条項」で日本はやり玉に上がる!
  • テキストの存在しない『合意したした詐欺』〜「どの国も自国の都合のいいことを喧伝。それらを検証すれば真相をあぶり出せる」
  • 脅せば言いなりの日本は、最初にTPPの批准を強いられる〜ペリー以来、現代も続く「砲艦外交」
  • 12ヵ国は目くらまし。米国のターゲットは日米FTA!
  • TPPの完全合意は一筋縄ではいかない
  • 遺伝子組換え食品の表示義務も国民皆保険も維持したが…
  • ISD条項の理不尽──裁判官でもない弁護士が仲裁役、上訴審なしの一発勝負

与党議員が1人もTPPに反対しない異常さ

 「マスメディアは事前から準備していたかのように、『TPP合意・大歓迎』記事のオンパレードだが、実態はどうなのか。現地での見聞を伝えてもらう」と首藤信彦氏が口火を切り、まず、「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」代表の原中勝征氏がマイクを握った。

原中勝征氏

▲「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」代表の原中勝征氏


 TPP、安保法制、労働者派遣法改定などから、日本の行く末を懸念した原中氏は、「債務1000兆円を超え、税金の半分を返済に回している日本は立ち直れるのだろうか。日本人はがんばって、科学や工業を発展させ、社会保障も維持し、安心・安全な世の中を築いてきた。それを壊しているのが、今の政府だ」と憤った。


 日本と同様、第二次世界大戦に負けたドイツは、2014年から健全財政になり、国債発行も止めている。「それに対して、日本の政治家の無責任さ。当選するためだけに有権者に耳ざわりの良いことを言って、税金を使う。この繰り返しが現在の状況を招いた。私たちは、子どもたちの未来のために、なんとか日本を立ち直らせる」と語ると、原中氏はさらにこう続けた。


 「TPPは、日本の主権、生活すべてに悪影響のある条約だが、安保法案と同様に、マスコミが危険性を報道しない。アメリカの次期大統領候補2名(ヒラリー・クリントン氏とバーニー・サンダース氏)は、TPPに反対を表明している。日本の国会でも、この条約の危険性をもっと国民に知らしめなければならないが、与党にあれだけ多くの議員がいて、1人もTPPに反対しないというのは異常だ」

日本の富と地域社会の安定を公然と奪うのがTPP

 次に、「TPPを慎重に考える会」会長の篠原孝議員が、TPPは安保法制と同根と指摘し、「安保法制は米国と同盟関係を強化し、それで日本の安全は確保できる、というもの。しかしTPPは、日本の富と地域社会の安定を公然と奪うものだ」と語った。


(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

篠原孝議員

▲「TPPを慎重に考える会」会長の篠原孝議員


  • この後は、
  • TPP批准の採択に際しては、自民党は党議拘束を外せ
  • 安倍政権の「成長戦略」は、国民の命を守る農業、医療、労働の規制を取り払うこと〜まる裸にされた国民はグローバルな競争の暴風にさらされることに!
  • 守るべきものは守らず、攻めるべきものは攻められず!
  • 他国から「日本は自動車しかメリットはないのに、あんなに譲ってもいいのか?」と言われた日本政府
  • …と続きます!
(引用2)


◆http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/166322
日刊ゲンダイ  2015年10月19日
TPP交渉に首藤信彦氏日本はイカサマ麻雀にハメられた


米、カナダ、メキシコはグル

4日間も延長し、「大筋合意」したとされるTPP交渉。

安倍首相は「国家百年の計」「国益にかなう最善の結果を得た」と悦に入り、
大マスコミは〈巨大経済圏の誕生〉〈参加12カ国の経済活性化〉と
手放しでホメちぎっているが、真に受けたらダメだ。

衆院議員時代からTPPの危険性を指摘し、
米アトランタで開かれた閣僚会合をウオッチした反対派の急先鋒、
TPP阻止国民会議事務局長の首藤信彦氏は、

安倍政権はTPPの罠に見事に引っかかり、タヌキの葉っぱを買わされたと断じる。


――甘利TPP担当相が行司役として「大筋合意」をまとめたと伝えられています。

甘利大臣は行司すらやってませんし、日本は交渉なんかしていません

他国は2国間協議で丁々発止やりあっているのに、日本は蚊帳の外だった。

日本の交渉団メンバーは所在なさげに街中をぷらついたり、
近くのホテルでコーヒーを飲んで時間を潰すありさまだったんです。

アトランタ会合は猿芝居、つまりヤラセだった。

開催前から内閣府が 自民党議員や農業関係団体などに
「必ず決めますから、ぜひ現地入りしてください」と触れ回っていたんです。

おかしな話でしょう。

自動車の原産地規制をはじめ、新薬のデータ保護期間や農産品など、問題は山積みなのに。

前回のハワイ会合から2カ月足らず、たった2日間でまとまるなんて考えられない。

「大筋合意らしきモノ」をつくりたかった日本の
強い働きかけで形式的に集まっただけだったんです。


――アトランタ会合前に話はついていたということですか。

要するにシャンシャン総会だったんです。

閣僚会見後に行われた渋谷内閣審議官によるブリーフィングで、
内閣府と農水省が大量のペーパー資料を配布したことでも分かるように、
東京でお膳立てしてあったんです。

来夏の参院選での争点化を避けたい安倍政権は、一刻も早く「大筋合意」という形をつくって
予算をバラまき、批判の矛先をそらそうと焦っていた

それで、7月に開催された前回のハワイ会合ですべてのカードを切って
決着させようとしたんです。

ところが、思わぬ誤算が生じた。

乳製品の輸出拡大を狙うニュージーランドと自動車の原産地規制にこだわったメキシコです。

日本から見れば、最後の瞬間に会合をブチ壊され、米国はそれを止めようともしなかった。

結果、ハワイは見送り。

9月21~22日にサンフランシスコで日本、米国、カナダ、メキシコの4カ国が
自動車をめぐって協議した。

パニクった日本が折れて、部品の域内調達率を45%程度とすることになったのです。


――メキシコはなぜそこまで強硬姿勢を貫けたのでしょうか。

日本以外の3カ国は裏で握っていたとみています。

メキシコ政府の後ろにはカナダ政府がいて、さらにその後ろにはカナダ自動車労組(CAW)、
全米自動車労組(UAW)、米国の民主党――とつながっている。

つまり、メキシコの主張は米国案。

日本はイカサマ麻雀に誘い込まれたようなものだった。

だから、アッという間に決着し、アトランタ会合への流れができたんです。

――日本はカモにされたんですね。

メキシコ、カナダにもメリットがありますが、最も利を得るのは米国

米国の中小企業から部品をどんどん買え、ということなんです。

米国はアトランタ会合がスタートする前にキックオフパーティーを開いていたのですが、
その席でUSTR(米通商代表部)のカトラー次席代表代行は
「米国の中小企業のためには、世界の貿易協定に空白をつくってはならない」
「われわれは死に物狂いでTPPに取り組んでいる」
と強調していました。


TPPは対中国戦略の側面もある。

中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を創設して攻勢を強める一方、
米国の衰退は誰の目にも明らか

米国は何としても身内の仕組みが欲しい。

内容はともかくとして、形だけはつくっておこうと。

だからTPPは竜頭蛇尾で十分なんです。

日本にとってTPPは農業には大ダメージだけれど、
商工業は輸出増で潤うと思われているようですが、それは大間違いです。

日本企業の輸出が増えるのではなく、米国の中小企業が日本にどんどん輸出してくるのです。

日本政府が外国企業の活動を後押しすることも取り決められています。



会見で「おめでとう」と言った日本メディア

――日本の大マスコミはそうした情報を一切伝えず、お祝いムードに加担しています。

閣僚会見の質疑で「おめでとうございます!」と切り出した日本のメディアにはあきれました。

その時点ではロクに情報を得ていなかったはずです。

政府は交渉内容を明かそうとしなかったし、会合の会場は出入り禁止だった。

渋谷審議官のブリーフィング資料でようやく概要が分かった程度でしょう。

そもそも、日本では「大筋合意」に達したと報道されていますが、それ自体も怪しいものです。

〈大筋合意したのか?〉と問われたUSTRのフロマン代表はイエスともノーとも答えず、
言葉を濁していた。 共同宣言もありません。

それもそのはずで、貿易協定が一変する重要な会合だったにもかかわらず、
3カ国は代理出席だった。

大筋合意することに合意したというのが真相に近いという感触です。


――日本からむしり取ろうとする米国も妥結を急いでいたのでは?

一言で言えば、TPPは米国が周到に仕掛けた罠なんです。

TPPは表部隊と裏部隊がワンセット。

表のTPPと裏の2国間協議は一体化されていて、TPPが発効しなくても
2国間協議の合意事項は効力を発する仕組みになっている
んです。


米国はTPPがどう転んでもオイシイ思いができる。

渋谷審議官の会見で配布されたペーパーにも記してありますが、
日米間はあらゆる分野で交換文書をまとめている

例えば、自動車の非関税措置はTPP発効までに実行することになっています。


――日米並行協議ですね。いつの間にそんな不平等条約を押し付けられたのですか。

安倍首相は野党時代はTPPに反対していました。

それなのに、政権に返り咲くと手のひらを返し、アベノミクスを進めるために
米国にTPP参加を頼み込んだ。

それで突き付けられたのが日米並行協議です。

米国は日本との間に経済問題が持ち上がると、必ず安全保障問題で攻めてきます

50年代に起きた日米貿易摩擦は「糸と綱を取り換えた」と言われた。

糸は繊維、綱は沖縄。

繊維で譲歩して、沖縄返還に至ったのです。

TPPでは 中国の尖閣諸島進出や 北朝鮮の核・ミサイル開発を ネタに揺さぶられ、
バンザイしてしまった。

どれも架空の話で、まるでタヌキの葉っぱですよ。

日本は米軍の力を借りなければ情報収集はおろか、自国防衛もままならない。

軍事オンチだからシーレーン
(海上交通路)の脅威をあおれば
たちまちヘタる、というのが米国の認識
なんです



――TPPはどこに向かっていくのでしょうか?

17年に誕生する米国の次期大統領が新体制を敷くまで進展しないでしょう。

TPPは参加6カ国以上、GDP合計が85%以上という条件を
クリアしなければ発効できず、日米のどちらが欠けてもパーです。

これから事務レベルで内容を詰め、2~3カ月以内に最終的な協定案をまとめて署名する。

その後、議会で批准する手続きを踏まなければなりませんが、
米国は署名90日前に議会への通知を求められる。

急ピッチで作業が進んだとしても署名は来年1月。

経済効果などの調査もありますから、審議入りは2月以降でしょう。

その頃は大統領選の予備選挙が本格化していて、TPPどころではありません


――有力候補とされる民主党のヒラリー・クリントン前国務長官や
  バーニー・サンダース上院議員は反対派。
  共和党のドナルド・トランプ氏も猛批判しています。

過去にも、国連の前身の国際連盟や40年代のITO(国際貿易機構)など、
主導した米国が議会に拒否されて参加しなかった例はいくつもある。

米国はTPPにこだわる必要がありませんから、発効しない可能性が高いとみています。

しかし、日本は日米並行協議を背負わされてしまった。

全産業がリスクにさらされ、国のあり方そのものが変容する危機に直面している
のです。


▽すとう・のぶひこ 1945年、中国・大連生まれ。
慶大大学院博士号取得(経済政策)。伊藤忠商事、東海大教授、
テレビキャスターなどを経て00年、民主党公認で衆院選初当選。
12年まで3期6年務める。共著「私たちはなぜTPPに反対するのか」など。