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徽宗皇帝のブログ

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コバニのISIS敗北と「ロジャバ憲法」
藤永茂博士の「私の闇の奥」から転載。
中東は今や騒乱の巷だが、その中にも新しい秩序の芽は生まれているようだ。しかも、このロジャバ諸県の話は欧米の紐付きの秩序ではなさそうだ。
藤永茂博士も言うように、この「ロジャバ諸県の憲法」は素晴らしい内容だ。
このクルド人が中心となった自治区は、今後の中東情勢にも関わってくるだろう。つまり、下記記事にあるように、トルコからISISへの物資や補充兵の輸送が行われる際に、ロジャバ諸県を通っていくことが困難になり、ISISの兵站に差し障りが出てくるわけだ。そのうち、米軍の空軍機がISISへの援助物資を投下するのではないか。実は、それは既にあったのだが、その時は「誤って」だ、と強弁していた。(嗤)
私は昔から、トルコは中東における「西側代理人」ではないかと疑っていたのだが、最近はそれが確信になっている。



ロジャバ革命(1)

2015-02-04 22:15:03 | 日記・エッセイ・コラム
 日本人人質とその殺害の事件をめぐって、イスラム国について、マスメディアに多数の専門家が登場して盛んに語っていますが、彼らが知っていることをそっくり我々に告げてくれているわけではありません。ある筈がありません。
発表媒体である新聞、テレビ局、雑誌などに応じて、その道の専門家たちは、情報伝達の自己規制を見事に行っています。それは、自分に“お声が掛からなくなる”ことを避けるための心がけに発します。「それを言っちゃあおしまいよ」にならないための処世術です。
 「ロジャバ革命」と呼ばれる政治的状況の展開はその顕著な一例です。それを、その事実と意義をはっきり詳しく我々に告げようとする専門家は一人も見当たりません。
 シリア北部、トルコとの国境に近いコバニの町とその周辺で、イスラム国はその発祥以来初めての決定的な軍事的敗北を喫しました。コバニの死闘をスターリングラードの死闘と並べる声さえ聞こえてきます。そして、その勝利の原動力は女性戦士たちであったのです。イスラム国の軍隊に立ち向かったクルド人部隊に女性兵士も多数加わったというのではありません。男性部隊(YPG)と女性部隊(YPJ)が肩を並べて共々に闘ったのです。コバニの勝利に象徴される「ロジャバ革命」が女性革命だとされる一つの理由がここにあります。もし、「ロジャバ革命」のこの重要な本質が、専門家たちによって広く世に伝えられたならば、世界中の本物のフェミニストたちは歓呼の声を上げるに違いありません。
 いまイスラム国を称する勢力は2013年から特にイラクで活動を顕著にしてきましたが、それが激化したのは2014年に入ってからで、私たちの意識もこの辺りで急に高められます。米国の傭兵であるイラク政府軍は烏合の衆で大して役に立たず、米国は、2014年の夏以降、イラク内でイスラム国に対して空爆を開始しましたがあまり効果が上がらず、イスラム国の支配地域は拡大を続けています。イスラム国がシリアの東北部のラッカ県を制圧した後は、シリア国内でもイスラム国に対する空爆を始めました。イスラム国はイラク北西部の大部分を支配下に収めていましたが、首都バグダッドの占領には向かわず、その矛先をクルド系住民の多いシリア北部のトルコとの国境に近いコバニ(アインアルアラブ)の町(人口約4万5千人)に向けました。それにははっきりした理由があったのです。シリア北部のトルコとの長い国境線あたりに住むクルド系住民を壊滅させてシリア内のイスラム国支配地域とトルコとの交通を確保すれば、トルコからの武器やイスラム国軍隊に参加する外国人の流入が容易になるからです。2014年9月、対「イスラム国」で米国との共闘を約束した中東諸国の中に、ヨルダン、エジプトとともにトルコも含まれていたのですが、トルコの対「イスラム国」政策は極めて自己中心主義的です。もともとシリアのアサド政権を快く思わないトルコのエルドアン首相の政権は2011年4月に始まったシリア騒乱で一貫して反シリア政府勢力を支持し、武器などの供給を盛んに行って来ました。その支援がイスラム国の急激な成長を促したことに否定の余地はありません。さらにエルドアン政権は国内のクルド人もシリア内のクルド人も居なくなってしまえば良いと考えていましたから、コバニでイスラム国軍隊と闘うクルド系住民を軍事的に助けるなどもっての外で、むしろ、トルコ国内のクルド人がシリア側にある同胞に軍事的援助を与えることを厳しく阻止していました。それにも関わらず、クルド系住民の軍隊が4ヶ月の死闘に耐えて遂にコバニの町から凶悪なイスラム国軍隊を追い出した最大の理由は、どうしても彼らが理想として掲げる新しい世界を実現したいという、そのためには死をも恐れない熱い思いに燃えていたことにあります。では、クルド男女の戦士たちが命をかけて建設しようとしている新しい社会、新しい世界とはどのようなものなのか。それを端的に示す立派な憲法がすでに宣言布告されています。正確には憲法草案と見るべきものでしょうが、英訳版は普通の文面で20ページほどの長さ、95の条文から成っています。その「前文」を読んでみましょう。

http://civiroglu.net/the-constitution-of-the-rojava-cantons/

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The Constitution of the Rojava Cantons

Preamble

We, the people of the Democratic Autonomous Regions of Afrin, Jazira and Kobane, a confederation of Kurds, Arabs, Syrics, Arameans, Turkmen, Armenians and Chechens, freely and solemnly declare and establish this Charter.

In pursuit of freedom, justice, dignity and democracy and led by principles of equality and environmental sustainability, the Charter proclaims a new social contract, based upon mutual and peaceful coexistence and understanding between all strands of society. It protects fundamental human rights and liberties and reaffirms the peoples’ right to self-determination.

Under the Charter, we, the people of the Autonomous Regions, unite in the spirit of reconciliation, pluralism and democratic participation so that all may express themselves freely in public life. In building a society free from authoritarianism, militarism, centralism and the intervention of religious authority in public affairs, the Charter recognizes Syria’s territorial integrity and aspires to maintain domestic and international peace.

In establishing this Charter, we declare a political system and civil administration founded upon a social contract that reconciles the rich mosaic of Syria through a transitional phase from dictatorship, civil war and destruction, to a new democratic society where civic life and social justice are preserved.

ロジャバ諸県の憲法

前文

我々、クルド人、アラブ人、シリア人、アラム人、トルコ人、アルメニア人、チェチェン人の連合体である、アフリン、ジャジーラ、コバネ三県の民主的自治区の人民は、率直かつ厳粛にこの憲章を宣言し、制定する。

自由、正義、尊厳、そして民主主義を求め、平等と環境的持続可能性の原理に導かれて、この憲章は、お互いの平和な共存と社会のすべての要素の間の理解に基づく新しい社会契約を宣言する。それは基本的人権と自由を擁護し、人民の自決の権利をあらためて確認する。

この憲章の下、我々この自治区の人民は、すべての人々が公共生活で自由に自己表現できるように、和解、多元的共存、民主的参加の精神で一致団結する。権威独裁主義、軍事主義、中央集権、公事への宗教的権威の干渉から自由な社会を建設するために、この憲章はシリアの領土的一体性を認め、国内的また国際的平和を維持することを強く願うものである。

この憲章を制定するにあたって、我々は、独裁政治、内戦、破壊から、市民生活と社会正義が保護される新しい民主的社会への遷移の局面を経て、シリアの豊かなモザイックを調和させる社会契約に基づいた政治的システムと市民行政を布告する。

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 何とまあ、惚れ惚れとする内容ではありませんか。これに反対を唱えるのは、一神教の神への信仰を暴力的に強制しようとする狂的宗教信者以外にはありますまい。世界のあらゆる場所にこの憲法前文の精神が広がれば、地球の春がやってきます。
 前文の始めのところにあげられている3つの県(cantons)は、地図で見ると、トルコ・シリア国境線に沿って東西に飛び石的にならんでいますが、このあたりには3~4百万人のクルド系住民がもともと住んでいて、その地域がRojava cantons(ロジャバ諸県)と呼ばれているのだと思われます。ですから、このロジャバ革命という社会運動には百万のオーダーの人々が参加していることになります。革命発祥は2011年、アラブの春の年です。次回には、この瞠目すべき新革命の詳細の話を始めます。

藤永茂 (2015年2月4日)

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