8月14日から続いていた東北道・佐野サービスエリア(SA)のストライキ騒動が急展開を見せた。


【写真】現場復帰が伝えられた9月19日の会合。涙ぐむ従業員も…


 佐野SAのフードコート、レストラン、売店の運営を行う「ケイセイ・フーズ」を不当解雇された加藤正樹元総務部長(45)と、ストライキを続けていた従業員ら約60名が、職場復帰することが「週刊文春デジタル」の取材で分かった。一部の従業員は既に9月22日から順次、復職している。お盆真っ只中のストライキ開始から39日、前代未聞の事態は大きな節目を迎えた。



スト終結が決まった佐野サービスエリア ©文藝春秋

長期化の様相から一転

「週刊文春デジタル」では、復職決定までのストライキの動きを、従業員たちに密着しながら取材を続けていた。


 佐野SAは、ご当地ラーメンの「佐野ラーメン」が人気で全国区となり、年間利用者数は約170万人に上る。


 しかし、運営会社ケイセイ・フーズの経営危機を発端に、8月上旬に売店の店頭から商品がなくなる事態が発生。さらに、同社の岸敏夫社長が加藤氏を解雇するなど人事を巡る対立が生まれ、8月14日未明から9割にあたる従業員がストライキを敢行していた。かき入れ時のお盆期間にフードコート、レストラン、売店の営業が突如ストップする事態となっていたのだ。



 この状況に、ケイセイ・フーズは、従業員側に「あなたたちの行為はストライキとして認めていない」「(ストライキによる)損害賠償を請求する」と主張。さらには、ストに突入した従業員を余所に、関連会社の従業員や日雇いスタッフを集めて、SAの各部門に配置し、8月30日に営業を再開。ストライキは長期化の様相を呈していた。

目を潤ませ、握手し合う従業員たち

 そんな中、復職できることが従業員に知らされたのは、9月19日のことだった。


 連日のように従業員側の会合が開かれていた佐野市内の会議室。この日の会合で、険しい表情の従業員たちを前に、組合の中心人物だった加藤氏は目を真っ赤にしてこう言ったのだ。


「やっとここまできました……。皆さんに初めて言います。安心してください」


 1カ月を超えたストライキに、解決の突破口が見えた瞬間だった。


 加藤氏の言葉に、会議室には割れんばかりの拍手が沸き起こった。従業員の顔からは笑みがこぼれ、目を潤ませる女性、握手を交わす男性もいた。あるベテランの男性従業員は記者に対し、声を震わせながら語った。


「まずはストライキ前と同じ状況に、一歩ずつ焦らずに戻したいという気持ちだけです」


都内でデモも計画されていた

 ストライキ中の従業員に給与を支払うために、加藤氏は自費で準備した1500万円を組合に供託していたが、その資金が底を尽きてしまうのが9月20日あたりだった。さらに、21日からの三連休には、膠着した状況を打開しようと、東北道を管轄するNEXCO東日本本社(東京)前でのデモも計画されていた。実際に、従業員たちはデモで使う手作りのタスキやチラシ、ノボリまで用意していた。そんな追い詰められた状況に届いた朗報だった。


 ストライキ終結の経緯について、加藤氏が説明する。
 
「ストライキ開始後、佐野SAの現場を取り仕切っていたのは、預託オーナー商法で社会問題となった企業の関係業者でした。その業者がサービスエリアのスタッフを募集していた。社会問題になった業者に、私たちの職場を“占拠”されたのです。彼らの豊富な資金力で持久戦に持ち込まれ、勝ち目はなくなりかけました。


 そこまで追い込まれましたが、最後まで訴え続けたのが、サービスエリアを監督するネクセリア東日本とケイセイ・フーズが取り交わした契約にある、『再委託禁止』という項目についてです。『今回の募集はこの項目に抵触する』と、私は訴えてきました。(※ネクセリア東日本は東北道を管理・運営するNEXCO東日本のグループ会社でケイセイ・フーズに対して店舗を貸与している)


 すると、関係者を通じて経営側から『岸社長ら現経営陣が退陣し、新たな社長となる。9月22日に戻ってきてほしい』という連絡を9月17日に受けました。にわかには信じられませんでしたが、実際に戻ることができた。これがおおよその経緯です」



 この動きを受けて、従業員の一部は、9月22日の本格的な復帰に向けた準備のため、その4日前の18日深夜、久し振りに職場の佐野SAへ戻った。


 売店、ホール、厨房、軽食の各部門のリーダーたちは、実に35日ぶりに職場に立って、現場の状況を確認。復帰することになる連休中に必要な商品、食材の発注を済ませ、さらには10月からの消費増税の対応などを話し合った。

会社側が突きつけた一つの条件とは

 しかし、ケイセイ・フーズ側は、全従業員の復帰に、ある条件を提示していた。それは、加藤氏の辞職である。


 加藤氏は自身の処遇と今後の展望について、記者に胸の内を明かした。


「業務の引き継ぎや消費税対応などもあり、まずは従業員の皆さんと一緒に戻り、最低限営業ができる状態に戻したいと考えています。その先のことはわかりませんが、会社の財務状況に問題がないことを確認し、現在取引停止中の取引先の皆さんに再開をお願いしたい。できるだけはやく、営業を正常化させたいです。


 お客様には大変ご迷惑を掛けました。これは経営側だけでなく、私たち従業員もお詫びしなければなりません。でも、このストライキ中、今まで多忙のために、ろくに話も出来なかった従業員たちが、連日のように会合を開き、研修や準備を続け、スタッフ間の結束が固まった。迷惑をお掛けした分、今まで以上の接客でお客様をお迎えしたいです」



 佐野SAでは、業務の引き継ぎや納品作業などを順次進め、営業が正常化するのは9月24日になるという。


 本格的な復帰を前に、ある女性従業員が語る。


「お盆から始まったストライキですから、売り場はまだ夏仕様のままなんです。いち早く現場に戻って、秋仕様の売り場に切り替えて、気持ちも新たに、たくさんのお客さんを迎えたいと思っています」


(「週刊文春」編集部/週刊文春)