社会学者でフェミニスト(女性解放論者)として知られる上野千鶴子氏の発言をめぐってネットで炎上騒ぎとなっています。上野氏が炎上というと保守系の人から攻撃を受けていると短絡的に考えてしまいますが、今回はそうではなく、本来なら上野氏の支持者であるはずのリベラル系の人達からも批判されています。上野氏の発言のどこに反応しているのでしょうか。

世代間論争と移民問題

 上野氏は中日新聞とのインタビューで、人口が減少し、衰退していく日本社会について「みんな平等に緩やかに貧しくなっていけばいい」と発言しました。上野氏は、人口減少を食い止めることは不可能であり、人口を増やすには移民を受け入れるしかないが、日本で移民政策を実行するのは無理であると主張。このまま貧しさを受け入れるしかないと結論付けています。炎上ポイントは「貧しくなればよい」という部分と「移民は無理」という部分の2つに分かれるようです。

 「貧しくなればよい」という発言については、主に世代間論争的な話になっています。若い世代の人が、上野氏らの世代(上野氏は現在68歳)に対して「自分達だけ豊かな時代を謳歌しておいて、後は貧しくなればよいというのは無責任だ」と批判する図式です。「移民は無理」という部分に対する批判は、主にリベラル系の人たちから寄せられています。移民を拒否するかのような保守的な発言はケシカランというわけです。


 上野氏はガチガチのリベラル系とみなされている人物ですから、本来なら「移民を受け入れ、多様な価値観を許容する豊かな社会をつくりましょう」という趣旨の発言をするだろうと多くの人は想像します。

 しかしインタビューでは、「皆で貧しくなればよい」「日本では単一民族神話が信じられてきた」「多文化共生に耐えられない」など、かなり突き放した、皮肉めいた発言のオンパレードでした。

 日本は物質面では近代化を達成しましたが、精神面では前近代性を色濃く残した未熟な社会です。上野氏の発言を好意的に捉えれば、こうした状況に嫌気が差し、多少投げやりになってしまったのかもしれません。

日本が貧しくならないための問題提起

 発言の是非はともかくとして、客観的に見た場合、今の日本人は(無意識的に)上野氏が主張するような「皆で貧しくなる」道を望んでいるように映ります。人口減少という避けられない状況を目の前にして、これを改善するための処方箋(女性の社会参加、移民受け入れ、雇用の流動化、企業のグローバル化・IT化)についてはすべて消極的です。

 確かにこのままでは、本当に皆で貧しくなるしか選択肢がなくなってしまいます。上野氏の真意は不明ですが、今回の発言に関しては、日本が貧しくならないための問題提起と捉え、皆で議論するきっかけにした方が建設的でしょう。

(The Capital Tribune Japan)